居酒屋。
ザワザワとざわめく居酒屋
人はいろんな人生を歩んでいる。
会社の上司に怒られた。
営業で木っ端微塵に断られた。
今日の髪型は気に入らない。
色んな音がざわめいている。
テーブルごとに、世界が違う。
テーブルの数だけ、世界が見える。
ここは僕と君の世界だ。
あのね。明日は彼氏とデートなの。
僕の目の前の彼女が言った。
あのね。大好きなランドに行くんだよ。
僕の目の前で彼女は笑った。
あのね。お土産は何がいい?
僕に向かって彼女は言った。
あのね。貴方は特別だから、内緒で買ってきてあげる。
僕は密かに喜んだ。
僕の前には、温いビールが置いてある。
彼女の前には水滴のついたオレンジジュース。
僕は注文を躊躇する。
彼女は時計を気にしてる。
ねえ。聞いてる?
ねえ。知ってる?
僕は君が好きなんだよ?
そういうと、君はいつも笑う。
声を出さずにただ微笑むだけ。
僕は拒絶されない優越感に浸る。
でも僕は、この機会を逃さない。彼女に振り向いてもらうために。
何度でも、僕は声をかける。
ねえ。知ってる?
僕は君を独り占めしたいんだよ。
ねえ。わかってる?
君は僕をからかってるんだよ。
ねえ。知っていただろ?
僕は君のことが好きなんだよ。
だから僕は、今日も君の微笑みを見つめる。
その微笑みが拒絶の微笑みと知りながら。