129.勇者、友達と恋バナで盛り上がる
対校戦2日目が終了した。
俺たちはいったん宿に戻り、風呂に入って、飯を食った。
各々の部屋へと戻り、一息をつく。
和室に布団という、極東の文化が取り入れられた宿屋。
最初他のみんなは戸惑っていたものの、すぐに慣れていた。
「あにうえー、ゲームしよーカードゲーム!」
布団の上でボケッとしていると、義弟ミカエルが俺の元へやってきた。
「ミカ、今日も疲れただろ。早く寝て英気を養うんだ」
「がいあすは小うるさいです。小姑です?」
ぐにー、とガイアスが義弟のほっぺを伸ばす。
「まあいいじゃん。さすがに19時に寝るのは早すぎるって」
「……まあ、兄さんがそういうなら」
「がいあす、あにうえにあまあまです。あにうえが言えば裸にだってなりそ……痛い痛い痛い」
俺は義弟と一緒にカードゲームに興じる。
するとそこへ、他の男子メンバー達がやってきた。
「お? なんだなんだ楽しそうなことしてんじゃんか。オレ様も混ぜろ~い」
東部連邦のザガンが、アモンとともに近づく。
「おれもやるぞ!」「カズマせんぱいがやるならまぁ」
わいわい、とカードゲームをしていると、アンチが風呂から戻ってきた。
「何をしてるのかね君たち?」
「カードゲーム。知らない?」
俺が言うと、アンチがジッ……とカードを見やる。
「初めて見るね。庶民の間で流行っている遊びかい?」
「まあそんなとこだ。どうだ、一緒に?」
「ふむ、まあ庶民の流行をリサーチしておくのも悪くないかな」
俺たちは車座になって、カードゲーム大会に興じる。
「あにうえ強いです! カードでも最強です!」
今のところ全員に俺は勝っている。
「おめー戦い以外も強いとか反則だろ~。逆に何ができないんだよ」
たった今負けたばかりのザガンが、手札を捨てて俺に言う。
「俺でもできないことくらいあるよ」
「ほー、例えば?」
「…………なんだろうな、弟よ?」
「兄さんにできないことはないよ」
やれやれ、とガイアスが吐息をつく。
「がいあすまた負けたー。あんちに負けるとか弱々です?」
「いやアンチ普通に強いから……」
ふっ、とアンチがかっこつけていう。
「この手の遊技で僕は負けたことがないのだよっ」
「ほー、じゃあ俺とやろうぜ」
「フッ……いいだろう。今日は君にぼっこぼこにされたからね。覚悟するだよ、ユリウス!」
1分後。
「ぐぬぬ……! 負けたぁあああ……!」
「まあこうなるのわかってたけどね。ナイスファイト」
ぽんぽん、とガイアスがアンチの肩をたたく。
「逆にかずまはカードめちゃくちゃ弱いです?」
先ほどからカズマは全敗していた。
「うむ! 頭を使うのは苦手なんだ!」
「それを誇らしげに言うのはどうかと思うがね……」
やれやれ、とアンチが首を振る。
「誇らしげと言うのなら、アンチくん! 君ももっと2位であることを誇った方がいいと思うぞ!」
そう、2日目の競技を終えて、帝国はこのメンツの中で2位と高順位をたたき出しているのだ。
「そうだぜ、2位はすげえよ。たいしたもんだ」
俺が言うと、みんなうなずく。
しかしアンチは真面目な顔で首を振る。
「いや、これは僕以外の仲間たちが頑張った結果だよ。僕なんて最後は不戦勝とギブアップ、まぐれで2位になっただけさ。誇れというのなら、仲間と運に恵まれたことだけは誇りに思う」
ジッ……と俺たちはアンチを見やる。
「な、なにかね?」
「いや、たいしたヤツだなって思っただけだよ」
「うむ! この結果を自分の手柄と驕らず、部下達を褒めるその姿勢! 立派だぞ!」
他のみんなも同様に、アンチに好感を抱いている様子だった。
「よ、よしたまえよぉ~君たちぃ~」
えへえへ、とアンチがだらしのない笑顔を浮かべる。
その後カードゲームも飽きてきた頃合いだ、ザガンが言う。
「ところでよー、おまえらんとこカップルいないの?」
「「「カップル?」」」
はて、と俺たちは首をかしげる。
「全員共学だろ? ひと組くらい恋人関係とかあってもおかしくねーんじゃねーの? なぁユリウス? おまえモテるベ?」
「え、そんなことないぞ」
「「いやいやいや」」
弟たちが首を振る。
「兄さんと出会う女子たいてい兄さんのこと好きになってるよ。やれやれ、兄さんの見境のなさには困ったもんだよ」
「がいあすもハーレムメンバーです?」
ガイアスがミカエルのこめかみをぐりぐりとする。
「なーんだ王立のメンバーは全員ユリウスの恋人なのかよ~ちぇー」
「おいザガン聞き捨てならないぞ! ボクは男だ!」
ガイアスが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「あれ、違うの?」「違ったのかい!」「へぇ、てっきりそういう仲かと」「腐腐腐……良き♡」「ちょっと!? 今部外者いなかったかい!?」
まったく、と弟が呆れたように言う。
「じゃあみんなは誰か付き合ってるひといるのかよ?」
「オレ様は全女子のナイト様だからよぉ~」
「つまり誰とも付き合ってないのね」
うぐ、とザガンが言葉に詰まらせる。
「大丈夫だザガンくん! おれも誰とも付き合ってないぞ!」
「へー、意外だな。モテそうなのに」
俺が言うと、後輩のアルトがため息をつく。
「せんぱい人気あるんすけど、ほらちょっと規格外の力過ぎてみんなドン引きして……」
「「「あー……」」」
