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さとりくんは、腐女子じゃない彼女が欲しい  作者: siki
中学3年生、春休み
9/43

さとりくんは、テイマーになる

「ここから街よりに、魔物はいるか?」


 兎狩りを見せてもらったから、次は俺の番だろう。気が進まないけど。

 街よりだと……チャンス再来かな?


「居る。たぶんスライムだと思う。今度こそ、仲間に出来るか試していい?」

「そうだな。魔物支配のスキルを試すべきだろう。」

”攻撃力が弱いし、テイマーとしてやっていくなら、操った魔物での攻撃をメインで練習させた方がいいか。”


 やったね。毒のスライムだから、次の兎は血を出さずに仕留めることが出来そうだよ!

 毒になった兎肉を買取してもらえるかは分からないけど、俺はフローライトじゃないから、買取価格より汚れない方を選びたい。

 早速スライムの方に歩を速める。


”毒る?毒る?毒る?毒る?毒る?…” 

 相変わらず謎な鳴き声だけど、毒毒連発していた不気味なのより断然マシ。

 魔物を操ることは出来ると思うけど、出来れば自主的に仲間になってくれると嬉しい。

 毒る?を繰り返しているスライムと意思疎通ができるかは、賭けだけど。


 念のための短剣ナイフはしっかり握りしめて、スライムの居る場所に近付く。十分近づいたら、さらに念押しの一手。

『動くな。』

”毒る…?毒る…?毒る…?毒る…?毒る…?…”


 さて、ミッションスタートだ。

『言葉、通じる?』

”毒る…?毒る…?…”

『仲間になって欲しいんだけど。』

”毒る…?毒る…?…”

 ……なんだか、とっても暖簾に腕押しな感じ。もしかして、意思とか無い?でも、声が聞こえるという事は意思はあるはず。


『仲間になって欲しいんだけど。』

 もう一度問いかけ、心の声では無く、スライムの感じているイメージをを感じるように、集中する。

 うーんと、ごはんを分けるのは嫌?スライムのごはんって、何。

 ともかく、言葉は通じているようだ。この方法なら、何とかなるかも。

『ごはんって、何を食べてるんだ?』

 イメージは、草とか虫とかで、おなかが空くと土を食べることもある?あんまり美味しくない?……なんだか、可哀想だ。

 鞄から、出発時に購入したパンを一つ出してスライムに近付ける。

『俺がごはんを用意したら、一緒に戦ってくれる?』

 返答は…なんでもする?それを食べたい。動けない?……了承という事だと思う。パンをスライムの上に乗せた。雪だるまのような見た目になったスライムが動けるように、指示を解除する。


『もう動いていい。そのパンも食べていい。』

 食べる!食べる! と食欲でいっぱいになったスライムは、体を変形させて体の中にパンを取り込んだ。

 半透明なスライムなので、消化中のパンが見えるかと思いきや、パンの分だけ体積が膨らんでいるものの内容物は見えない。咀嚼するようにぷるぷる動いているスライムは、少しずつ体積を元に戻していく。変わらず半透明で透けているように見えるが、パンを消化中なんだよな?……ファンタジー現象だ。

 ともかく、溶けていく内容物を見せられなくて済むという意味では、いい現象だ。

 大食漢では無いのか、パン一つで満足しているようなので、これなら何とかなりそう。 

 仲間になったという事だが、突然裏切って毒られると困るので、念のため命令しておこう。


『俺の指示に従うこと。勝手に毒を使わないこと。できる?』

 スライムのイメージは……出来そうだ。毒を内部にして、表面を毒じゃないようにするようだ。これなら、触れるかも。

 ゆっくりとスライムに手を乗せる。……ぷにぷに、ぷよぷよ。なかなかの触感だ。強く手を押し込むと中に入ってしまいそうだが、毒になると怖いので、軽くぷにぷよして手を離す。

 仲間一号ゲット!


