さとりくんは、スキルを使う
”毒ろうか?毒ろうか?毒ろうか?…”
いや、遠慮する。
目の前のスライムは、落ちてきた状態のまま動きを止めて、声を飛ばし続けている。
これなら、居場所が分かるし、何の状態異常かも分かる。
……ただ、鳴き声のように毒ろうか?を繰り返されると、微妙な気持ちにはなる。これ、生き物?スライムって、なんか変わってる…。
「よく避けられたな。スライムは、色の変わっている所を攻撃して破壊すると、倒すことが出来る。それ以外の物理攻撃は無効だ。ついでに魔法も見せようか。
”ファイヤーボール”」
フローライトの指先に火が灯る。それを、毒ろうかと繰り返しているスライムに飛ばした。
小さく見えた火だが、スライムに当たった瞬間に燃え上がった。数秒燃えて、鎮火した後には、核のような部分以外のゼリーが2周り程減っていた。
”毒ろうか!毒ろうか!毒ろうか!”
うわっ! 先ほど落ちてきた時のように、鳴き声のような言葉のテンションを変えてこっちに迫ってきた!
毒らない!毒らないから!毒、いらない!今攻撃したのはフローライトなのに、何で俺の方に来るんだ!
慌てて鞄に仕舞った短剣を取り出そうとする。先に持っていれば良かった!
もたついている内にスライムが近くなり、俺に触る前にフローライトが剣で核を壊して、スライムを倒した。
「こんな感じで、魔法を使うとスライムは小さくなるが、攻撃力の高い攻撃でもなければ致命傷にはならない。大きなスライムには、こうやって小さくして剣が届くようにしてとどめを刺すんだ。あと、街の外に出たら、武器はすぐに使える位置に置いておけ。」
”街の外では魔物が出るって伝えたよな?ダンジョンで魔物を倒すって言っただろ?馬鹿なのか?”
「…はーい。」
おっしゃる通りです。スライムから変化した魔石を拾っているフローライトに、何も反論出来ない。
やっと取り出したナイフを握り、次に備える。
「それで、何で上から落ちてきたスライムに気付いたんだ?」
”察知とか索敵とかのスキルなのか?”
ええと、それでいっか。
「なんとなく、居るなーって思ったんだけど、これがスキル?」
「察知か索敵系だろうな。他に居るのが分かるか?」
耳を澄ませるまでもなく、聞こえている。
”毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒…”
さっきの毒ろうか?より、ずいぶん不気味な声だ。
「分かるけど。一番近いのは、そこの横道の所に、同じようなスライムが居ると思う。少し離れた所に、他にもいる感じがする。」
「そうか。やっぱり、索敵のスキルだな。ついでに、さっきの魔法を使ってみればいい。やれ。」
「え?…はーい。」
やれ、とか言われちゃったよ。
でも、さっきのスライムを見る限り、走れば逃げられそうだし、いいか。
毒毒スライムの居る横道を覗き込み、すぐに後退する。
”毒! 毒!毒!毒!…”
思った通りに、鳴き声のテンションを変えながら、飛びかかってきた。
でも、先ほどと違い、避けられた後に静止することなく、そのまま俺に迫ってくる。毒、いらない!
後ろに下がりながら、呪文を唱える。
「”ファイヤーボール”」
フローライトと同じように、指先に火が出た!それをスライムに投げる!えいっ!
見た目通りにしょぼい火は、スライムに当たるも、すぐに消火された。……なんか、思ってたのと違う。
スライムは直進的に向かってくるだけだし、サイズにもそこまで大きいわけじゃない。慌ててナイフを色の濃い部分を刺すと、そのまま消滅して魔石に変化した。
……せっかくの魔法なのに、意味無かったな。
意気消沈する俺に、フローライトは慰めるような声音で声を掛けてくれた。
「魔法がでるだけで、十分だ。スライムは倒すのが簡単だから、練習すればいい。」
”魔法しょぼい。剣は勢いがない。そもそも動きにキレがない。才能が無いな。”
心の声が正直すぎる!そんなので、やる気が出るわけないだろ!初心者なんだから、ちゃんと指導しろよ!
「他の魔法は無いの!?なんか、すごいヤツとか!」
「俺が教える魔法は、初級魔法だけだ。範囲とか威力とかを追加して、自分で鍛えろ。もしくは、魔法を教えてる奴に弟子入りすればいい。」
「初級だけ?ファイヤーボール以外は無いの!?」
「あとは、ウォーターボールか。ファイヤーボールが使えれば、同じ威力のが出ると思う。次にエアカッターと、アースウォールがあるが、あの威力だと出ないかもしれないな。
練習するなら、この4つからだ。魔法系の能力が無くても、索敵が出来れば十分だろう。」
”攻撃力に欠けるが、出る種類まで分かるなら、強い魔物を避けることが出来る。悪くないスキルだ。ただ、索敵が効かない敵に会ったら終わるな。”
一言余計だ!でも、魔法のスキルも無いとすると、本格的に読心系の覚能力しか持ってないかも。
「分かった。索敵能力を基本として、戦力を磨くようにするよ。」
「それがいいと思う。」
”他に有用なスキルが無いなら、俺はパーティーを組みたくないな。勝手に頑張ってくれ。”
やっぱり、俺とパーティーを組むつもりは無いようだ。俺も、フローライトなんか御免だけどな!
