117.勇者、騎馬戦する
対校戦第2試合が執り行われる。
『種目は【騎馬戦】でぇす。各学園【3名】ずつ選出してくださぁい』
王立は俺、エリーゼ、ミカエルの3名が出ることになった。
各学園の選手がグラウンドに集まる。
「わーい、あにうえお馬さん~」
俺とエリーゼが馬になって、ミカエルが上に乗る。
前方は俺、彼女は後方。
「わーい、わーい、はいよ~兄ウマ~」
ぴょんぴょん、と俺の上でミカエルがはしゃぐ。
「ミカ、あんまりジャンプするな。兄さんたちに負担がかかるだろ?」
「がいあす見て見て~。あにうえにお馬さんしてもらってる~い~だろ~うらやましいです?」
「べ、別に。まったく。これっぽっちも羨ましくないけどね!」
にやにや、とサクラが無言でガイアスを見ていた。
「なんだよ!」
「別にぃ。なんややましい気持ちでもあるん?」
「ないよ! もう!」
騎馬を組んでいると、そこへ東部連邦が近づいてくる。
「腐腐腐……兄弟……3人……仲良し……良いですね」
長い髪の毛で顔を完全に覆っている女学生、東部連邦の主将ダンタリオンだ。
「あ、おばけです?」
「いいえ……悪魔……です」
「おー! ぼく天使です! 滅するです?」
「ミカ、ダンタリオンは他校の生徒だ。殺すのはダメ」
「わかったですー! 素直に言うこと聞いたからなでなでするです!」
「あとでな」
「わーい!」
その様子を近くで見ていた彼女が、胸の前で手を合わせおじぎした。
「ああ……無邪気に戯れる兄弟……尊い……尊い……」
「おまえ悪魔なのにおがむなよ」
東部連邦はダンタリオンとザガン、アモン。
神聖皇国はカズマとアルトとタケル。
帝国はアンチと、女子生徒ふたり。
「良いかい2人とも、競技が始まったら目をつむるんだ! なにが起きて絶対に目を開けないこと! いいね!」
「「はい、アンチさま!」」
代表選手たちがグラウンドの中央に集う。
『ルールは単純です、騎馬に乗る選手の頭の鉢巻きを奪い合う。より多く鉢巻をもっていた学園の勝利となりまぁす』
追加の細かいルールはこんな感じ。
・時間制限は10分。
・騎馬役はいっさい手も足も出してはいけない。
・騎乗者が乗っていない状態での移動は禁止。
・騎乗者は地面に足がついた時点で失格。試合終了まで待機。
・鉢巻を失うと-1点。手に入れると1本につき+1点。
・10分すぎた時点での得点を競い合う。
『でははじめまぁす、いちについて……よーい』
銃声がなり、選手たちがいっせいに動き出す。
「ミカエル、いきまーすでーす!」
バサッ! と義弟が6枚の翼を広げて、飛び上がる。
「ちょっとぉおおおお!? え、飛んでるぅうううう!?」
アンチが目を丸くして叫んでいる。
「なにかねあれは!? また人間じゃないのかね!?」
「え、うん。天使だけど?」
「さも平然と人外発言しないでくれたまえよ!」
ミカエルは飛び上がって、滞空する。
「やるっすね。けど、飛べるのはあんただけじゃないっすよ!」
皇国の1年生、アルトが体を雷神化させて、こちらも滞空する。
「…………」
東部連邦の男子生徒、アモンもまた当然のように滞空していた。
「なにをみんな平然と飛んでいるのかねぇえええ!?」
俺の隣……というか俺たちの背後に、アンチがいつの間にかいた。
「え、飛行なんてデフォだろ?」
「そんな高度な魔法が当たり前に使われてたらおかしいとは思わぬのかね!? なぁ!?」
「え、飛べるだろ?」「うむ! 無論飛べるな!」「飛べます……ね」
「常識が飛んでるんだよ君たちぃいいいいいい!」
ミカエルたちが上空でにらみ合っている。
「理事長! いいのかね!? これは!?」
『いいじゃないですかぁ? ルールには飛んではいけないなんてどこにも書いていませんしぃ』
「人間が空を飛ぶ想定でルールなんて作られるわけがないじゃないか!」
ミカエルが、ぐっ、と空中で身構える。
「わるいけど、あにうえが見てるです。ぼく負けないです!」
「そういうならカズマせんぱいが見てる前で、おいらが負けるとかありねーっすわ」
アルトが雷となって、ミカエルに高速で飛翔する。
その軌道をぎりぎりで回避し、空中で【天の矛】を発動させる。
「どーん!」
レーザーが無数に照射され、アルトに襲い掛かる。
「レーザー!? いいの!? ねえレーザーだよレーザー! 学生の競技だよ!?」
『ルールには禁止されてませんのでぇ』
「なんかそれいっときゃいいみたいになってないかね!?」
豪雨のごとく降り注ぐレーザーの合間を、アルトが雷速でかけぬける。
「やるっすね、あんた!」
アルトはミカエルの腹部に、すさまじい速さでケリを食らわせる。
直撃を受け、すさまじい速さで吹っ飛ぶ。
だが義弟は空中で体勢を整える。
「おかえしです!」
六枚の翼を光らせ、ミカエルの姿が消える。
「消えたよ!? ねえ何が起きてるのかね!?」
「え、存在を光に変えたんだろ?」
上位である大天使は、普通にやってのける技術だ。
がきぃいいいいいいいん!
