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ねずみ録  作者: mozno
第四章 家族

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【幕間】名付け親

本日は2話投稿です。こちらは2話目です。


「この度は御愁傷様です……」

「これはどうもご丁寧に」

 私が弔辞を述べると、机を挟んだ義理の弟、ロクマル君は深々と頭を下げた。彼の叔母、根津フミ氏が猫の襲撃により、亡くなったことで、彼が喪主を務めているのだ。

「本来であれば兄が対応するところなんですが、なにぶん行方が知れず……」

 彼の兄、根津ミロクは現在行方不明だ。本来なら今頃、私の父、忠二郎の計略によって命を落としているはずなのだが、猫たちの話だと狐の邪魔が入り、取り逃がしたらしい。

 話の始まりは昨年末根津家が猫の襲撃によって壊滅したことだった。護国院と仲違いしたことで、猫に売られたなどという噂がまことしやかに囁かれているが、真実は不明だ。

 その後、護国院に引き取られていた、まだ見習いの身であったロクマルが大工修行に浅草寺へと訪れた。なんでも元々うちの妹に懸想していたらしく、向こうから親しくしよう努力してくれたため、事は運びやすかった。彼が正式に職人となり、いくつかの仕事をこなしたのち、妹との結婚が決まった。

 これで根津家は実質浅草寺家に取り込まれ、その大工の技術とコネが手に入る。そうすれば仮に護国院が神使の座を取り戻そうと動いたところで、我々に追い付くことはかなわず、また事前に動きを察知できる、はずだった。

 誤算であったのはロクマル以外の生き残りがいたことだった。それが彼の兄、根津ミロクだった。当時も行方不明とされていたがひょっこり姿を現して、根津家の家長を継いでしまった。護国院と裏で繋がっていたことは明らかだった。婚約の話は取り消したらどうだと意見も挙がったが、既に大量の結納米を持ち込まれており、今更反故に出来るはずもなかった。

 得体の知れない存在ではあったが、謎の経済力は利用価値があると判断した父は出来るだけ親しくするように私に言い付けた。その父が彼を排除することに決めたのが、妹とロクマルの結婚式だった。

 父と新しい相談役の白ネズミが持ち込んだスネークバイトなる飲み物で猫を飼い慣らすことに成功した我々は、結婚式でパフォーマンスのために一芝居うつべく、猫に協力を要請していたが、それを他ならぬ根津ミロクによって潰されたのだ。

 神使である父によると、彼が使った奇妙な技は化け術と呼ばれる狐狸の技術であるらしい。その技術によって大量の米も用意したに違いなく、そしてそれを用いれば我々と同様にスネークバイトでもって猫たちと交渉を行えるだろうとも。浅草寺の護国院に勝る優位性である、猫に襲われないという利点を彼は破壊しうる存在であった。生かしておけなくなったと父は言った。ミロクが普段から口にしていた猫への敵愾心を煽り、今戸に潜入させ、猫たちに彼を排除させることに決まった。


「ミロクさんの行方はまだ分かりませんか。訪ねるとすれば一番にロクマルくんの所に来ると思うのですが……」

「はい……」

 死んでいるはずがない。猫たちから仕留め損なった報告があっただけではない。それなら死んだことにしてロクマルを家長に据えてしまえた。おそらくそれを見越して、東京の空を巨大な姿で飛び回ったのだ。自分が生きている、と他のネズミたちにアピールするために。なんと計算高い……。流石はあの護国院一郎太の秘蔵っ子である。

 だが、我が父、忠二郎が計算高さで後れを取るはずがない。何でも今戸の頭領を酔わせて口を割らせたことがあるらしい。

『猫の頭領、今戸又七郎は言っていた。ギザ耳のネズミに手を出さないならネズミの住処の一つを教えると持ち掛けられたと。つまりミロクを守る立場にあった者、奴の名付け親こそが裏切り者、すなわち護国院一朗太こそ裏切り者なんだ』

 この事実が明るみに出れば、一郎太の失脚は間違いない。

「君の所に来ていないとしても、一郎太さんの所にならどうでしょう。ほら、名付け親な訳ですから」

「豊一義兄にいさん。なに言ってんだよ。ミロクの兄貴の名付け親は伯父さんじゃないぜ」

「……は?」

 自分でもびっくりするくらい間抜けな声が出た。

「護国院の伯父さんは俺の名付け親なんだよ。親父と仲が良かっただろう? だから子供たち全員の面倒を見るよって意味を込めて末っ子の俺の名付けをしたんだ」

「じゃあ、ミロクさんの名付け親は一体……?」

「あぁ」ロクマルは言った。「フミ叔母さんだよ」


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