毒毒スライムの魔石を拾って仕舞う。これは俺が倒したんだから、もらっていいよな?
それにしても、今後も冒険者としてやっていくには火力不足かも。
他のスキルって言うと…どうだろう?
昨日の、アレは使えるのかな?
”毒だー。毒だー。毒だー。…”
天井伝いに、スライムが近づいて来たのが分かった。
今度のスライムの鳴き声は、さっきのよりも可愛いかも。
”毒だー!”
テンションの上がった声がして、落ちてくる。それを迎え撃つように、半歩下がってその方向にナイフを突き出した。
核の部分に当たらなかったようで、にゅるんとナイフを抜けて、落下した。
”毒だー!毒だー!毒だー!”
今度のスライムも、落下した後、静止することなく迫ってきた。
後退しながら、心の声で命令する。
『動くな!』
結果、スライムは前進を止めて、停止した。
”毒だー?毒だー?毒だー?”
ちょっと不安そうな声に聞こえる。可愛いかも。
うん。昨日の狼の時も思ったけど、コレ使えるかも。
家で母さんと内緒話する時に使ってたけど、魔物の行動も操作出来るなんて。
そういえば、前に学校に居る時に、母さんから連絡があったな。
『帰ったら、頼みたいことがあるんだけど。』
今言うのかと思って返事をしようとしたら、厄除け御守りの効力で能力を抑制していたから、返事できなかったんだよな。
『たぶん、まだあんたの力じゃ返事できないだろうから、拒否は認めない。帰ったらお米を2合炊いといて。お願いね。』
別に、メールを入れてくれればいいとは思うけど。
出勤する時にお米を炊くの忘れたのに気付いて、通勤で学校の前を通るから、その時についでで声を掛けたんだと思う。メールより、声を掛けるだけの方が楽だもんね。
そうだった。この時は、御守を付けた状態だと、心の声を出せなかった。
思えば昨日から、御守を付けていない時のように、いろいろ聞こえる気がする。
ちゃんと御守りを付けているのに聞こえるし話せるなんて…もしかして、俺の覚能力が上がっているかも。小学校卒業とかのタイミングで能力の急上昇があったから、中学卒業のタイミングでの急上昇もあり得るかも。
……そうじゃないなら、この世界に、あの神社の神様の影響がないから、御守の効力が無いとか?
そうしたら、本格的に、彼女も帰還も絶望的じゃないか?御守りを外して、どうなってるか確かめないと!
「何やってるんだ?」
”魔物が止まったなら、とどめを刺せ!”
「あ!」
ざっくりと、フローライトが毒だー。を切り殺していた。
ちょっと物思いに耽っている内に、あの少し可愛いスライムを!酷いよ、フローライト!
「なんだ?倒したらダメだったか?」
”不自然に、動きを止めていたかもしれない。何かしていたのか?”
「ええと…なんか、さっきのスライムは、なんか出来そうだったんだけど。」
「なんかって、なんだ?」
”何かの攻撃スキルか?そうじゃないなら、テイマー系か?”
テイマー系!ちょうどいいスキルがあるんだね!
「なんか、仲良くなれそうな感じ?」
「仲良くっていうのはどうかと思うが、魔物支配系のスキルかもしれないな。」
「そうかも。上手く行ったら、あのスライムを連れ出せたかな?」
「無理だろう。ダンジョンの魔物は、基本的に外に出ない。魔物を操ってダンジョンの外に出そうとしたら、支配が解けて襲ってきたとか聞いたことがある。
外で、使えるか試して見ればいい。そこで上手く行ったら、門で申請すれば連れて歩けるようになるはずだ。」
”テイマー系か。さっきの反応は面倒だな。有用そうだが、テイムされているのか、ただの魔物が判断つかないから、無しだな。”
この能力は、フローライト的に面倒なようだ。俺としても、フローライトと組む気はないから好都合。
「じゃあ、後で外で試すよ。」
それにしても、ダンジョンの魔物は外に出そうとしても、出せないのか。
ただ出せないんじゃなくて、襲ってくるのは怖いな……。
”この前の、弱そうなの!また、来てる!”
スライムなら俺の運動神経でも何とかなりそうだけど、こっちは駄目だ。
『また来るから、今はこっちに寄って来るな!』
”あー!声、聞こえた!面白い!近付けない?…面白い!”
面白がられてる。青い狼か。攻撃力としてどうなんだろう。
スライムとは、意思の疎通が難しそうなんだよな。狼の方が会話が成り立つし、強いのかもしれない。
なんか、気に入られたみたいだし、寄ってくるなら攻撃力として使ってもいいかもな。
大型犬みたいで、可愛かったし。
フローライトに、うっかり殺されないようにしないと。