134.勇者、他校の校長を蹴散らす
対校戦3日目。
今日で長かったようで短い対抗戦は終わる。
朝、選手たちは競技場へとやってきていた。
選手控え室にて。
「あにうえ~。もー終わりです?」
ソファに寝そべる義弟ミカエルが、不満げに言う。
「もっともっとバトルしたいですー!」
義弟は俺の膝の上に頭を乗っけて、ぱたぱたとバタ足する。
「今日は思う存分バトルできるからさ」
「そーです?」
ガイアスがうなずいて言う。
「3日目は競技っていうより、剣と魔法を使った戦闘がメインだよ」
今まではどっちかというと競い合う種目が多かった。
だが最後は力と力のぶつかり合いだ。
「わーい! 思う存分ぶっとばせるですー!」
「ミカやんうれしそうやな。なんでや?」
サクラが問うと、ミカエルは目を輝かせていう。
「だっていっぱい活躍すれば、あにうえに褒めてもらえるです! やる気でまくるですー! ね、がいあす?」
「な、なんでボクに同意を求めるんだよ……」
ガイアスは目をそらしながら言う。
「なんだ褒めて欲しいのか?」
「ふんっ、別に。兄さんに褒めて欲しいなんて全然思ってないからね」
「え、そうなのか」
「ユリウスはん、ちゃうちゃう」
「がいあすほめてほしがってるです。ツンデレおつです」
「余計なこと言うなふたりともっ!」
まったく、とガイアスがため息をつく。
「結局ちゅーもまだやったしなぁ」
「そんなこと覚えてなくっていいんだよ!」
そう言えば1日目の最終競技の時に、ご褒美が欲しいって言っていたな。
「なんだ、ご褒美のチュー欲しいのか?」
「いらないっていってるだろ! ばか兄さん! ばかっ!」
ぽかぽか、とガイアスが俺の肩をたたく。
「痴話げんかやなー」「がいあすは生まれてくる性別間違ってるです?」「ふたりともなかいいね!」
まったく、とガイアスが一息つく。
「で、キャプテン。なにか3日目に向けてみんなに言うことないのか?」
「そうだね……」
ガイアスにみんなの注目が集まる。
「3日目はより一層激しい戦いに……そう、戦いになる」
戦う以上、相手を傷つけることも、相手に傷つけられることもある。
「どんな展開になるかはわからない。けど……絶対に一人で無理するのは駄目だよ」
弟は全員を見渡してハッキリ言う。
「一人で全部を背負おうとして、一人だけが傷付いたり悲しんだりするのは駄目だ。ボクらはチーム、お互い助け合ってこその仲間だからね」
こくり、とみんながうなずく。
「よし……3日目、頑張ろう!」
「「「「おう!」」」」
ガイアスはホッと吐息をつく。
なんだかんだでリーダーも板についてきたな。
うん、さすが俺の自慢の弟だ……と思っていたそのときだ。
「ん?」
「どうしたの、兄さん?」
「んー……ちょっとトイレ」
俺は王立の控え室を出る。
目的地、皇国の控え室へと向かいながら、俺は五感を闘気で強化する。
視力・聴力を超強化することで、遠くの、部屋の中の様子が見える。
『何をやっておるのだこのバカどもが!』
神聖皇国の控え室では、5人の選手と、そして見慣れぬ男が立っていた。
「たしか皇国の校長……マクスウェルだったか」
マクスウェルはこめかみに青筋を浮かべて、生徒達を叱りつけている。
『何を青春ごっこしておるのだ貴様ら! 自分たちの使命を忘れたか!』
校長がサイドテーブルを蹴飛ばし、カズマを指さす。
『貴様らの使命は聖杯の奪取! そのため邪魔な悪魔たちなど殺せば良いと言ったではないか! なのになぜ! 東部の悪魔も、暴虐の黒悪魔も殺していないのだ……!』
最後のは俺のことだな。
そういうあだ名がついている。
しかしあの校長は俺を悪魔だって思っているらしい。
惜しいな、と思う。
まあこの平和な時代の人間じゃ知らないだろうしな。
『3日目! 今日こそは邪魔なものたちを消せ! いいな!?』
『それは……できません!』
マクスウェルの命令を、しかしカズマが、真っ向から否定する。
『ユリウスくんやダンタリオンくんたちは、確かに悪魔かも知れません! しかし! 彼らは対抗戦に参加する選手、競い合う仲間です!』
『仲間……だとぉ……?』
『はい! おれは仲間を故意に傷つける気はありません! たとえ悪魔だろうとなんであろうと!』
カズマはいつだって正々堂々としている。
マクスウェルはフンッ……! と小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
『ばかばかしい! 悪魔など人間以下の害虫だ。それを一匹残らず掃除してやるのが我々の使命だ』
『彼らは害虫などでは決してありません! 酷い侮辱です! 彼らに謝ってください!』
ビキッ! と校長が眉間に深い溝を作る。
『……調子に乗るなよ異世界人。貴様らは誰のおかげでここに立っていられているというのだ? あぁ!?』
突如、カズマ達がその場に崩れる。
『う、動けねーっす……』
『忘れるなよ、貴様らは私の駒であることを! 逆らえば命を奪うことは造作も……』
俺は部屋の前に到着する。
「失礼しまーす」
俺は壁を殴って中に入る。
破片が吹き飛び、そのひとつがマクスウェルにぶち当たる。
「ふぎゃっ!」
苦しんでいたカズマ達が、元の状態へと戻る。
「ユリウスくん……」
「よっ。大丈夫か?」
崩れ落ちてるカズマに、俺は手を伸ばす。
彼を引っ張って立ち上がらせる。
額に汗をかいており、だいぶ辛そうだった。
どうやら霊的な契約を、この校長と結んでいる様子だった。
「貴様なにものだ!?」
「え、王立の生徒だけど?」
マクスウェルは立ち上がり、俺を見て叫ぶ。
「そうか……貴様が暴虐の黒悪魔か」
「え、ただの一般人だけど」
「バカ言うな! 一般人がこの部屋にかけたあった情報遮断の防御結界をやぶれるわけがないだろ!?」
「え、あれ結界だったの?」
普通に外から情報丸見えだったし、がばがばすぎて逆に見せているのかと思ってたわ。
「……やはり悪魔。危険すぎる。ここで排除すべきだろうなぁ!」
バッ……! とマクスウェルが懐から杖を取り出す。
「校長! 彼はおれの大事な友達です! 傷つけるのはやめてください!」
「黙れ異世界人! 悪魔を殺すのは我らの使命!」
きぃいん! と杖の先に魔力が収束していく。
「【冥府魔道葬】!」
闇の極大魔法が発動する。
地面に闇が広がり、無数の触手が湧き上がる。
「冥府魔道へと落ちるがいい!」
触手が俺の体に巻き付くが……しかし、微動だにしない。
「てい」
ぺんっ! と手で払うだけで、触手は全て消えた。
「なっ!? そんなバカな!? 極大魔法を消し飛ばしただと!? いったいなにをしたのだ!?」
「え、普通にキモかったから手で払っただけだぞ?」
愕然とした表情を校長が浮かべる。
「ば、バカな……反魔法でもなく単に払っただけで消すなど……! 化け物が!」
「なぁカズマ。この程度の極大魔法しか使えないやつが、どうして偉そうにしてるんだ? お前らの方が全然強いのに」
ブチッ……! と何かがきれる音がした。
「貴様ぁ……! 調子の乗るなよぉお!」
校長は懐から結晶を取り出す。
「出でよ! 神の……」
「てい」
俺は一瞬でマクスウェルに近づいて、彼から結晶を奪うと、握りつぶす。
「ば、バカなぁあああああああ!? じ、【神結晶】を素手でくだくだとぉ!? 神の力で作られた結晶だぞ!?」
「え、そうなの? 割と脆かったけど」
目をむいてマクスウェルが震える。
「これで終わりか? おまえそんな程度なのに、自分より強い生徒達によく偉ぶれるな?」
「こ、の、図に乗るなよ化け物風情がぁあああああああああ!」
魔力で強化した拳で、俺に殴りかかってくる。
俺は足を払ってその腕を取り、軽く壁に投げつける。
「ほげぇええええええええええ!」
マクスウェルは回転しながら壁をいくつも突き破って、建物の外へと吹っ飛んでいった。
「さすがユリウスくん。見事な武術だったぞ!」
「そりゃどうも。てか、なんであんなのが幅をきかせているんだ?」
カズマは面目なさそうに頭をかく。
「おれたちにもおれたちの事情というものがあるのだ」
「なるほどな……意外と面倒なもん背負ってるんだな。手を貸そうか?」
ふるふる、とカズマが首を振る。
「いや、これはおれたちの問題だ。気持ちだけは、ありがたく受け取っておくよ」
「そっか。けど何か困ったことあったらすぐ言えよ。友達だからな」
カズマは目を丸くすると、しっかりとうなずく。
「ああ! わかった! 約束だ!」
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