135.勇者、3日目の競技に挑む
『それではぁ、対校戦3日目の競技を説明しますのでぇ、みなさん闘技場のグラウンドに集まってくださぁい』
俺は理事長のアナウンスを、王立の控え室で聞いた。
「よし、みんな……勝ちに行こう!」
ガイアスが立ち上がってみんなを見渡す。
俺たちはうなずいて拳を付け合わせる。
「がいあす少し頼もしくなったです」
義弟ミカエルが、ガイアスにそういう。
「そ、そうかな……? なんだか照れるな」
「でもあにうえには遠く及ばないです!」
「はいはい、そんなことボクが一番わかってるって。ほら、行こうか」
俺たちは控え室のドアを開ける。
「やぁ、諸君」
「お、アンチ」
正面の控え室は、帝国のものだったのだ。
彼もまた他のメンバーを引き連れて、今からグラウンドへ向かうのだろう。
俺たちはともに廊下を歩く。
「これで最後かー。長いようで短かったなぁ」
「濃密な3日間だったよ。特に君たちのせいでね」
やれやれ、とアンチがため息をつく。
「意気込みはどうなの?」
ガイアスの問いかけに、アンチは自信満々に言う。
「万全だよ! 勝って聖杯を手に入れるのは、我ら帝国のメンバーに決まっているじゃないか!」
微塵も恐れている様子を、アンチは見せない。
堂々と胸を張って言う。
「皆最高のパフォーマンスを発揮してくれている。今の我らが負ける要素は一つたりともないと言えるね」
「「「「アンチ様……!」」」」
アンチはメンバー兼嫁達を見て、しっかりうなずく。
「気負うな諸君、勝つのは我らだ。ゆくぞ!」
「「「「はいっ……!」」」」
アンチが真っ直ぐ前を向いて歩く。
その背中を見た他のメンバー達の顔から、緊張の色が消えていた。
「……やるじゃねえか、アンチ」
俺は彼にだけ聞こえるよう、小声でつぶやく。
「……なんのことかね」
「……ほんとはおまえが一番不安なんだろ?」
「……君は何でもお見通しなんだね。さすがだ」
アンチが苦笑する。
そう、ようするに部下を不安がらせないために、彼は内心の動揺をおもてに一切出していないだけ。
「……本当は怖くて仕方ないさ」
「……負けることがか?」
「……それ以上に、彼女たちが無事に試合を終えられるかどうかがだよ」
アンチの部下達は確かに(この世界基準で言えば)そこそこ強い。
だが他校の生徒と比べれば数段実力で劣っている。
3日目は戦いがメインだと聞いた。
つまり、ケガを負う危険性が高い。
「……彼女たちはこの国の次期王妃たちだからね。国の宝だ。失いたくない。彼女たちが傷付くくらいなら棄権した方がましだ」
「……負けて聖杯を取られたらどうするんだ?」
「……簡単さ。来年また取り返せば良いだけの話だろう?」
なるほど、部下の命が最優先って訳だ。
次期皇帝は、なかなか良いやつだな。
「……アンチ、お前ほんといいやつだな」
「……君には負けるさ。こうして敵に塩を送っているのだからね。僕の緊張をほぐしているのだろう?」
すっかり見抜かれているみたいだった。
「心遣いには感謝する。しかしこの先では君はライバルだ。手心は加えなくて良い」
俺たちは闘技場への入り口までたどり着いた。
真剣な表情のアンチに、俺は言う。
「わかってるよ。がんばれな、キャプテン?」
アンチもまた笑ってうなずく。
「さて諸君! 勝ちに行こうか!」
「「「「はいっ! アンチさま!」」」」
先に帝国が入場する。
俺たちはその場で円陣を組む。
「さてキャプテン、意気込みは?」
「ないよ。気負わずともボクらは強い。みんな、いつも通りで行こう!」
「「「「おうっ!」」」」
ガイアスを先頭に、俺たちも闘技場へと入場する。
すでに観客は超満員だった。
「アンチさまー!」「がんばれーアンチ様-!」「帝国の意地を見せろー!」
大歓声に包まれているが、大半は帝国の応援だった。
まあなんだかんだホームだし、それにこのメンツで現在2位と大健闘しているしな。
俺たち選手は、グラウンド中央に整列する。
理事長のルシフェルが、気色の悪い笑みを浮かべながら、俺たちの前にやってきた。
「旧兄上はいつ見ても不健康そうで気持ち悪い顔してるです」
「ミカやんほんまお兄さん嫌いなんやなー」
こほん、と理事長が咳払いをする。
『それでは、3日目の競技を説明しまぁす!』
ルシフェルが魔法で声を反響させる。
『3日目は【宝探し】をしてもらいまぁす!』
「「「「宝探し?」」」」