アルトは義弟の一撃を、片手で受けていた。
「ははっ! いい速さしてんじゃん、あんた!」
「そっちこそ、やるですね!」
2人そろって消える。
ミカエルは光に、アルトは雷になってぶつかり合う。
ががっ! がきんっ! ずがががが!
「ミカ、がんばれよー」
「アルト! アルト! がんばれ! がんばれ!」
「そっちの1年生やるじゃんなー」
「そちらの弟君もなかなかだな!」
俺とカズマは年下たちの戦いを観戦する。
ルールで騎乗者がいないと動けないってなってるからな。
「ダンタリオンとこの1年生はなにもしてないけど、大丈夫なのか?」
「ご心配……無用です……」
ミカエルから距離を取って、アルトが消える。
「なにぼさっとしてるんすか! もらったぁ!」
アモンの背後に回り、アルトが鉢巻きを奪う。
「勝ったっす!」
「…………」
にやっ、とアルトが笑う。
だがアモンの手には、鉢巻きがあった。
「なっ!? お、おいらの鉢巻きが!? どうして!?」
「なるほど……【反転呪】か」
「はんてんじゅ? ユリウス君! なんだねそれは!」
「呪いの1つだよ。事象を逆転させ、現実に上書きする呪い」
「さすが……ユリウス様……よくぞ……みぬかれました……・」
アモンは【アルトに鉢巻きを取られた】という事象を逆転させ、【アルトの鉢巻きを取った】と現実を上書きしたのである。
「なんだいそのデタラメな能力は!? こんなものやりたい放題ではないかね!」
「そうでもない。強大な力には相応のリスクがあるからな」
おそらくだが彼は凄まじい誓約を自分に課してるのだと思われる。
「くっそ! このぉ!」
アルトが雷速でアモンの手から鉢巻きを奪い返す。
だが事象を逆転させ、奪い返せなかったという現実に上書きされてしまっている。
「あーくそ! こうなったらミカエルから奪うっすー!」
この試合は鉢巻きを奪われても失格にならない。
【騎馬から降りない限り】タイムアップまで何をしても良い。
「やってみるです!」
光と雷が、空中にて超高速でぶつかり合う。
がききんっ! ずがががっ! きんきんきんきん!
アモンはアクティブに鉢巻きを狙わない。
漁夫の利を狙っているのか、あるいは誓約でまともに動けないのか?
「こうなったら……せんぱい! 自分、奥義使っていいっすか?」
「うむ、許可しよう!」
にっ、と笑ってアルトが手を合わせる。
「参の型【千雷身】!」
アルトの体から放電がおきる。
雷はやがて人間を形作る。
その数は千。
「ぎょぇえええええええ! なんだねあれはぁああああ!」
「え、雷で分身を作ったんだろ?」
「そのとおり! ユリウス君は何でもお見通しなのだな! さすがだ!」
グラウンドの空を埋め尽くすかのような大量の分身。
「1体がおいらと同等の強さを持った分身っす!」
「そんな! こんなのもうズルではないかね! 大丈夫なのかね、君の弟君は!?」
アンチががくがく、と俺の【肩を揺する】。
「問題ねえよ。あいつはなんてったって、俺の弟だぜ?」
ミカエルはニッ……と笑う。
「1000の分身すごいです……」
「へへっ、でっしょ!」
「けど……あにうえのほうが、もっとすごいです!」
バサッ……! とミカエルが翼を大きく広げる。
光の羽が、天から降り注ぐ。
「わぁ……きれー……」
エリーゼが見とれる。
彼女の頭の上に、羽が降り注ぐ。
会場中の人たちが、光る羽の雪に見とれた……次の瞬間。
ドゴォオオオオオオオオオオン!
