狩り
2031年、突如現れた怪物――喰らう者によって人類の繁栄は終わりを迎えた。
生き残った少数の人類はそれぞれ小さな村や町を形成し、喰らう者の襲撃から身を守っていた。
それから五十年――
ビルが多数建ち並び、かつては多くの人々が行き来していただろう巨大な街。
しかし、今となってはそのほとんどが倒壊、半壊し、比較的原形をとどめているものでさえ、劣化によるひび割れが浮き上がり、蔦などの植物に覆われていた。
そんな街中を、一人の少女は駆けていた。
「ハロルド……メグ……ッ!」
つい先ほどまで一緒にいた仲間たちの名前を呼ぶ。だが、返事が返ってくること来ることはない。なぜなら、もうこの世に二人はいないからだ。
少女は視線を後ろにやり、追ってくる灰色の怪物――カメレオン型の喰らう者を見やる。
その体長は十メートル以上もあり、巨大な目がこちらを常に見ている。
距離はまだ三百メートル以上離れているが、速度が違うせいで距離は瞬く間に詰められていく。
「くっ……こんどはこっち!」
追いつかれる直前、広い通りから狭い路地へ飛び込む。
「ギイイイィィ⁉」
飛び掛かってきた喰らう者はその巨体ゆえにビルに阻まれ、一時的に動きが止まる。
その間に少女は反対側から別の通りから逃げ、距離を取る。
少女が喰らう者と遭遇してから約十分、その間逃げ続けられたのはこの方法が功を奏していたからだ。
だが――
(……ッ!突っ込んでは来るけど、復帰が速くなってきてる!)
喰らう者は少女が距離を取る間もなくビルを超えて追ってくる。
喰われる。
そんな考えとともに、ほんの十分前、少女をかばって喰われた仲間の姿が浮かぶ。
(だめだ。諦めちゃだめだ!こんなところで死んだら二人が犠牲になった意味がない!)
どうすれば逃げ切れるか。少女は自分の周囲に視線を向ける。
しかし、それが致命的なあだとなった。
少女の注意が自分から逸れたことを感じた喰らう者は急に止まり、口から何かを飛ばす。
少女がそれを躱せたのは偶々だった。
「えっ――」
ほんの少し、ほんの少しだけ左にずれたことで、高速で飛んできたそれは少女を掠め、アスファルトを砕いて地面に突き刺さる。
「きゃっ⁉」
その衝撃により、少女は吹き飛ばされ、倒れ伏す。
「……ッ!なに、が……」
少女は顔を上げ、飛んできた物体を見る。
それは喰らう者から伸びた舌であった。
少女が自分を襲ったものが何だったのか認識すると同時に、舌がアスファルトから抜け、元に戻っていく。
「……ッ!」
痛みを訴える体に鞭を打ち、少女は立ち上がり、逃げようとする。しかし、飛び散ったアスファルトの破片に躓き倒れてしまう。
「いった……あっ――」
もう一度立ち上がろうとした時だった。喰らう者は少女の手の届く距離で口を開けていた。
(あぁ……ハロルド、メグ……今そっちに……)
目を閉じ、静かに自分の死を受け入れようとする。
「お前、そのままじゃ死ぬぞ?」
「――えっ?」
突如聞こえてきた声。
顔を上げ、目を開けると、そこには喰らう者ではなく一人の青年が立っていた。
この時はまだ、少女は知らなかった。
目の前に立つ青年が、彼女の、そして世界の救世主となることなど――
投稿ペースは遅いのであしからず