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さとりくんは、腐女子じゃない彼女が欲しい  作者: siki
中学3年生、春休み
38/43

さとりくんは、泣かせる

 妖怪ごっこによるエネルギー回収も、コア周りの石への覚能力詰めも順調に進んだ。

 お昼ごはんは起きている俺と来だけで済ませた。


「動ける……?」

”エネルギー足りてる? なんで?”


 お昼過ぎ、オペラが起床する。

 ついでに大上もあくびをしながら起き上がった。


「おはよう。冒険者を怖がらせておいたけど、動けそう?」

「動けるの。ありがとう。」


 ベッドと呼んでいいのか分からない石の台から、オペラは降りて立ち上がる。

 元気になって良かった。

 やっぱり、エネルギーと体調が連動してるってことだね。


 オペラが輝石の前にいる俺に向けて歩き出すと、こつん何かが落ちた音がして、ちょうど俺の方に転がってきたそれを拾い上げる。


「これは?」

「涙、そうなるの? 初めて見たの。」


 拾った小さな真珠サイズの石は、白いけれど真珠と違って透き通っている。

 光の角度によって青い光沢を放つ石は、すごく綺麗だ。


 近付いて来たオペラも、俺の手元を覗き込んでいる。

 大上がオペラを追って台を降りる時に、同じものがさらに2つ転がったので、それも拾う。

 3滴分の涙ということか。


「すごく綺麗だね。」

「そう? ……ありがとう。それ、あげる。」

「いいの?」

「いいの。」


 頬をピンクに染めて、3つとも俺にくれると言うので、いそいそと鞄にしまう。

 貴重なものを手に入れた。

 彼女の涙を大事にする俺……ちょっと変態みたいだけど、気のせいだよね? 彼女がくれたんだから、いいんだよね?


「そんなことより、あくびは眠くなってダメなの。ちゃんと泣ける方法は他にないの?」


 そんなことより、か。小粒だとダメってことかな? 貰った石を返す気はないけど。

 つらくて悲しいことを思い出すこと、あくびをすること。俺が出した案は失敗してるのに、俺ならなんとか出来ると信じ切っているのが分かる。嬉しいようでいて、プレッシャーを感じるような背筋が伸びる心境だ。


「一応あるけど、その前に一つ聞いてもいいかな?」

「なに?」

「ダンジョンに落ちている石って、どうやって作ってる?」


 突然どうしたと思われるかもしれない。

 でも、血が赤い石になり、涙が白っぽい石になるというなら、ダンジョンに転がっている水晶が何なのかが気になって仕方ないんだ。


「ダンジョンの? あれは、エネルギー……力を、こうギュッとして、ギュギュッとするの。」


 ギュ?

 オペラは両手をおにぎりを作るように重ね、軽く振っている。

 すぐに開いたその手を見れば、見覚えのある透明で小さな石が乗っていた。


「これが一番簡単で低コストなの。でも、魔力とかエネルギーを蓄積すると、こうなることもあるの。」


 オペラが、こうと言いながら指したのは、今俺が触っている群生した輝石だった。

 元々はパステルカラーに光っていた石だ。あの小さな石が、オペラやコアのエネルギーを蓄えて氷柱のように伸び、淡く発光するようになるなんてスゴイ。


 ……そして、そんな石を汚すように黒くしている事に罪悪感しかない。本当に、これを全部黒くしていいのかな? オペラが便利に使うためなんだけど、罪悪感が半端ない。


「どうしたの? もういい?」

「……うん。ちょっと気になっただけだから、教えてくれてありがとう。」

「そう。次は泣く方法を教えて? あるんでしょ?」


 体液が石になるとしたら、ダンジョンに撒かれている石が汗とか唾液とかの可能性を想像していたけど、そうじゃなくて一安心だ。もしそうだったらどうしようかと、オペラが寝ている間に悩んでいたことが無駄になって良かった。

 もちろん、こんな想像していた事なんて、本人に言えるわけがない。


 深い追求も無く、俺の罪悪感なんてどうでもいいとでも言うような催促はありがたい。


「あるよ。一つは、玉ねぎという泣ける野菜を切ることだけど、今は無いから街で探してこないといけない。もう一つは、俺が覚能力でオペラを泣かせることかな。」


 無難なのは、玉ねぎだ。実際にあるかは分からないけど、料理の中に玉ねぎとしか思えない野菜が入っていたのを見たから、どこかに売っているはず。

 簡単なのは、俺がオペラを泣かせることだけど、どう思われるかが問題だ。たぶん嫌がらないだろうけど、嫌がられたらショックだとも思う。だからこんな、遠回りの言い方になった。


「覚能力で? スゴイ! 全部それで解決じゃない? スゴイ!」


 両手を叩いて喜ぶオペラに、俺も笑顔で頷く。

 嫌がられなくて良かった。

 でも、本当にオペラの言う通り、この世界に来てからの困ったことは覚能力で全面的に解決してる気がする。便利だとは思っていたけど、ここまでの性能だとは思って無かったんだよね。妖怪由来の能力もまだまだ捨てたもんじゃない。

 一家相伝とか、代々伝わるなんちゃらとか、注ぎ足し注ぎ足しとか、古くていいものもあるからね。注ぎ足しはちょっと違うか。

 ともかく、新しいものが全てじゃないんだよ。俺としては、折角なら新しくて強そうな能力が良かったけどね……。


「ねえ、泣かせて。一度ユウキに操られて見たかったから、楽しみなの。」

「え、本気で?」

「なんで? 私に、変な事するの?」

「いや! しないけど! ……しないけど。」


 しないけど、したくなる男心も分かって欲しい。

 目の前で彼女が好きにしてと言ったら、ちょっとくらい魔が差しそうになるよね?


「しないなら、いいでしょ? 泣きたいの。ね、お願い。」


 葛藤する俺の心なんか無視して、オペラはぐっと顔を近づけて来る。

 甘い匂いと、懇願するチョコレートの目、あと少しで唇が触れ合ってしまいそうな距離に頭が沸騰する。小さくコクコクと頷きを繰り返すしかできなかった。


 ……こんな状態になるんだ。これからは、好みの人がいれば反応するとか言う中里のことを即物的だとか言えない。

 俺の場合は、好みの子はオペラしかいないけどね!


 顔を茹らせる俺を見て、くすくすと笑うオペラは至近距離のままだ。笑うことで赤みの刺す頬により、可愛さが増す。


 俺をどうする気だ!! このままキスしていいのか!? 今なのか!?


”触りたい”


 え?

 俺の声か、オペラの声か。疑問に思った一瞬後には、お互いの距離感が普段通り戻っていた。

 今だった? もしかして、今がチャンスだった?


「泣かせて?」


 にっこり笑うオペラからはもう、”ちゃんと泣いてみたい”という意思しか感じられなかった。

 え? 聞こえたよね? 幻聴じゃないよね? えぇ……。

 

 どうやら、タイミングを逃したらしい。

 便利な能力のハズなのに、なんて使えないんだ! タイミングを逃したことが分かっても遅いよ!!

 まあ、アリのタイミングがあることが分かったのは収穫か。


 さてさて、オペラの便利な彼氏さんは、ちゃんとお仕事しますか。


『泣いてみて?』


 優しく声を掛ければ、オペラの目に涙が浮かぶ。次々とこぼれて行く涙に、驚きの表情を浮かべると、顔を隠して俯いてしまった。

 ビターチョコレート色の髪が顔にかかり、表情が見えなくなる。


「スゴイ……ちゃんと、泣けてるの……。」


 少しかすれた涙声。

 喜んでいるはずなのに、不安になる。

 今、俺がオペラを泣かせてる。間違いなく俺が原因だ。感情も何も関係なく、この現象を俺が起こしている。


「そろそろ止める? 大丈夫?」


 泣いている彼女の姿にそわそわして、泣き止ませた方がいいんじゃないかと不安になる。

 が、一刀両断された。


「待って! まだ。まだなの。これだと足りないの!」


 むしろ、慌てさせてしまったようで、涙を溜める様に顔に当てた片手をそのままに、しゃがみ込んで何かを探している。

 探しているのは、赤い玉。

 オペラは俺が動くよりも早く、この部屋に転移するために使っている石と並べて置いた2つの赤い玉を、両手で拾い上げる。片手に1つずつ。涙を溜めていたはずの片手から振り落とされた石が、硬い音を立てて床に落ちる。

 オペラに見向きもされなかった石を拾う。

 さっき貰った涙の石より大きくて楕円。白くて透き通っているのも同じだけど、光の角度でピンクや黄色の光沢を見せている。これも、可愛い。

 

”早くしないと、泣き止ませられちゃう!”


 泣いているオペラを見ると不安になる。

 焦らせるのは可哀想だけど、早く泣き止んでくれるならそれに越したことはない。

 泣き止ませられちゃうって言い方が、変な感じがするけど。


 手元の赤い玉を覗き込むと、こぼれた涙があたるごとに色が淡くピンクになっていった。

 赤に白を足すとピンクになるのは分かるけど、完成している石の色が変わっていくなんて、スゴイね。

 でも、あの赤がルビーの赤だとすると、ピンク色になったら石の種類も変わってるんじゃないかと思うんだ……まあ、ファンタジー世界だからそんなものなのかな?




 

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