12.勇者、いじめられてたエルフを助ける
朝食後。
転移魔法で、一瞬で教室の前へとやってきた。
俺は昨日と同じ席を目指す。
「エリーゼだ。ん? 周りに誰か居るな」
ハーフエルフの彼女の周囲を女子達が囲っていた。
「あんた気持ち悪いのよぉ、いつも髪ボサボサでさぁ」
「幽霊みたいでキモい。髪の毛くらいきりなさいよぉ」
どうやら彼女たちは、エリーゼの髪の毛の長さを注意しているようだ。
「…………」
エリーゼは縮こまり、黙ったままだ。
あとで髪切るよくらい言えばいいのにな。
「あたしが髪の毛きってあげようかぁ~?」
絡んでたひとりが、ハサミを持ち出す。
「丸坊主にしてあげるわよぉ~。そんでもってその醜い長い耳をさらしなさぁ~い」
逃げようとするエリーゼの長い髪を、乱暴に掴む。
パシッ……!
「そーら! 丸坊主に……って、あれ? ハサミ、どこいったの?」
「あの長耳女もいないわ!」
俺は彼女たちから離れた場所で、エリーゼをお姫様抱っこしてる。
指先にハサミを引っ掛けていた。
「だいじょぶか?」
「う、うん……」
俺はエリーゼを下ろす。
彼女はポーッとしていた。
「あっ、あんたいつ近づいたのよ! 見えなかったわよ!?」
「え? ゆっくり動いたつもりだけど?」
一瞬で近づいて、ハサミを奪い、エリーゼを回収して、離れたところまでやってきた。
この間0.01秒。遅いな。
まあ女の子抱えて全力だせないしこんなもんか。
「ちょっと魔無しぃ! 邪魔すんじゃないわよ!」
さっきハサミを持っていた名も無き女子生徒が、俺に絡んできた。
「あたしは注意してたの! そこのボサボサ頭の幽霊女は校則違反をしてるわ」
「え、そうなの?」
「そうよ、前髪は目に掛からないように、っていう記述があるんだからっ」
転生したばっかりで校則なんて知らないからな。
「エリーゼ、髪、切っていいか? 痛くしないから」
「……え? う、うん」
ひゅっ……!
バサッ……!
「……え? えっ? う、うそ、一瞬で切れてる」
困惑するエリーゼの周囲には、金髪の毛が落ちている。
「……い、いったいなにが?」
「手刀でパパッと髪の毛を良い感じに切らせてもらったよ。……って、おお、美人じゃないか」
髪の毛を切ったエリーゼは、とびきりの美少女になっていた。
雪のように真っ白な肌。
青い瞳。
顔のパーツはすべて完璧に整っていた。
「なっ、なんだよあの子! めっちゃ美人じゃん!」
「うそっ!? ボサ髪のエリーゼって、あんな美少女だったのかよ!」
「うっわ、話しかけときゃ良かった!」
男の同級生たちが、ざわめいてる。
「これで文句ないだろ? ほら、ハサミ返すよ」
絡んできた女は、美しくなったエリーゼを見て歯がみする。
「ちょ、ちょっとくらい綺麗になったからって調子乗るんじゃないわよ!」
女はハサミを持って、エリーゼに斬りかかろうとする。
「それにまだちょっと目に髪の毛が掛かってるわぁ! 丸坊主にしてやるんだからぁ!」
「そりゃ困る」
俺は手を軽く振る。
パキンッ……!
「は、ハサミが粉々に……! 離れた場所から、何したのよあんた……!」
「え、手刀で斬撃を飛ばすことくらい、当たり前にできるよな?」
「そんなの……剣の達人でもできないわよ……」
へたり込んで動かない女を、取り巻きが彼女を持ち上げて、すごすごと退散した。
「助けてくれて、どうもありがとう」
エリーゼが俺に頭を下げる。
「え、助けた? 俺なんかしたっけ?」
ぽかん、とした表情となる。
ややあって、クスッ……と彼女は笑う。
「ユリウス君、変わってるね。けど……とっても素敵」
熱っぽい視線を向けそう言ったのだった。
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