132.勇者、ダブルデートする【前編】
俺たちは対校戦に参加している。
今日は、休養日。
試合は行われず、選手達はおのおの自由に過ごして良いとなった。
俺は帝都中央にある、噴水広場へとやってきた。
「ここに12時だったな」
「……兄さん」
「ん? どうした、弟よ」
俺のとなりには、弟のガイアスが呆れた顔で立っている。
金髪に青い目の美青年だ。
「……兄さん、ちょっと常識なさ過ぎない?」
「え? なんだよーいきなり」
「いや……だって、今日はダンタリオンと、その、デートなんでしょ?」
昨日の夜。
俺は東部連邦の主将、ダンタリオンから一緒に街を回らないかと誘われたのだ。
「え、デート? いやなに言ってるんだおまえ。ただふたりでお茶したり出店を見たりするだけだぞ?」
「それをデートっていうんだよ! もうっ! なんで兄さんのデートにボクも一緒にいかなきゃいけないわけ!?」
「え、でもおまえ昨日、自分も俺と一緒に帝都を見て回りたいって言ったじゃん」
「そ、それは……だって……兄さんが他の女とデートするって聞いたら、つい……」
「わからんやつだな。おまえもダンタリオンも俺と一緒に行きたい。なら3人で街を回れば良いだけの話じゃんかよ。何か不都合なの?」
ガイアスが口ごもるが、顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
「もうっ! 兄さんのばかっ! 鈍感! もう知らない!」
まあいつものことだと思って、特に気にせずにいる。
やがて、集合時間を1分過ぎた。
「もうっ! ダンタリオンは何やってるんだよ!」
「そうカリカリすんなよ。まだ1分過ぎただけじゃんか」
「自分から誘っておいて、兄さんを待たせるなんて……! まったく!」
「え、なに俺のために怒ってるの?」
「そうだ……違うよ! バカッ!」
べしべし、とガイアスが俺の頭を叩く。
本気で怒ってないだろう。
今の弟の本気なら、街1つ普通に吹っ飛ばせるしな。
「なんだ、また構って欲しいのか?」
「またってなんだよまたって! ボクはいつだって兄さんに構って欲しいって思ったことは1度たりともないからね!」
「あ、そう。じゃあもう構ってやらないけど?」
「なっ!? 構うななんて一言も言ってないだろ!」
「はは、冗談だよ冗談。そうムキになるなって」
俺は弟の頭をよしよしと撫でる。
不機嫌だったガイアスは押し黙って、俺にされるがママになっている。
「……兄さんは、ボクよりダンタリオンの方が良いの?」
「え? 普通におまえのことも好きだけど?」
「…………あ、そ」
そのときだった。
「腐腐……♡ 腐腐腐腐腐……♡」
俺たちの背後から、ダンタリオンの声がした。
ぬぅ……と噴水の中から、彼女が現れる。
「うわぁああ!」
「よっ、ダンタリオン。おはよ」
「ごきげんよう、ユリウス様、ガイアス様」
よいしょ、とダンタリオンが噴水をまたいで出てくる。
「ちょっと!? おまえどこいたんだよ!?」
「え、噴水のなかにずっといたぞ? なぁ」
「ええ……1時間ほど前、ガイアス様が待っているときから、ずっと♡」
ダンタリオンの気配は、ここに来たときからずっとしていた。
ただなんかこっちをうかがっている様子だったので、出てくるのを待っていたのだ。
「いるならいるっていいなよ……」
「え、ガイアス、おまえ1時間も前からいたのか?」
俺は普通に10分前に来た。
すでにガイアスはいたんだが、まさか1時間前からいるとは。
「ガイアス様は……ユリウス様とのデートがよほど楽しみだったのでしょうね♡」
「なっ!? ち、ちがうし! 全然全くこれっぽっちも楽しみにしてませんでしたけどぉ!?」
ガイアスが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「というかダンタリオン、おまえなにしてたんだ?」
「恋人同士のいちゃいちゃを……じゃましては悪いかと思いまして♡」
ぽっ、とダンタリオンが頬を染めていう。
「誰が! 誰と! 恋人だって言うんだよ!」
「腐腐腐……ガイアス様は照れ屋さんですね♡ お兄さまに気付いて貰えずやきもきする姿ごちそうさまでした♡」
「妙なこと言うなぁああああああ!」
ややあって。
俺たちは三人で、帝都を見て回る。
レンガで舗装された大通りでは、いくつもの出店が並んでいる。
多くの観光客達がもの食ったり買ったりしていて、楽しそうだった。
「…………」
「なに怒ってるんだよー、ガイアス?」
「別に」
「ユリウス様……ガイアス様は照れているのです♡ お兄さまとふたりきりで甘えたいのに、他人の目を気にして甘えられないという……複雑な乙女心なのです♡」
「え、そうなの?」
「ち、ちがうからっ! というか女じゃないから! ふんだっ!」
ずんずん、とガイアスが先に行ってしまう。
「うーん、また怒らせてしまった……」
「いいえ、ユリウス様。ガイアス様は怒っているのではありません。照れてるだけですわ」
「そうかな?」
「そうですよ」
ふふっ、とダンタリオンが微笑む。
「あれ、今日化粧してるんだな、おまえ」
