133.勇者、ダブルデートする【後編】
今日は休養日。
俺は弟のガイアスと、東部連邦のダンタリオンとともに、帝都を散策中。
昼飯を食った後、アンチおすすめの喫茶店へとやってきた。
「お待たせしました! スーパー・ジャンボパフェです!」
店員が俺たちのテーブルに、ずんっ! と巨大なパフェを置く。
「す、すごく大きいね……兄さん」
きらん、とダンタリオンが目を光らせる。
「ガイアス様、今のセリフを、上目遣いで、できれば、もっと顔を赤らめて言ってくださいまし……」
「は? 何を言って………………は! や、嫌だよ! 絶対に嫌だからね!」
なんだか知らないがガイアスが顔を真っ赤にして首を振る。
「その表情、とてもいいです。さぁ! それでぜひ先ほどのセリフを! ユリウス様にさぁ!」
「誰が言うか! こ、こ、このド変態悪魔め!」
楽しそうにしている二人を見ていると、俺まで楽しくなってくるな。
ひょいひょい、とドデカいパフェを俺はすくって食べる。
「うめえな。さすがアンチが勧めるだけある」
「他にも美味いものやおすすめ観光スポットとか教えてくるし、いいやつだよね」
うんうん、と俺たちはうなずく。
3人でパフェをつついていると、俺はふと気づく。
「ガイアス、口にクリームついてるぞ」
「え? どこ?」
俺は指で弟の口元を拭って、それをひょいっと口に含む。
「ば、ばかっ! 急に何するのさっ!」
「え、おまえ何怒ってるの……?」
ガイアスは時たま、理不尽に怒ることがある。
「なぁダンタリオン、なんで怒ってるか、わかる?」
俺たちを見てなぜか拝んでいた彼女が、ニコッと笑って言う。
「ガイアス様は怒っていませんよ。ただ、急に触られてびっくりしただけだと思います」
「ほうほう」
確かに後ろから急に肩たたかれたら驚くもんな。
「それに人前でのスキンシップは人によっては恥ずかしく感じるものでございます」
「なるほどなぁ……ごめんな弟よ」
「い、いや……別に謝らなくっても」
ガイアスは彼女を見やる。
「その……フォローありがと、ダンタリオン」
「いえ、差し出がましいことをして申し訳ございません。それに……おふたりのいちゃいちゃを邪魔してごめんなさい♡」
「は、はぁ!? 別にいちゃいちゃなんてしてませんけどぉ!?」
ふんっ、とガイアスはそっぽ向いて、パフェを食べる。
「また怒ってるよ。カルシウム足りてないんじゃないのかおまえ?」
「ユリウス様、ガイアス様は怒っているのではなく照れているのですわ♡」
「ほー、そうなん?」
「違う!」
「え、違うの?」
「違う!!!」
うっとり、とダンタリオンが頬を染めていう。
「ああ……ツンデレガイアス受け……無自覚ユリウス攻め……腐腐腐……♡ 間近で濃厚なからみを見れて……昇天しちゃいそうですわ……♡」
「妙なこと言うなー! ばかっ! もう!」
プリプリと怒るガイアス。
「こういうときどう機嫌を取ればいいかな、ダンタリオンよ?」
「そうですねぇ……ベタにあーん♡ と食べさせるのはどうでしょう?」
「なっ!? なななっ! 何をバカなことを……!」
理屈はわからんが、彼女の言葉は信用に足りる。
俺はスプーンでパフェをすくって、ガイアスに向ける。
「ほれ、あーん」
「はぁ!? そんなこと絶対しないからね!」
「いいからほら、あーん」
「…………………………」
ガイアスは無言で口を開いて、俺が差し出したスプーンを、口に含む。
「おお、ダンタリオンの言ったとおり、すっかり機嫌直してくれたよ。あんがとな。あれ? ダンタリオン?」
彼女は目を閉じ、満足げな表情で天を仰いでいた。
「に、兄さん!? し、死んでる!?」
「いやまさか。悪魔は死ぬと体ごと消滅するから、それはないだろ」
「そ、そうなの?」
「おう、この世に痕跡1つ残せないんだよ」
ハッ! とダンタリオンが目を覚ます。
「申し訳ございません、ユリウス様。わたくし、尊死しそうでした」
「なにそれ……?」
「尊いお二人を見て満足して死ぬの略語ですわ♡」
「意味わかんないよ!」
ふぅ、とダンタリオンが額の汗を拭う。
「とても良いシーンごちそうさまでした。あとでおかずにさせていただきます」
「え、まだ残ってるだろ。ほら」
俺はパフェをスプーンですくって、ダンタリオンに差し出す。
「へ?」
「え、おまえもこうして欲しいんじゃないの? さっきからチラチラこっち見てたし」
かぁ~……とダンタリオンが、耳の先まで顔を赤くする。
「……ぁ、いや、ち、ちが」
「違うのか?」
