初詣
本日は2話投稿です。こちらは1話目です。
どうせ彩さまから居場所は伝わるのだからと、嫌がる先生を引っ張って、初詣に出掛けることにした。
境内に住んでいるのだから、実質毎日詣でているから必要ないなどと言い出したときはどうしようかと思ったが、どうにかこうにか浅草寺へと向かう運びとなった。
出掛ける間際、結界を出て、先生に少し待っていてもらう。振り袖を着付けている間、散々待ったのだからこのくらいは許して貰いたい。
すぐ横の鳥居の裏に隠れるように小さな墓がある。出来てから日が経っていないので、ぴかぴかと大理石が輝いていた。その前でしゃがみこんで手を合わせた。
「叔母上、行って参ります」
雷門の前はいつもヒトでごった返しているが、三ヶ日ということもあり、いつにも増して数が多い。
長い長い参拝客の列に並んで、ようやっと賽銭箱の前に辿り着いた。
私は懐から取り出した小銭入れを賽銭箱の上で逆さまにした。じゃらじゃらと音を立てて無数の小銭たちが吸い込まれていく。その様子を見ていた先生がぼそりと言った。
「あぁ、もったいない。それだけあればうなぎが食えように」
ぐぬ、そんなことは私だって分かっている。
「焼き肉ならはしごできよう」
ぐぬぬぬぬぅ……!
「チーズバーガーであれば山ほど……」
「ええい、だまらっしゃい! なんと言われようと男に二言はねぇのです! ネズミが猫糞をシノギにしているなんて洒落にもなりゃしない! この仕事は止めです。二度としねえ!」
「やっと気付いたか」
分かっていたなら教えてくれても良さそうなものを!
「どんな手段で稼ごうと金はただの金だろうに。めんどうなやつ」
「ネズミにはネズミの矜持というものがあるのです。そもそもはじめからまっとうな仕事じゃねぇと思っていたんですよ。案の定猫の名前が付いてやがった!」
「自分で思いついたくせに調子のいい……」
「しかも猫の糞! 縁起が悪いにもほどがある! ですからね、神様の元へとお返しした。それだけのことですよ」
「神主の酒代になるだけだと思うがな」
そんなとても元神使とは思えぬ発言をして、くすくす笑っていた。
最後にヤケクソ気味に賽銭箱に五円玉を投げ入れて、柏手を打つ。
帰り道で先生が口を開いた。
「何を願った?」
「人に話すと叶わないと聞きますよ?」
「そもそも神は死んだネズミの願い事は聞き入れてくれるのかの?」
「それを言うなら、神使の役目をほっぽり出して日々食っちゃ寝している狐の願いも似たようなものでしょう」
むっと先生が不満げな顔で私を見たので、私も同じようにむっと仕返した。しょうもなくなって止めた。たくさんの出店から昇る暖かそうな蒸気を見て、ぐぅと腹の虫が鳴った。
「先生、腹が減りませんか」
「そちはいつもそれだな……」
ふと、そう言えば言っていなかったと思い出して、いつも通りの呆れ顔で人波に紛れ込む先生の背中に、私は声をかけた。
「先生、明けましておめでとうございます」
くるりと振り返って、彼女は笑った。その動きに合わせて結わえた髪がふわりと浮かんだ。
「あぁ、おめでとう」
もう一話おまけを投稿して完結です。
構想では二部構成なので、いつか続きを書くかもしれません。
その時はよろしければまたお付き合いください。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




