【幕間】ネズミの居ぬ間に
本日は2話投稿です。こちらは2話目です。
焼き奉行をやる前に手を清めてきます、と言って、ミロクが席を立ったのを見てから、不忍池が口を開いた。
「あの子を助けるために随分派手にやったみたいじゃない。猫に喧嘩を売った所属不明の狐がいるって噂になってるわ」
「すまん。目立ち過ぎたな。そちらに何か詮索でも入ったか?」
「いいえ、特には。ただ、気を付けなさいよ。神には最悪見付かってもいいとして、アレには関わりたくないし」
不忍池が本当に嫌そうな顔をする。その気持ちは私も分かる。
「ああ、分かっている」
「あ、あと、そうだ。アンタ、ミロクちゃんに弟子取るの禁止してたわね? こっちはそのつもりで仕事考えてたってのに……」
急に体を乗り出して、詰問してきた。忙しい奴だ。
「知るか、そんな都合。それに普通のネズミが好き好んで狐の弟子になると思うか?」
「わりといるんじゃない?」
「そんな訳があるか。ミロクは、あやつは物を怖れるということを知らない。それが先天的な物か、家族を皆殺しにされた光景を見たことによるものかは分からん。ミロクは何者をも怖れられない。それは本来であればネズミという種族にとっては致命的なことであろう。ネズミは臆病であるがゆえに天敵や罠を回避できる。あやつにはそれがない。そして、ないから狐の弟子となれた」
「ふぅん。だがらあんな定期的に死にかけているのかしら」
「化け術の才で首の皮一枚、いや化けの皮一枚か、現世に繋ぎ止めているという感じだな」
「あら。才能認めてるんだ」
「本人には言うなよ。直ぐ調子に乗るからな」
「教えてあげたところで、アンタの普段の態度のせいで信じて貰えない気がするわ」