105.勇者、仲間たちと一致団結する
対校戦の主将たちと、顔合わせしたその日の放課後。
同好会部屋にて。
俺は仲間たちと集まり、今日のことをみんなに報告した。
ソファセットに座る俺たち。
「相手、やばいなぁ。悪魔に異世界転生者やって?」
「そんな強そうな人たちに、勝てるかなぁ……」
冷や汗をかくサクラとエリーゼ。
一方で、ミカエルは興奮していた。
「おー! 強敵との試合! もえるです! たのしみですねみんな!」
「気楽に言うなよ。お前と兄さんと違って、ボクたち3人は一般人だぞ」
弟がため息をつく。
女子チームの表情も、晴れやかとは言えなかった。
「そんな顔すんなって。大丈夫、みんな強いよ。十分戦えるさ」
「けど……ユリウス君は確かに悪魔たちと対等かもしれないけれど、対校戦は団体戦、わたしたちで足を引っ張っちゃうかも……」
エリーゼは肩をすぼめて言う。
「あにうえ、対校戦ってどういう試合なんです?」
「複数の競技を、何日かで行うんだ。それも、個人種目じゃない。チーム全員で挑む競技が主なんだとさ」
「順位は全競技終了時に発表される。種目ごとに得点が設定されていて、最も点を取ったものには、優勝カップ【聖杯】が与えられるんだ」
ガイアスの説明に、義弟が首をかしげる。
「せーはい?」
「強大な魔力が込められた聖なる器のことだよ、ミカちゃん」
「一説によると、いにしえの勇者の魔力が込められてるっちゅう話や。それを1年間自由に使える権利が、優勝校には与えられんねん」
去年までは、帝国学園が連続優勝しており、もう何年も聖杯を独占しているらしい。
それゆえにマデューカス帝国は、この世界で最大の国家になれたんだそうだ。
「今年は東部連邦、そして神聖皇国も、本気で聖杯を奪うつもりだね。悪魔と転生者なんていう、化け物を用意するくらいだから」
ガイアスが表情を曇らせて言う。
「なにそんな深刻そうな顔してるです? 学生同士の競技です?」
「考えてもみなよ。莫大な魔力を、悪魔や転生者なんて言う、得体のしれないやつらにわたってみろ? それを使って、何をされる事やら……」
「しかも急にそんな異分子を用意してきたっちゅーことは、背後になんや怪しいやつらが控えててもおかしないな」
サクラの懸念はもっともだ。
誰かが手引きしなければ、そんな異常な奴らが学生にまぎれることなんてできないだろう。
「人間以外に聖杯が渡れば、その魔力を何に使われるかわからない。人類を滅ぼす儀式魔法に使われるとか、あるいは、ボクらが予想だにできないことに使われる危険性もある」
ぐっ、とガイアスが歯噛みする。
「でもあにうえがいれば優勝間違いないです?」
「そりゃ兄さん一人でかつ個人戦ならね。けどこの競技はすべて団体戦。出場できるメンバーは毎回変わる。兄さんが全試合出れる保証はない」
「加えて相手はチーム全員が悪魔や転生者なんやろ? めっちゃこっちに不利や」
はぁ、とサクラがため息をつく。
今回は俺一人が頑張ればいいって話じゃないのである。
「兄さん……どうしよう」
ガイアスが俺に、助けを求めてくる。
「お前が判断するんだ。主将は、おまえだ」
弟は下唇を咬んで、うつむく。
「……ちょっときびしない?」
サクラがこっそり、俺に耳打ちしてくる。
「そんなことない。これくらいの局面、あいつなら乗り越えられる」
「……信頼してるんやね」
「あたりまえだ。あいつは俺の弟だぜ?」
ガイアスはしばし考えたあと、つぶやく。
「みんな。ちょっと聞いてくれないか?」
真剣な表情で、弟がみんなを見渡す。
「ボクはこの対校戦、みんなで勝ちたい、と思ってる」
ガイアスは、エリーゼとサクラを見て頭を下げた。
「ふたりには、危ない橋を渡ってもらうことになる。女の子にそんなことさせて申し訳ない。けど……勝ちたいんだ」
ぐっ、とガイアスが拳を握りしめる。
「悪魔や転生者なんて、得体の知らないやつらに、聖杯が渡れば、人類みんなが危ない目に合う。ボクはそれを看過できない」
決然と、弟は言い放つ。
「ボクは人々を守りたい。そのために、力を貸してほしいんだ」
立ち上がって、ガイアスが腰を折る。
素直に、仲間に助力を求めた。
昔の、プライドだけが高かった頃のガイアスはもういない。
そこにいたのは、新米ながらも、みんなのために力を尽くそうとする、立派な勇者の姿だった。
「俺からも、頼む。みんな、弟に力貸してやってくれ」
一緒に立ち上がって、俺もまた同好会のメンバーたちに頭を下げる。
「しゃーないなぁ」
サクラ、ミカエル、そしてエリーゼ。
全員が立ち上がって、力強く言う。
「ユリウスはんに頭さげられちゃ、断れへんわ」
「ガイアス君、わたし、頑張るよ! みんなのために!」
「がいあす、任せるです。お兄ちゃんが困ってるときは、弟ががんばるです。兄弟はそーゆーもんです? ねえ、あにうえ!」
俺は義弟の頭を、わしゃわしゃとなでる。
「みんな……ありがとう」
ガイアスはジワリと目に涙をためて、頭を下げる。
「なんや、今日はやけに素直やなぁ。なんか調子狂うわ」
「ツンデレ廃業したです? デレデレです?」
俺はハンカチを創生して、弟の涙をぬぐう。
「弟よ、成長したな。俺はうれしいよ」
単に自分の自尊心を満たすために、試合に挑もうとしていない。
あくまでも世界の危機に立ち向かうため、自ら戦いに向かおうとする。
その姿は、まさしく勇者だった。
目の前で、着実に、この世界の勇者が育っている。
それが本当にうれしかった。
俺の師匠たちも、こんな気持ちだったのだろうか。
「そんじゃ、みんな」
すっ、と俺は手を前に出す。
「兄さん、なにするの?」
「こういうときは、息を合わせるものだろ?」
「おー! がんばろうえいえいおー! ってやつです!」
パシッ、とミカエルが真っ先に、俺の手の上に、手のひらを載せる。
「な、なんだよそれ……は、恥ずかしいじゃないか……」
「何テレとんねん。あんたがいつもお兄さんといちゃついてる方が恥ずかしいわ」
サクラがニコニコしながら、ミカエルの上に手のひらを載せる。
「ガイアス君、ほら! 一緒に!」
エリーゼはサクラの上に、手を載せる。
「わかったよ。しょうがないなぁ」
苦笑しながら、ガイアスが最後に、手を重ねてきた。
俺はみんなを見渡す。
全員、不安も恐れも抱いていない。
やる気に満ち溢れていた。
「よし、対校戦、みんなで頑張るぞ!」
「「「「おー!」」」
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