「あと24時間ほぼずっとトレーニングしているのが無理って声がチラホラと」
「うむ! トレーニングはいいものだ! みんなもどうだい!」
ふんふん、とカズマが腕立て伏せをしながら言う。
そういえばカードゲーム中も指一本で逆立ちとかしていたな。
「なーんだみんな独り身か。ちぇー、つまんね~の。なぁアンチ、おめーもだろ?」
するとアンチが目を丸くする。
「え、僕は独り身ではないがね?」
「「「え……?」」」
ザガンは目をむいて叫ぶ。
「うっそだろおまえ! 三枚目のくせに!」
「微妙に失礼だねザガン……。恋人はいないが婚約者はいるよ」
「なにぃ! おいずりぃぞ! 抜け駆けかよ!」
「抜け駆けって……世継ぎを作るのも次期皇帝の仕事なのだから、婚約者がいてもおかしくないだろうに」
おおー、とみんなが感心したようにつぶやく。
「あんち戦い以外すげーです?」
「意外と高スペックだよね、君」
「くっ……! ここで勝っても何もうれしくない!」
だんだん、とアンチが悔しそうに地面をたたく。
「婚約者ってだれなんだよ?」
「え、他の女子メンバー全員だけど?」
「「「まさかのハーレムチームだった!」」」
「あんちまであにうえってるです?」
「兄さんの影響力半端ないよね」
その後誰か好きな人がいるのか、とか気になっている子がいるのか、という話題で盛り上がった。
弟たちがみんなと仲良くしている。
その姿を見て、俺はうれしかった。
「なぁユリウスよぉ~。おめえなにぼけーっとしてるんだよぉ」
ザガンが俺の隣に座る。
「おめーだっているだろ、好きな子の一人くらいよ」
「そうだなぁ……俺はみんなが好きだよ」
俺の答えに、しかしザガンは真面目な顔で言う。
「おめえよぉ……なんでそんなさみしそうなんだ?」
「え、さみしい? 俺が?」
そんなつもりはなかった。
みんなとこうしてわいわいできてとても楽しいつもりだったのだが。
「ユリウス、どこかおめぇ遠慮してねえか? この世界に生きることに対して」
「そんなつもりはないぞ?」
「ほんとか? オレ様には、随分と今を楽しむことに、おまえは遠慮してるように見えるぜ。どこか一歩引いてるってゆーかよぉ」
そんなこと初めて言われたので、俺は戸惑う。
「オレ様達は知識として、おめぇもまた転生者だってことは知ってる。そのことと関係があるんじゃあねえの?」
するとカズマが、俺の隣に座ってきた。
「君の気持ち、よくわかるぞユリウスくん」
「カズマ……」
「いきなり別の世界に来て、別の体を得た。生まれ変わったと無邪気に喜びたくとも、色んなことを考えてしまうのだろう。たとえば元の体の持ち主に対する申し訳のなさ……とかな」
カズマもまた異世界からの転生者だった。
「おまえはどうなんだ、カズマ?」
「おれの場合は気づいたら前世のハクバ・カズマとしての記憶を思い出した。だから、それまでのこの体の持ち主がどうなったかはわからん」
「うちもそんな感じっす」
転生者の多くは、後から記憶を取り戻すタイプらしい。
「そうか……おまえらも同じなんだな。でも、どう折り合いつけるんだ? 自分のせいで前の体の持ち主の人格を殺すようなことになるのに」
するとカズマは真面目な顔で言う。
「答えは出ない。記憶を取り戻したことで前の人格が完全に消えてしまったのか。それとも、今この形が完全な状態で、記憶が欠落していた前の状態が不完全だったのか。いずれにしても考えても詮無きことだ」
ぽん、とカズマが俺の肩をたたく。
「だがこれだけはハッキリしている。転生者は、今、ここで生きている人間の一人だと言うことを」
ニコッ、とカズマが笑う。
「君だってこの世界の一員なんだ! そんなふうに端っこで、みんなが遊んでいる姿をぼうっと眺めているのはよくないと思うぞ!」
すると今まで聞いていたガイアスが、俺に近づいてきて言う。
「そうだよ。あなたはちゃんとここにいる、ユリウス=フォン=カーライル。ボクらの兄さんなんだから、遠慮しないでよ」
「そーです! あにうえー!」
だきーっ! とミカエルが正面から抱っこしてくる。
「前世とかむずかしーことわからんです! でもぼくが好きなのは、今ここにいるあにうえです! 前とか知らんです!」
アンチが近づいてきて、やれやれと首を振る。
「悩みがあったなら言ってくれたまえよ」
「しょみんのそーだんに乗るのも、こーぞくの仕事だからです?」
ミカエルが言うと、アンチは首を振る。
「皇族とかは関係ないよ。友として当然のことじゃあないか」
「友だち……」
カズマはニカッと笑うと、俺の肩に腕を回す。
「おうとも! おれたちは友達じゃないか!」
不覚にも、俺は泣きそうになった。
勇者の時、戦うときはいつだってひとりだった。
けれど……。
「良かったね、兄さん」
ガイアスが微笑んで言う。
「友達たくさんできてさ」
俺はみんなを見渡して、ニッと笑う。
「ああ!」
「よーし、そうと決まれば徹夜でゲーム大会だ! 明日は休養日だからよぉ! ゲームしまくろうぜぇ!」
「「「おう!」」」
……その後、深夜までゲーム大会は続いた。
騒ぎ続けた結果、理事長に近所迷惑だと怒られた。
結果、廊下に全員で正座させられた。
1時間、廊下に並んで座っていた俺たちだったが……しかし、いい思い出だったなと思うのだった。
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