「ええ、エリーゼ様やノット様に、おしえてもらって。変、でしょうか?」
いつもはノーメイク、というか髪に隠れてるせいか、化粧なにもしてないんだよな。
けど今日は、紅を引いたりと、薄くだがメイクを施されている。
「こんな悪魔女が化粧なんて……似合ってないですよね」
「いや、すげー可愛いよ。似合ってる」
「にゃッ……!」
ダンタリオンが妙な声を出して、目を大きくむく。
「どったの?」
「い、いえ……その……」
彼女は頬を染めてうつむくと、もじもじと体をよじる。
「……死にそうなくらい、うれしくって」
目を潤ませながら、ダンタリオンが手で顔を隠して言う。
「大げさだなぁおまえ。ほら、行こうぜ」
俺はダンタリオンに手を伸ばす。
ぽかん、とした表情で彼女が俺を見やる。
「あ、あの……これは……?」
「え、だって迷子になったら困るだろ? ほら」
俺はダンタリオンの手を引いて、先を歩く。
彼女は最初戸惑っている様子だったが、ぐすぐすと鼻を鳴らして涙を流す。
「ふぇええ……」
「泣くなよー」
「だぁってー……こんな……夢みたいなことぉ……してもらったことないからぁー……」
感情の起伏の激しいヤツだなぁ。
「たかが手を引いて歩くくらい普通だろ? なぁ、弟よ」
「知らないよ……! ふんっ!」
いつの間にかガイアスに追いついていた。
ギリギリ、と歯がみしながら、ガイアスがジッと俺とダンタリオンを見やる。
「も、申し訳ございませんガイアス様……! すぐに手を離しますね!」
「は……? 別に、いいんじゃない。離す必要ないでしょ」
「でも……ガイアス様もユリウス様と……」
ふぅ、と弟は吐息をついて言う。
「ボクはいいよ。おまえはこうして手を繋ぐのあこがれだったんだろ? ボクは子供じゃないし迷子にもならないからね」
ふんっ、とガイアスがそっぽ向いて先を歩く。
「だってさ、ほら気にすんなって」
「……はい。ガイアス様は、とても気配りのできる、素晴らしいお人ですね」
「おう、そうだろう? あいつはできる弟なんだぜ。俺の自慢さ」
「なっ! へ、へ、変なこというなよ! ば、ばかぁ~……」
ふにゃふにゃ、とガイアスが笑いながら言う。
「とりあえずちょろっとその辺見て回ってから昼メシにしようぜ」
俺たちは適当にぶらつきながら、ランチをどこで食べようかと店を選ぶ。
「どこもすげえ混んでるなー」
「しかたないよ、対校戦に見に来ている観光客がたくさん泊まってるんだから」
と、そのときだ。
「おや、君たち何をしているのかね?」
オープンカフェの前を通りかかると、外の席で昼飯を食べる一団がいた。
「お、アンチじゃん」
「やぁどうも」
「「「「こんにちはー!」」」」
アンチがチームメイト兼嫁たちと、昼食を食べていた。
「昼飯か?」
「まぁね。君たちもかい?」
「ああ。けどどこも混んでてさ」
「なるほど、良ければ一緒に食べないかい? 詰めれば3人くらいは座れるがね」
「え? いいの?」
「無論。いいかね、君たち?」
「「「「おっけーでーす!」」」」
アンチが手早く店の人の了解を取り、イスを3人分用意して戻ってくる。
「悪いな、せっかくの嫁さんたちとの食事を邪魔して」
「気にすることはない。彼女らの了承は取れている。それより友達が食事にありつけないでいるのを見過ごすなんて、皇帝の息子として我慢ならん行いなのだよ」
アンチは気位の高いやつだけど、ほんと悪い奴じゃないんだよな。
ほどなくして、料理が運ばれてくる。
魚介のパスタがオススメらしい。
「うめえな」
「だろう? 我が帝国は海が近いからね。こうして魚介をふんだんに使ったパスタが自慢なのだよっ」
ふふんっ、とアンチが誇らしげに笑う。
「ぜひとも故郷に帰って料理の自慢をしてくれたまえ!」
「おう、うめーうめー」
ずるずる、とパスタをすする。
「ああほら、兄さん……口にソースが付いてるじゃないか。だらしないなぁ」
ガイアスは紙ナプキンを手に、俺の口の周りについたソースを拭く。
「「「「…………」」」」
ダンタリオンと、そしてアンチの嫁達が、食い入るようにその様子を見ていた。
「何をしてるのかね君たち、彼らをじっと見て」
「「「「お静かに! 邪魔しないでください!」」」」
「う、うむ……」
やがてガイアスが拭き終える。
「サンキューな」
「別に」
ふんっ、とガイアスがそっぽを向いて、周りの目にようやく気付いた様子だ。
「腐腐……さすがの正妻ムーブでございましたね♡」
「「「「きゃあああああ♡ 素敵ぃ♡」」」」
「なに変なこといってるんだよ! ばかっ! もうっ!」
一方で蚊帳の外になっているアンチが、俺を見ていう。
「彼女らは何の話をしているのかね?」
「さぁな。よくわからん」
「ふぅむ、それよりパスタはどうかね?」
「ちょーうめー」
「だろぉ? じゃんじゃんおかわりしたまえ! 金は気にするな、僕が出そうじゃないか」
「え、マジ?」
「ああ、君が故郷に帰ってうまいと思い出を語ってくれれば、国にとっての利益に繋がるからね!」
そんなふうに、俺たちはなごやかに昼食を取ったのだった。
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