3話
ヒロシマはピンチを迎えていた。
額には大量の脂汗、顔は青白く、歩き方がぎこちない。
「やばい。ぶち腹が痛い...」
そう、先ほど飲んだ川の水が原因である。
もう何度目かの便意に襲われつつ下流を目指して歩き続ける。
「だめだ。もう限界だ」
日差しと便意のダブルパンチによってヒロシマは脱水症状に襲われたのか、残された体力を使ってなんとか日陰に逃げ込み、その場に寝転がる。
「あ~、鉄筋で死ななかったと思ったらこんなことで死ぬんかぁ…さえんなぁ」
自分に向けて愚痴をこぼしながらヒロシマは意識を手放した…
『…ぃ。……ぉい。…おい!』
誰かの声に沈んだ意識を浮上させる。
「おい!大丈夫か!おい!」
それが自分に喋りかける他の人の声だと気が付くのに時間がかかったが、どうにか声を上げようとカラカラになった喉を震わせ、精一杯の声を絞り出す。
「み…水を…水…」
「みず?…水か。待ってろ、今やるから。一気に飲むなよ。咽るからな。」
そういって声の主はヒロシマの首に腕を回し身体を起こすと、口元に水筒のようなものを当てて水を飲ませてくれた。
「んぐ…んぐ……げほっごほっ」
喉の渇きに勝てず水を一気に飲み咽てしまう。
息苦しさより、張り付いた喉が剥がれるような快感に酔いしれる。
飲んで咽てを繰り返しながらも、元気を取り戻すことができたヒロシマ。
「噛みながらこれも飲んでおけ。気付け薬の替わりだ」
そういって紫色の木の実を差し出してくる。
「すみません。ご迷惑をおかけ………」
木の実を受け取りつつお礼を言うために、初めて声の主の顔を見上げて言葉が止まった。
「ん?どうした?」
いきなり固まったヒロシマに怪訝な顔をする声の主。
少し緑がかった肌、尖った耳、筋肉隆々の体、口の端から除く牙、爬虫類のような目。
そう、話ができるから人間だと疑わなかった声の主は人間ではなかったのだ。






