01.勇者、魔王倒して転生する
「見事だ、勇者【ユージーン】。よくぞ、この魔王【ヴェノムザード】を討伐した」
俺は魔王の城にいた。
崩壊した謁見の間には、巨大な黒い竜が横たわっている。
「史上最強と恐れられし我をたおすとは。ユージーンよ。貴様はまさしく、史上最強の勇者だ」
「そりゃ……どうも……」
俺はその場に、大の字になって寝る。
体はボロボロ。
手に持った聖剣は血だらけだ。
「はぁ~……これで、ゆっくり寝れる」
もう体を動かす力は残っていない。
だがそれでいいんだ。
「勇者よ、そんなに我を倒したことがうれしいか?」
「ああ、これで……やっとブラック勇者パーティから、離脱できるからな。二つの意味で」
目を閉じると、今日までの過酷な日々が思いだされる。
【史上最強の魔王に立ち向かうためには、歴代最強の勇者を育成しなければならぬ!】
現国王が即位した日。
本気で魔王を滅ぼすべく、壮大な勇者教育プロジェクトがスタートした。
まず全国から志願者を募り、教育機関を設け、そこで競い合わせる。
そして最強の1人を選定。
そこへ、最強の剣聖、大賢者、聖女、拳豪。
あらゆる分野のエキスパートである彼等を師匠につけ、勇者候補である俺を鍛えさせた。
地獄のような特訓の末に、俺は世界最強の剣術、魔法、回復術、体術を会得。
その後魔王討伐の旅へ出発。
「次々と襲いかかる敵を、ほぼ無休で倒し続けて……今に至るってわけ」
ちなみに師匠達は旅に出たあともついてきた。
俺がサボらないように見張っていたわけ。
「なるほど……だから貴様、今にも死にそうな表情をしておるのだな」
「けど、もういいんだ。魔王をたおした。これで勇者はお役御免だろう……」
体から力が抜ける。
血を失い続けた。このまま治療しなければもう少しで死ぬだろう。
魔力はカラカラだ。
「いや、勇者よ。残念ながらそれはまだ先だ」
「……なん、だと?」
「魔王軍はまだ残っておる。つまりは残党狩りが終わるまでは、おぬしの使命は終わらぬだろう」
そんな……。
いや、確かに師匠達が俺の元へやってくる気配を感じる。
こんなボロボロの俺を、まだ戦わせようっていうのかよ……。
「勇者よ。貴様の望みを叶えてやろうか?」
「え……? どういう、ことだ……?」
「剣聖、神、精霊の王、我に挑んできたやつらとの戦いは、つまらぬ児戯。しかし、おぬしとの戦いは、久方ぶりに心が躍った」
魔王はニィ……とまるで子供のように、無邪気に笑う。
「我を楽しませた礼として、我の力で、貴様の望み通り、平穏な生活を送らせてやろうというわけだ」
「で、でも……どうやって?」
「貴様はこの世界にいる限り、勇者というしがらみから逃れられぬ。ならば別の人生を歩むというのはどうだろう?」
「つまり……生まれ変わりってヤツか?」
「そうだ。【転生の秘術】。おぬしは勇者ユージーンとしての人生を捨てる代償に、新たな自由を手にできる。どうだ?」
すぐさま、即答できなかった。
別に自分が死ぬことに対して、怖いわけじゃない。
毎日辛くて死にてえって思ってたからな。
気がかりなのは、俺が死んだ後。
この世界は果たして、どうなってしまうのか。
「安心せよ。強敵は貴様があらかた潰した。あとは隠れているザコばかり。貴様がいなくても仲間達が世界を平和にしてくれるだろう」
「そうか。……それでも、俺は」
「ええい、じれったいヤツだな」
クワッ! と魔王が口を大きく開く。
その瞬間、俺の足元に魔法陣が展開した。
「ちょっ! まだイエスって答えてない!」
「さらば最強の男よ! 願わくば、また拳を交わそう」
魔法陣は強く輝くと……【勇者ユージーン】は消滅したのだった。
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