「なっ!? なにがおきたのかね!? って、ええええええええええ!? ぜ、全滅ぅうううう!?」
地面に倒れ伏すのは、1000体のアルト。
さっきまで空を覆い尽くしていた彼らがみな、地面に落ちていた。
「…………」
アルトは気を失っている。
その瞬間に、分身が消えた。
「なにがおきたのかね!? なにが!」
「時間……停止……ですか……?」
「じ、時間停止!? そんな高度な魔法を使ったのかね!」
「え、違うぞ。相手に強制的な思考停止をおこさせたんだ」
「またわけのわからないことを! どういうことかね!」
俺は羽を手に取る。
「この羽に触れた瞬間、莫大な量の情報が光を通して眼球から脳に直接ぶち込まれる。すると脳が大量の情報処理に追われてパンクし、一時的に思考停止を起こす」
「よ、ようするに……どういうこと?」
「この羽に触れると1分間、対象者は思考停止を起こし動けない。しかし逆に術者は1分間自由に動ける」
1分間相手に無防備をさらし、そのあいだ一方的にボコられ、気づいたときには全てが終わっているというわけだ。
時間停止は魔法なので、結界などで防げる。
だがこの天使の光の羽は地上に存在するすべての物質をすり抜ける。
回避も防御も不可能というわけだ。
「あとは動けなくなったアルトをミカエルが順々にボコったって感じだな」
「いやちょっと!? え、なんで知ってるのかねそれを!」
「え、普通に見てたからだけど?」
「回避も防御も不可能なのにどうして平然としてるのかね?」
ようするに脳の処理スピードが入ってくる情報に追いつけば良いだけの話だ。
俺は闘気で脳を活性化させ、思考速度を上昇させ、処理堕ちを防いだのである。
「もう……なんでもありだね君は!」
さて、アルトが倒れはした。
しかし彼の鉢巻きはアモンが持っている。
「…………」
アモンには事象の逆転がある。
いくら取ろうとしても、逆に取られてしまうだろう。
「ぼくには無理! あにうえー!」
くるっと反転させ、俺たちのもとへ戻ってくる。
「ごー! あに馬ー!」
俺はミカエルを乗せてアモンに向かって走り出す。
「ユリウス君、どうするの!?」
「え、普通に取るだけだぞ」
俺たちは飛び上がって、アモンに肉薄する。
「ミカ、取れ!」
「りょーかい! とうっ!」
ミカエルが両手を伸ばし、棒立ちのアモンから、2つの鉢巻きを奪う。
「ああ、無駄だよ! 事象が逆転してしまう! だからミカエルが鉢巻きを取られたと世界が上書きされてしまうではないかね!」
だが……。
「とったどー!」
笑顔のミカエル。
その両手には、2枚の鉢巻きがあった。
「そ、そんなバカなぁああああああ!?」
俺たちが着地する。
『これにてタイムアップでぇす!』
「いや、いやいやいや! どうなってるのだね!?」
アンチが俺たちに近づいてくる。
「事象が上書きされるのではなかったのかね!?」
「え、だから上書きしなおしたんだぞ?」
「人間にわかる言葉で説明しなよ!」
するとダンタリオンが、俺たちに近づいてきた。
「アモンの……力……コピー……したの……ですね」
「コピーだって!?」
俺はうなずく。
「事象の逆転・上書きの呪いを使っていることは見てわかったからな。ミカエルに呪いが発動した瞬間、まったく同じタイミングで呪いをかけた」
逆転した事象が、逆転することでまた元に戻った、ということだ。
「素晴らしいです……ユリウス様……悪魔の高度な呪い……見ただけで理解し……模倣するなど……不可能です……」
「そ、そうなのかね?」
「ええ……悪魔の呪いは……悪魔にしか……使えません……」
「不可能を可能にする! それがあにうえ! すげーです!」
アンチが目をむいて、そしてため息をつく。
「もう……ツッコみ疲れたよ……」
今回の順位は、こうなった。
1位ミカエル 2点。
2位アンチ 0点。
同列3位アモン・アルト -1点。
「兄さん、なんでアンチが2位なの?」
「あいつしょっぱな、ミカが翼出して飛んだときに、びっくりして騎馬から落ちたんだよ」
騎馬から落ちた時点で0点。
本来なら最低順位になるはずだが、ほかがマイナス点なので2位になったのである。
「やるじゃん、アンチ。こうなること計算してたの?」
ガイアスの質問に、「へ……?」とアンチが目を点にする。
「も、もちろんだとも! すべてはこのアンチ=フォン=マデューカスの、作戦通り!」
「「「おぉおおおおおおおお!」」」
観客席が湧き上がる。
「さすがアンチ様!」「そんなお考えがあっただなんて!」「すごいですアンチさまー!」
チームメイト達が、アンチにキラキラした目を向ける。
ちなみに試合前に彼の指示通り、目を閉じて試合を見ていなかったので、チームメイト達は無事だった。
「は、ははっ! はぁー……ラッキー。ほんと、運が良かった、僕……はぁ~……」
2回戦を経ての順位はこうなった。
1位王立(+4) +2、+2
2位帝国(+2) +1、+1
3位東部連邦(-2) -1、-1
4位神聖皇国(-3) -2、-1
【※読者の皆様へ お願いがあります】
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「みんな頑張れ!」
と思ったら、
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面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちで全然かまいません!!!!!!!!
なにとぞ、よろしくお願いします!