「仲良くなったよ!次は、このスライムで兎を仕留めてもいいんだよね?」

 フローライトの方に振り向き、毒る?スライムを、上機嫌で指す。


「そうだな。」

”スライムに触って平気そうにしている。ちゃんと、魔物支配できたようだな。上手く角ウサギを狩れるようなら、指導は十分か。”


 テンション低いな!金貨2枚を受け取っておきながら、俺への説明を心底面倒くさそうにするとか、やめてよ!

 フローライトと比べれば、初の仲間となったこのスライムの方が断然可愛い。ぷにぷよだし!

 せっかくだし、名前を付けようか。毒る?って言うから、どくるで、くる。くるとかってってどうだろう?


「よし!お前の名前は、くる!どう?」

”毒る?毒る?毒る?…”

 スライムに集中すれば、認識ているようだ。来に決定!!

「来! あっちの兎を仕留めに行こうか!付いて来て!」

”毒る?毒る?毒る?…”


 集中しないと来が何を言っているのか分からないけど、俺の後ろには、ついてくる来がいる。これから、ぼっちとは無縁だな!フローライトと違って!


うさうさとういう声の聞こえる方に進む。

 兎だし、スライムの動きだと逃げられると困るので、動きを止めさせてもらう。

『動くな。』

 それから、来を差し向ける。

「来、あの兎を毒る!」

”毒る!毒る!毒る!毒る!…”

 兎に近づいた来は、体当たりをするようにぶつかり、そのまま兎を飲み込もうとする。

『それ、食べちゃダメ!毒るだけ!』

”毒る…!毒る…!毒る…!…”

 兎の体の半分を覆ったままだが、そこで止まってくれた。ちょっと不満そうだった。あと、毒で死ぬまで待つには、そこそこ時間がかかるらしい。

 他の攻撃手段を聞くと、細い触手を伸ばしてパシリと兎を叩いて見せた。…あまりダメージは入ってなさそうだった。触手を刃物のようにするというのも難しいらしい。ぷにぷよだし。


 兎は毒の苦痛に呻くように身もだえているが、動かないように命令しているため、されるがままだ。顔色が悪くなってきている気もするが、もともと紫だからよくわからない。


「おい、早く倒せ。このまま待つつもりか?」

”毒で死ぬまで待つつもりか?そんな長時間を、ここで足止めされるなんて最悪だ!”

 そうだよね。俺でも飽きるかと思うくらいなのに、フローライトが待ってくれるわけないか。


「来に倒させたいんだよ。でも、このまま待つのは俺も嫌だから、このまま運ぶよ。いずれ死ぬでしょ。」

 来にイメージで伝える。食べないように兎を取り込んで運ぶようにと。

 食べれないのは不満そうだったが、了承してくれた。兎の残り半分も飲み込んで、兎の分だけ体積を増やした。

 ……これ、いいかも。死骸を触らなくていいなんて、便利。

 今まで、鳥とか動物の死骸を見つけたら触らないように言われてきたから、あんまり触りたくない。この世界に慣れれば、フローライトのように魔物がお金に見えてくるのかもしれないけど。それまでは、出来るだけ避けて行こうと思う。


「そのまま街に行くつもりか?」

”死んでない魔物をそのまま連れて行くのか?そのままというのか、いずれ死ぬわけだから、殺しながらってことだよな。……変なやつだ。異世界人だから、感性が違うのか?”

 ……感性を疑われてしまった。俺に対する若干の嫌悪感を感じた。

 変かな?異世界人だからという事で、納得してくれたみたいだ。次回から気を付けよう。


「うん。もう戻る?それなら、門で来を連れて歩けるように登録しないとだったよね?」

「狩りのやり方は説明したから、戻ろうか。」

「分かった。今ので説明が終わりってことは、この辺りはスライムと角ウサギしか出ないってこと?」

「大体はそうだが、それ以外にも出ることがある。詳しい種類と買取部位は、ギルドで図鑑を借りるか買って覚えるといい。」


 説明する気無しってことだね。あとで、エクレアに図鑑を見せてもらおうっと。


「分かったけど……魔物以外の動物は、いないの?」


 空を見上げる。青空と太陽、そして鳥のようなものが見える。

”今日は木の実が食べたいー。”

 暢気そうに空を飛んでいる。兎やスライムと違ってちゃんと喋っているから、狼と同じくらいに強いのかな?