なんか急によくわからん競技が始まったな。
『ルールは単純。これから皆さんには【とある場所】へ行って、そこに隠れている宝をさがしてもらいます。より多くの宝を取ってきたほうが高い順位となりまぁす』
「とある場所って……こんなグラウンドのどこで宝探しなんてするのかね?」
アンチの疑問はもっともだ。
『そこはご安心を。特別な会場を用意しましたのでぇ。頭上をご覧管さぁい』
「上……って、なんだねあれはぁあああああああああああああ!?」
見上げると、そこには巨大な城が宙に浮いていた。
「で、でけえ!」「なにあれお城!?」「空飛んでないかどうなってるんだぁ!?」
観客達とアンチがびびりまくっていた。
『宝探しの会場はあそこになります。制限時間内で、あの天空城に隠してある宝を取ってきてもらう形になります』
「な、なるほど……しかし宝なんてもって歩くとなればかなりの荷物になるんじゃないかね?」
『そこはご安心を。皆さんにプレゼントがあります』
ぱちん、と理事長が指を鳴らす。
俺たちの首に、突如としてペンダントが出現した。
「なにかねこのペンダントは?」
『それには無限収納の魔法が付与されていまぁす。手に入れたお宝はそこペンダント内に収納できるのでぇす』
「む、無限収納って……めちゃくちゃレベルの高い付与魔法じゃないかね!」
「え、そんなことないぞ? 普通にできるし」
「そりゃ君はね!?」
理事長はニヤニヤしながら言う。
『ユリウスくんに協力して作ってもらいましたぁ。さすがですねぇ』
「旧兄上、御託は良いからさっさとルール説明するです?」
はいはい、と理事長が続ける。
『制限時間は3時間。そのあいだに多くの宝を見つけてもらいます。宝にはそれぞれ希少価値に合わせてポイントが割り振られています。試合終了時に、より多くのポイントをもっていたひとが勝ち、と大枠はこんなルールです』
「なるほど……試合終了時に、ね」
「あにうえ? どーしたです?」
「いや、なかなか荒れそうだなって思っただけだよ」
『さすがユリウスくん。よく気づきましたねぇ』
確かにミカエルの言うとおりだ。
理事長の笑みは、いびつで気色が悪い。
『この宝探し、武器の持参も魔法の使用も許可していまぁす』
「なんでかね?」
『なかにはお宝を守る強力な守護モンスターがいるからですよぉ』
モンスターとの戦い、そして生徒同士の宝の奪い合い。
3日目は予想通り、かなり派手にやり合うことになるみたいだ。
『このあと各校それぞれランダムに、城の中へ転送しまぁす。転送位置はバラバラなので、合流してもよし、個人個人で宝を探すもよし。作戦はお任せしまぁす』
「ば、バラバラで転送って! もし力を持たない生徒がひとりでモンスターの中に残されたらどうなるのかね!?」
アンチが真っ先に抗議する。
『そのときはギブアップと叫んでください。すぐに城の外へ転送させますのでぇ。でもその際は宝探しにもう参加できなくなるので、よぉく考えてギブアップくださいねぇ』
それでも、アンチの表情は晴れなかった。
「アンチ様、大丈夫です!」
「ノット……しかしだね、危険すぎる……」
チームメンバーの一人、ノットが覚悟の決まった顔でうなずく。
「私たちは次期皇帝の女! 生半可な覚悟でここに立ってはいません!」
「「「そのとおりです! アンチ様!」」」
女子達がうなずく。
「アンチ様、指示をください。作戦を我らに与えてください。私たちはあなたの指示通りに動きます……勝つために!」
アンチは不安そうな顔を、すぐさま切り替える。
「わかった、みなを信じよう」
なんだかんだ、立派にキャプテンしているぜ。
『説明は以上となりまぁす。細かいルールの書かれた本と、城の地図をキャプテンに配布しまぁす。1時間後、転送を行いますのでぇ、よーく作戦を練ってくださいねぇ』
こうして、3日目、【宝探し】はスタートするのだった。
【※お知らせ】
別で連載中の「不遇職【鑑定士】が実は最強だった」の書籍版が、10月2日に発売されます!
落ちこぼれの兄が好きな方ならご満足いただける内容となってますので、よろしければぜひお手に取ってくださると幸いです!
【作品URL】
https://ncode.syosetu.com/n5242fx/
「不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜」