さとりくんは、紛れる
ギルドの外に出た。
エクレアからもらった地図を確認する。
「今から、どこに行くんですか?」
「そうだな。その服だと目立つから、服を買いに行こうか。」
”服を買って、装備を用意して、宿に飯があって、それでいいな。”
フローライトが、横目で地図を確認して答えた。
そうだね。ここから行くと、服屋があって、武器屋があって、宿屋の順の道筋だね。効率的だ。…フローライトの面倒くさがりの性格が活きてるね!
「わかりました。ところで、その鎧の頭の部分はどこに行ったんですか?」
性格にから想像できない、さわやかな顔が見えている。隠せばいいのに。
ギルドでは、頭部を手で持っていたと思ったけど、いつの間にか手ぶらになっている。
「仕舞ったんだ。拡張鞄は、異世界には無いのか?」
腰にある、魔石をしまった袋の横、ウエストポーチを指で示している。
そのポーチには、どう見ても入りそうにないサイズだったんだが。
もしかして、なんでも入る有名なポケット的な魔法の品なのかな?それ、欲しい。
「見た目よりも物が入るってことですよね?そんなの、無かったです!それって、普通に買えるんですか?」
「一般的なものだ。持ってないなら、買うべきだな。」
”そうすると、見た目通りに何も持っていないなのか。可哀想に。”
今更ながら、同情された。
突然の異世界にそこそこ混乱したけど、能力的に騙されたりしないだろうから、比較的楽観視してたんだよな。
でも、今まで散々見捨てようとした挙句、報酬の事ばかり考えていたフローライトに同情されると、なんか悔しい。
「拡張鞄欲しいです。でも、何で仕舞ったんですか?元のように、被ればいいじゃないですか。」
「街中で顔を隠していたら、怪しまれるからな。外に出る時には、そのまま被っていることもあるが、買い物する時には外した方がいい。」
「そうですか。」
そうなんだ。たしかに、装備で頭まで隠している人は見当たらない。頭部さえ外してしまえばフローライトも街に溶け込んでいる。この辺りでは、そういうマナーらしい。気を付けよう。
「そういえば、ランクは何だった?」
「ランク?身分証はEって書いてありました。」
「E?そうなのか?…なら、明日はダンジョンに行っても大丈夫だな。」
”15歳以上なのか?それにしては小さい気がするが、幼く見える異世界人だな。”
小さいとか、これから成長期なんだよ!あと、東洋人は若く見られがちなんだ!仕方ないだろう!
「もしかして、Eより下もあるんですか?」
「Fがある。10歳から14歳が登録すると、冒険者見習いのFランクになる。15歳からは、ダンジョンにも入れるし、他の街にも行けるEランク以上に上がるんだ。」
「へえ。フローライトさんは、何歳ですか?」
「俺は16歳だ。」
「え!俺も、今年16歳になるけど?なんだ、年齢近いじゃん!」
小さいとか言われたけど、フローライトと比べたら確かに…いや、フローライトが老け顔なんだよ。二十歳前後かと思った。
学年としては、一つ上かもしれないけど、敬語とか要らないよね。報奨金も出てるようだし、気にせずいろいろ聞いちゃおうっと。
「そうなのか。」
”そうは見えないけど、なんか、懐かれたか? 2.3日の付き合いだろうから、我慢か。いや、異世界人ということだし、便利なスキルがあるようなら、活用させてもらおうか。”
懐くとか、我慢とか、失礼だ。活用しようとか言っている人を、信じる気にはなれないな。こちらとしても、2.3日の付き合いで終わりにしたい。
ついでに、エクレアの興味も俺にとばっちりが無いように、フローライトが独り占めしておいてほしい。一押しらしいし。関わりたくないなぁ。
地図と見比べて確認する。
「ここが、服を売っているお店だね?」
「そうだ。何かこだわりが無いなら、任せた方が早いぞ。」
”早く終わらせてほしい。選んでいる間待つのは、退屈だ。”
はいはい、分かってるよ。特に、服にこだわりは無い方だから、選んでもらえるならその方が楽だ。
「なら、そうしてもらうよ。」
ほっとした様なフローライトに付いて、店の中に入る。
フローライトは、奥に居る店員に声を掛けている。
「いいか?こっちの奴の服が欲しい。異世界人で、今日保護した。」
「異世界人!?珍しいね。その服も、珍しいね!売るかい?」
店員のおばさんに、食い気味に声を掛けられた。威勢のいい感じに、ちょっと驚いた。
「え?えっと、売ってもいいですけど、替えの服とかも無いので、先に買いたいです。」
「そうだね!来たばっかなら、しょうがないね。一式揃えてあげるから、色とか雰囲気とか希望はあるかい?」
「え?いいえ、特にないです。あ、でも、普通の服がいいです。普通に、地味な感じでいいです。」
「普通に地味?もったいないけど、初めだからいいか。フローライトが保護したなら、冒険者をやるんだろう?外に出られるように、揃えるから、ちょっと待ってな。」
「あ、はい。」
服を探してくれているのだろう。おばさんが、店の中を周っている。選んでもらえるのは、助かる。
「装備はどうする?俺みたいに、鎧にするか? 魔法とか武器が決まらないと難しいんだが、接近戦は出来そうか?」
「接近戦。それは、ちょっと難しいかも。」
「そうか。なら、防御力高めのローブを用意してもらった方がいいな。」
”だろうな。強そうには見えない。強い魔法が使えれば分からないけど、基本前衛は難しいだろう。ウルフで腰を抜かしていたし。”
接近戦は自信ないよ。でも、異世界に来たばっかで、あんな大きな狼を見たらへたり込むのも普通だって!失礼な奴だ!