 俺の視線を追うように空を見上げたフローライトは、納得したように頷いた。


「アレは普通の鳥だ。魔物以外は魔石は無いが、ああいう鳥や他の獣も、薬草になるような植物も買取している。それも図鑑を見れば分かる。

 あの鳥は、魔物支配が上手く行かないんだろう?普通の動物や、高位の魔物は操作系のスキルが効きずらいようだから、気にしなくていい。」

”動物は操れないレベルのスキルか。弱い魔物しか操れないなら、異世界人のわりに普通のスキルだな。まあ、2つもスキルがあれば十分か。”


「そうなんだー。」

 なんか勘違いしているようだが、地味な異世界人になれそうだし、それでいっか。

 やっぱり、魔物が変わっているだけで、普通の動物は普通なのか。

 フローライトの考えは裏を返せば、普通の動物や人間も操れれば、高位の魔物にも有効ってことだよな? 慢心しそう。




 小学校を卒業した春休み、じいちゃんに動物園に連れて行かれたっけ。

 能力の急成長もあって動物たちの声を聞くことができるようになった俺は、御守りを取り上げられた状態で延々と聞かされた。口から発せられる音と、人と動物の心の声の騒音に、頭が痛くなったな。

 更に、別の種類の声も、この時初めて聞かされた。


『優紀。これが、もう一つの声だ。』

 僕の中に響くじいちゃんの声。

 続けてさらに、惰眠をむさぼるライオンに声を掛けるのも聞こえた。ライオンはその声に従って起き上がり、僕たちの近くに歩いて来て一度吠えてから、また元の位置に戻っていった。


「挨拶してくれたようだ。よかったな。」

「うん…。」

 あまりの衝撃に、喜んだ態度は取れなかった。周りの大人たちは、それを僕がライオンの咆哮に恐れをなしたからだと思っていたが、少し違う。


『聞こえたな?これが相手に直接意思を送り込む声だ。近くに居ると今みたいに漏れ聞こえることもあるだろう。成長したら、遠くのこういう声も聞こえるかもしれない。この声を使う相手がいたら、出来るだけ近付かないようにしなさい。』


 もし自分に心の声の耐性がなければ、じいちゃんのこの声の意思に、自分の意思が負けることは容易に想像がついた。この声は、いつも聞こえているようなものと違う。耐性の無い者には、暴力的な力を持つ特別な声だと理解した。

 こんな声を使うような奴がいるなら、それは同類。同類の力あるモノ。脅威になりえるモノ。


 心の声を聞くことも出来ず、こうして聞かれていることにも気付けずに思考を垂れ流す人間や動物は同じ種類だろう。

 この特別な声を聞き、操ることのできる僕やじいちゃんは、この場に居ながら、別の場所に立っている気がした。僕は違う。僕やその同類というのは、大多数の人間とは違って………。




 ___黒歴史、封印!!!

 ちょっと特別感に酔いたい時ってあるよね?少し前のことなのに、恥ずかしい!!

 身体能力も普通で、病気にも罹るし、角が生えているわけでも無い。赤い血を持つ俺は、人間と同じだという結論に達した。

 確かに変わった能力はあるけど乱用せず、塩原さんの妄想攻撃に身もだえながら耐えていたんだ。自制心のある、普通の人間で間違いない。

 この世界では人間も魔法やスキルという変わった能力があるようだし、なおさら普通の人間だよね!……そうだよね?

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