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ねずみ録  作者: mozno
第五章 花火のように

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【幕間】なすところもなく日は暮れる

本日は2話投稿です。こちらは2話目です。


 腹が減ったのを自覚して、ミロクが来るのを待つか、と考えてから、あいつが居ないことを思い出した。

 仕方がないので、自分で稲荷寿司を買ってこようか、と考えて足を止める。金はまだあるが、今までのように好き勝手散財するのは控えたほうがよいかも知れぬ。不忍池が下手を打ったらしく、化け術が一切使えなくなったと言っていた。私が彼女の振りをするにしても限界はある。仕事は間違いなく減るだろう。

 することが、ない。弟子なぞ取るまではそんな事に苦痛を感じることなど一度もなかったのに。

 ミロクに預けられた忠二郎とかいう老ネズミは元々狐が苦手なのかすっかり寄り付かなくなってしまった。

 街では今頃年末セールで大わらわだろう。未熟者の弟子でもいたなら、修行の一環と言い張って色々物見に行ったのに。一人では立ち上がる気力もなかった。


「つまらんなぁ」

 私がそう言うとがさりと、結界の入り口付近の草むらが揺れた。

「ああ、退屈で死んでしまいそう。だれぞ買い食いに付き合ってくれる者でも居ないものか」

 私がそう口にすると、まごまごしながら、一匹のドブネズミが草むらから姿を見せた。

「ぜひ行きましょう、今すぐ行きましょう。……はっ」

 飯の種に釣られて出てきたらしい。相変わらずの阿呆ぶりにため息も出なかった。

「……」

「……せ、先生はご存知ですか、私はいままでダブルチーズバーガーが最高位だと思っていたのですが、なんと世の中にはクアトロチーズバーガーなる物が存在しているというではありませんか。これを食わずに死んでも死に切れぬと思いまして、地獄の鬼をだまくらかして戻ってまいりました」

「……」

「あの、先生、……ここは感動的な再会の場面では」

 そう思うなら、少しはそれらしい発言をするがよい。

「ことの次第は不忍池から聞いている。神使となったのだろう?」

「ご存じでしたか。流石姐御。お耳が早い」

「ふん。どうせ別れの挨拶をした手前顔を出しづらかったのだろう。そちのことなどお見通しよ」

「お見それいたしました……」

「腹がへった。稲荷寿司を買ってこい」

「おや、お出掛けになるのでは?」

「そちの話を聞いてからだ」

 はーい、と間延びした返事をして、一瞬のうちにヒトの姿に変じた。結界を出ていこうとするその背中に、私は声をかけた。

「ミロク。よく戻った」

 へへへ、とだらしなく笑って、首の後ろをかきながら頭を下げた。

「はい。ただいま戻りました」


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