「……そ、そうじゃなくて、その……あにょ……」
ダンタリオンはうつむき、もじもじと体をよじる。
「いらないのか?」
「あっ……」
物欲しそうな顔で、ダンタリオンが目を潤ませる。
「……ほしい、です」
「おう。ほら、あーん」
彼女は目を閉じて、胸の前で手を組み、口を開ける。
雛鳥のように小さな口に、俺はスプーンを差し込む。
もむもむ、と咀嚼し……ほぅ、と吐息をつく。
「……幸せすぎて、もうここで死んでいいくらいです♡」
「この程度で、死んじゃ困るって。なぁ弟よ?」
「そうだよ。明日も試合があるんだから」
ダンタリオンは寂しそうに目線を落として言う。
「そうですわね。でも……」
「「でも?」」
ふるふる、と彼女が首を振る。
「なんでもございません」
「そっかい」
俺たちはパフェを食い終わった後、会計を済ませて店を出る。
出店が立ち並ぶなか、俺たちはあちこち見て回る。
「弟よ、なんかほしいものないか? 買ってやるぜ?」
するとガイアスは、呆れたように言う。
「兄さん、こういうときは女の子にプレゼントを買ってあげるんだよ」
「へぇ、そういうもんなのか?」
「そーゆーもんなの」
「そっか。ダンタリオン、なんか欲しいものある?」
背後の彼女が慌てて首を振る。
「そ、そんな……! ユリウス様に買ってもらうなど! 恐れ多いです!」
「気にするなって」
「駄目だよダンタリオン。この人超が100個つくほど鈍感なんだから、自分からもっと甘えていかないと」
「で、でも……」
もじもじ、と彼女が身をよじる。
「欲しいんだってさ。ほら兄さん、ふたりで見てきなよ。あっちにアクセサリーの出店あったし」
ガイアスは俺の背中を押して、ダンタリオンと密着させる。
「ひゃっ……♡」
「ほら、いったいった」
ぐいぐい、と押しつけるガイアス。
ダンタリオンは目をグルグルと回している。
「おまえはいらないのか、アクセサリー?」
「ボクは男だってば。ばかっ」
俺はダンタリオンとともに、アクセサリーの出店へとやってきた。
「いろんなのがあるな」
指輪とかネックレスとか、どれもチープさは否めないものの、綺麗なものがおおい。
「どれがいい?」
「はひ……はひぃ……」
ダンタリオンが顔を赤くして目を回している。
俺は闘気を応用して、彼女に活をいれる。
「ハッ……!」
「落ち着いた?」
「は、はい……お見苦しいところをお見せしてしまい、もうしわけございません」
「え、普通に可愛かったけど?」
「うひゃんっ……!」
よくわからんが、さっきから奇声ばっかりあげるなこの子。
「ユリウス様は、わたくしの喜ぶことばかり言ってくださって……申し訳ないです。お世辞でも……本当にうれしい……です」
「お世辞じゃないって。ほら、これとか似合うんじゃね?」
俺はラベンダーの髪留めを手に取って、ダンタリオンに渡す。
闇色の彼女の長い髪に、よく似合っていると思う。
「……素敵な髪留め」
ダンタリオンが笑みをこぼす。
「これでいっか。おっちゃん、これくれ」
「へい、まいどっ!」
俺は金を払って、店主から髪留めを受け取る。
「そ、そんな! 買っていただくなんて!」
「いいって、気にすんな。それとも、俺からのプレゼント、もらってくれないのか?」
ダンタリオンは泣きそうな、しかし、どこか拗ねたように言う。
「……ユリウス様は、いじわるです。いつもわたくしの心を、無自覚に乱すのですから」
彼女は静かに微笑みを浮かべると、俺から髪留めを受け取る。
「ありがたく、頂戴いたします」
「おうよ、気に入ってくれて良かったよ」
俺は2人並んで、ガイアスの元へ向かう。
「兄さん、ちゃんと買ってあげた?」
「おうよバッチリ」
ダンタリオンは深々と、ガイアスに頭を下げる。
「ありがとうございます、ガイアス様」
「いや、気にしないで。良かったじゃん、兄さんからのプレゼントもらえてさ」
「はい……これを一生の形見として、死ぬときまで肌身離さずつけようと思います」
大げさなヤツだなぁ。
「ほら兄さん、髪留めつけてあげなさい」
「ほいよ。ダンタリオン、ちょっとそれかして」
「そ、そんな! 恐れ多い!」
「もう、いちいち恐縮しないでよね。兄さんが困るから。ほらさっさと渡す」
「は、はい……」
ダンタリオンが素直にうなずく。
顔を真っ赤にして、体をこわばらせている。
俺は彼女の前髪に、髪留めをつけてあげる。
「はい、終わりっと」
「さすが兄さん、いいセンスしてると思うよ」
恐る恐るダンタリオンが目を開けて、髪留めを手で触れていう。
「わたくし……うれし死にしそうです……」
「そう何度も死ぬ死ぬ言うなよー。おまえが死んだら俺は悲しいぜ?」
ダンタリオンは目をむいて、じわ……と涙を浮かべる。
「この無自覚タラシ。ジゴロ。そのうち刺されてもしらないからね。ふんだっ!」
感情の高ぶった彼女と弟を連れて、俺はそそくさとその場を去る。
うーん……乙女心はよくわからんな。
その後俺たちは、適当におやつくったり、出店で遊んだりした。
ややあって、夕方になる。
俺たちは帝都タワーという、見晴らしのいい展望台にやってきた。
観光スポットはすべてアンチに教えてもらったところを回っている。
「いい景色だな、ここ」
展望台からは、暮れなずむ帝都の街を一望できた。
黄昏色に照らされた海が遠く見える。
「綺麗だね」
「おう、おまえも綺麗だぞ」
「ぼ、ボクに言うなよっ。もうっ、兄さんってば本当にばかなんだからっ」
うーん、弟の艶やかな金髪に、夕日が反射して、綺麗だったのは本当だったのだがなぁ。
「本当に、おふたりは仲がよろしいのですね」
俺の隣で、ダンタリオンが微笑んでいる。
「おうよ。バリバリ仲良しだぜ。なぁ?」
「し、知らない! ばかっ!」
「そしてベッドでも仲良し……と。腐腐腐……♡」
「なっ!? へ、へ、へんなこというな、ばかー!」
ガイアスは俺たちから離れる。
二人きりになった俺とダンタリオンは、夕日を見やる。
「…………」
すっ、とダンタリオンが俺に手を伸ばしてきて、掴もうとする。
途中で躊躇してきたので、俺は彼女のほっそりとした手を掴んだ。
「意外と、強引なのですね?」
「え、そう? 嫌だった」
「いいえ……とてもうれしゅうございます♡」
夕暮れ時だからか、展望台にはあまり人がいない。
「……ユリウス様、ありがとうございました」
彼女が目を細めて、ペコッと頭を下げる。
「【最期】に……とても良い思い出ができました」
「【最後】、か。明日には対校戦、終わっちまうんだよなぁ」
みんなとずっとバトルしていたいのだが、しかしどんなことも、終わりというものがある。
「わたくしも、この時間が永遠に続けばいいのに……と思ってしまいます。わがまま、でしょうか?」
「そんなことないだろ。誰だって、楽しい時間がずっと続きゃいいのにって思うさ。けどそりゃ無理な話さ」
ダンタリオンは、表情を曇らせてうつむく。
「そう、ですわね……」
「そんな顔すんな。また来ようぜ」
え、と彼女が顔を上げる。
「よろしい、のですか?」
「おう、約束するよ」
俺は逆の手を彼女に差し出し、小指を向ける。
「約束だ。絶対にまたここで、一緒に夕日を見ようぜ」
彼女はじわり、と目に涙を浮かべる。
きっと明日の試合が、怖いのだろう。
対校戦3日目。
今まで以上に戦いは激化することが予想される。
明日の順位で、聖杯の行方が決定してしまうのだからな。
その不安を少しでも取り除いてあげられればと思っての行動だ。
「わかり、ました。ユリウス様」
ダンタリオンは小指を差し出して、俺と結び合わせる。
「約束、ですよ? 絶対の絶対に! 破ったら……悪魔のお仕置きしちゃうんですから!」
元気よく笑う彼女を見て、俺はホッとする。
「じゃ、そろそろあっちで待ちぼうけしてるガイアスんとこいくか」
俺がその場を離れようとすると、ダンタリオンが手を引く。
「あ、あの……ユリウス、様」
「おう。なんだ?」
彼女はパクパク、と口を開け閉めして、しかし首を振る。
「なんでもございません」
「気になるなー。言えよー」
ふふっ、とダンタリオンが笑う。
「乙女の秘密です♡」
「そっか。んじゃいくか」
俺たちは手をつないで、弟の元へと向かう。
「ユリウス様。この試合が終わったら、あなたに言いたいことがあるんです」
「え、なに?」
「もうっ、終わったらと言ったばかりではありませんか」
「それもそっか。じゃ試合後、楽しみにしてるぞ」
こうして、休養日は終わった。
明日は、対校戦3日目、最終日。
最期の戦いの火蓋が、切って落とされる。
【※読者の皆様へ お願いがあります】
「面白い!」
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「更新頑張れ!」
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面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちで全然かまいません!!!!!!!!
なにとぞ、よろしくお願いします!