11.勇者、弟の朝練に軽く付き合う
転生した翌日。
早朝、俺はベッドから体を起こす。
「妙に早く起きてしまったな」
ベッドから降りて、ぐいっと伸びをする。
「ちょっと散歩でもするか」
シャツとズボンへと着替えて、部屋を出た。
当てもなく、廊下を歩いていた、そのときだ。
キンッ! キンッ! キンッ!
「なんだ?」
俺は近くの窓から顔を出す。
眼下では、弟が剣を振るっていた。
「剣の稽古してるのか。感心感心」
興味を引かれた俺は、窓から飛び降りる。
【闘気】で体を強化させ、音もなく着地。
そこは広い庭だった。
中央で、ガイアスが剣を打ち合っている。
「でりゃ! せい! やぁっ!」
「うむ! 素晴らしいですぞ! ガイアス殿!」
ガイアスの正面には、40代ぐらいの男が剣を構えて立っていた。
【無駄の多い】弟の剣を、彼は実に【無駄な】動きで捌く。
ふたりとも雑な戦い方するなー。
魔力による身体強化はおろか、闘気を使ってない。
「こんな遊びに何の意味があるんだ……?」
困惑する俺をよそに、ふたりは【お遊び】をやめる。
「あの出涸らしと違い、あなた様は天才であられます!」
「そうだ! ボクはあんなのより優秀なんだ!」
度々出てくる【出涸らし】ってなんなのだろうか。
お茶の残りカス?
俺は創生魔法でタオルを作り、汗みずくの弟に近づく。
「よっ、ガイアス。お疲れさん」
「!? に、兄さん!? い、いつの間に……?」
弟の頭に、タオルをかぶせる。
「……し、信じられない。王国騎士最強の私が、こいつの気配に全く気づかなかっただと?」
ぶつくさと、おっさんがつぶやく。
「朝練なんて偉いじゃないか」
「うるさい! 兄貴面するなって言ってるだろ!」
「そうだ、俺が剣術教えてやろうか。おまえと、ついでにあんたの二人に」
「「は……?」」
ガイアスとおっさんが、目を丸くする。
「この人にも、教える、だって……?」
「おう。だって二人ともまだ未熟じゃないか。これでも多少剣の心得はあるんだぜ」
「未熟……だとぉ!」
おっさんがなぜか知らないが、激昂して斬りかかってきた。
あくびが出るほど遅い一撃を、俺は半身をひねってかわす。
「初心者のうちはもっと上手な人をお手本にすると良いぞ、弟よ」
「くっ! 出涸らしの分際で調子に乗りやがってぇ!」
おっさんが俺に切りかかってくる。
俺は創世魔法で剣を作り、その剣を軽く弾く。
パリィイイイイイイイイイイン!
「ぬわぁああああああああああ!」
おっさんは背後に、何十回と空中で回転しながら吹っ飛んでいく。
「なっ!? 何だよ今のは!?」
「え、攻撃反射だけど?」
「攻撃反射!? う、うそだ……剣術指南書に記された究極奥義じゃないか!」
「え? こんなの基礎の基礎だろ?」
目を大きく見開いて、ガイアスが俺と、握られてる剣を見やる。
「ていうかいつの間に剣を!?」
「作った、魔法で」
「はぁあ!? 嘘つくなぁああ!」
ガイアスが拙い一撃を放ってくる。
俺は闘気を使って身体強化。
ちょっと速く動いて、側面へ移動。
弟の剣の腹めがけて、剣を振る。
バキィイイイイイイン!
「ばっ、馬鹿な……我が家に代々伝わる宝剣が粉々に……?」
「あ、やべっ。新しいの作るからこれで許して」
俺は全く同じ物を、創生魔法で作り出す。
「……最強最古の宝剣を、作り出しただって」
ぺたん、とガイアスがへたり込む。
「昨日のアレは夢じゃなかったんだ。どうして……急にあんただけ強くなったんだよ?」
弟はなぜか悔しそうに、俺を見上げる。
「え? 別に前からこんなだったろ?」
「そんなわけないだろ! チクショウ!」
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