フローライトが、おばさんに追加で要望を言いに行ってくれた。
なんだか、15歳には見えない!とかっていうおばさんの聞こえたけど、東洋人は若く見えるんだから仕方ないじゃん…。
しばらく待つと、街中を歩いている人たちのような服の上下と下着類を3セットと、濃い緑の厚手のロープと、皮のブーツ1足、肩掛けの濃い茶の鞄と、皮袋が3枚用意された。
「この鞄は5倍拡張で、この袋は3倍拡張だよ。今着ている服を売ってくれるなら、銀貨4枚に負けるよ!」
”こんな小さい子が異世界から来たんだし、まとめ買いしてくれるんだから、少しは負けてあげないとだね。でも、その服を売るならうちで売ってもらわないと困るよ!”
エクレアが紹介してくれただけあって、いい人そうだ。ただ、この服は絶対に欲しいそうだ。
どうせ卒業したし、無くなって困るものでもないから、別にいいか。
「わかりました。売ります。今着替えますか?」
「いいのかい!奥の試着室を使っていいから、頼むよ。」
「はい。」
用意してもらった、上下セットを持って、奥の試着室に入った。
下着は売らなくていいよね?下着以外を着替えた。ベルトも用意されていたのでそれに変える。
おばさんの見立て通り、サイズもバッチリあっていた。
ポケットに入れていたハンカチと御守を、お金の入った袋に移し替えた。
ハンカチとかタオルとかも、持ってた方がいいのかな?
試着室から出て、おばさんに話しかける。
「あの、洗ってないんですが、このままでいいんですか?」
「大丈夫だよ。任せておいて!」
洗ってないのが気になるが、そのままでいいというので、そのまま脱いだ制服を渡す。
靴が用意されているから、たぶん、靴も欲しいんだろう。ローファーでは、戦ったりするのは難しいだろうから、これも売ってしまっていいか。3年間履き潰したボロだけど、いいんだよね?
靴も履き替えて渡し、先ほど持って行き損ねたローブを羽織った。
よし。これで俺も、この街の住人のようだ。大多数に紛れると安心するよね。
「あと、ハンカチとかタオルとか用意しなくて大丈夫ですか?」
「そうだね。それも、用意するね。鑑定するから、ちょっと待っておくれ。」
「あ、はい。」
真剣な表情で、脱いだ制服をひっくり返したりしながら確認されると、少し恥ずかしい。大丈夫だよな?いくらくらいになるんだろう。
”ちょっと変わった材質だけど、こんなデザインは他にあったかもしれない。金貨1枚くらい?それくらいが妥当だね。”
「これを金貨1枚分で買い取らせてもらうよ。その服と差し引きして、銀貨6枚払えばいいかい?」
金貨1枚-銀貨4枚=銀貨6枚という事は、銀貨10枚が金貨1枚の価値のようだ。銅貨も同じかな?
「それでお願いします。」
「はいよ。布はおまけするよ。」
おばさんからお金を受け取り、用意してくれた服の上に手ぬぐいのような布が数枚足された。
「え、ありがとうございます!」
「これからも、ご贔屓に!」
今持っているハンカチはタオルハンカチなんだが、もしかすると、これも高く売れたりして?とりあえず、それはお金に困った時でいいか。
豪快に笑うおばさんに笑顔を返し、鞄を肩に掛けて服類を仕舞った。
5倍拡張だったか。全部入った。すごく便利だ。
「次に行くぞ。」
”やっぱり、金貨1枚分だったか。見立て通りだ。それだけ金を持ってれば、多少放置しても問題ないな。”
「お願いします!」
フローライトに付いて、店を出る。
また見捨てようとする!でも裏を返せば、この位のお金があれば、しばらくは何とかやっていけるってことだろう。服の見立てが出来たように、フローライトの金銭感覚は、信用していいかもしれない。
しばらくあれば、親切な人を見つれられるかもしれない。
街中だし地図もあるし、もう見捨てられても、怖くないからな!