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さとりくんは、腐女子じゃない彼女が欲しい  作者: siki
中学3年生、春休み
36/43

さとりくんは、焦る

 夕食を食べた後、オペラは少し心配そうにはしていたものの、あっさりと帰って行った。

 せっかくのお部屋デートなのに、俺の軟弱な精神のせいで、なんの進展も……無いことも無かったか。

 手も繋いでないのに、ハグまでの進展を……いや、あれは看護か。

 役得だったけど、進展と認められないので、次回に期待することにする。


「大丈夫。帰れるように、何とかするから。」


 帰り際のオペラの力強い言葉が思い出される。

 なんか、彼氏というより、弟だと思われてるんじゃないかと一瞬思ってしまうほどの強さを感じた。

 ……俺の気にし過ぎならいいんだけど……。





 沈んだテンションでこれ以上の精神修行の気分じゃなかったから、昨日はそのまま寝ようとした。

 ただ、俺の噂を酒の肴にしているのか、気付いてしまえば外の声が気になってあまり寝られなかった。寝不足だ。


 さらにいつもの時間に食堂に行くも、望んでも居ない待ち人が待ち構えているのを知れば、今日の気分は最悪になる。


”遅い。”


 目が合うなり飛んでくる声に、呆れる。

 俺が時間をずらしているのは、人が少ない時間を狙っているだけじゃなくて、朝から行動する会いたくない人物を避けるためだ。それを遅いと言われてもね?


「今いいか。単刀直入に言って、ユウキが望むならパーティーを組んでもいい。どうする。」


 エクレアさんの押しメンで、俺にとっては嫌な事の根源に居るような奴に声を掛けられる。

 ……今いいか、の返事もしてないのに即座に本題に入るとか、会話のキャッチボールする気有る? まあ俺も無いけど。


「望まないけど。」

「そうか。」

”断るのか? 俺も別に望んでない。皆が言うから声を掛けたが、時間の無駄だったな。……足手纏いにならなくて、鏡に対応できるのは惜しかったか。”


 一瞬歪んだフローライトの顔を見て、愉快な気分になる。

 

 断られると思って無かったとか、自意識過剰でしょ。うける。

 自分を納得させる言い訳をして、言い出した誰かに責任転嫁して、でもやっぱり鏡が怖いから未練を残してる。うけるんですけど。


 浮上してきたテンションで、ポーカーフェイスに取り繕っているフローライトに話しかける。


「もしかして、俺を待ってた? それなら、待たせちゃってごめんね。用件はそれだけ?」

「……そうだ。」

”まるで俺がどうしてもこいつと組みたかったみたいじゃないか。どうしてこんな弱そうなやつに……本当に強いのか? 確かにウルフは居るがスゴイ魔法を使えそうには見えないな。酒の入った話なんて、所詮誇張した話か。”


 弱そうは止めて欲しいけど……その方が都合良さそうだし、このままでいいや。

 

 俺を多少は強そうに見せている大上の頭を撫でる。撫でると、嬉しそうに頭を手に擦りつけてきて可愛い。もふもふしてる。

 

「そう。もう朝ごはん食べたんだよね? 俺は今からだから、じゃあね。」

「ああ……そうだな。もう行く。」

”ウルフを懐かせているのか……?”


 フローライトはなぜか驚いたように大上を見たが、特に何も言うことも無く背を向けて出て行った。


”初めて会った時、ブルーウルフに殺されかけたよな……?”


 ああ、そういう驚きか。

 この大上こそが、初めてあったあの攻撃性の高い狼の内の一匹だけど、見えないよね? わかる、わかる。ただの犬にしか見えないもん。


 ……でも、俺に向けて不気味そうに言ったよね? 俺の勘違いかな? なんでだろう?

 




 変な態度のフローライトが気かかり、もやもやしながら朝食を食べたら味の印象が残らなかった。

 せっかく楽しみにしてたタルトさんのごはんなのに!

 フローライトって、本当に嫌いだ。相性が悪すぎると思うんだよね。


 ……もし、帰れるとしたら、やっぱり消して行った方が良いかな?

 俺のいない間に、またオペラを困らせるんじゃないかと心配だし……危険の芽は摘み取っておいた方がいいと思うんだよね。





 そんなことを考えながらダンジョンに着くと、異変があった。


『オペラ?』

”……ユウキ? 助けて……。”


 ぐったりとしたような、疲れ切ったような声に驚く。

 死にそうという感じではないけど、疲労困憊といった様子だ。


『何が有った!?』

”早く、来て。”


 助けを求める声にダンジョンを走る。

 走る。けれど、遅い。

 俺の運動能力が低すぎる。中学校では平均の少し下程度だが、この世界の冒険者としては最底辺の運動能力だ。これでは弱そうと言われるもの、間違いじゃない。


「大上! 先に行って! 魔物は気にしなくていい!」


 動きの遅い来を背に乗せている大上、その時間をロスしても大型の狼の足は断然早い。

 大上は一声吠え、そのまま俺を抜いて行く。

 いくら大きいとは言っても、来程度ならともかく俺を乗せて早く走れるほどの強さは無い。揺れる尾を見送りながら、進路上の魔物は『声』で動きを止めて最速で到着できるようにする。

 

 必死で足を動かして走りながら、オペラの声に集中する。

 ……出来ない? つらい? そんなネガティブなイメージと共に、”ユウキがくれば……”と俺を求める声が聞こえて、胸が高鳴る。

 何が有ったかは読めないけど、俺を必要とする声が嬉しい。

 期待に応えるために、必死に走る。

 

 上がっていく自分の呼吸音を聞きながら、またアイツのせいだったなら、処断する。そう決めた。


 いつもの場所に転がった赤い欠片のような石を拾い、望む彼女の居場所に転移する。


 突然立ち止まったせいで、急激に上がっていく心音と呼吸を宥めながら、室内を確認する。

 いつも通りの赤く光る立方体の浮いたコア、その周りの光る輝石も一部は黒と灰色だか変わりはない。ダンジョン内の鏡を映す画面も正常に見える。

 変わりが有ったのは、見覚えのある形だが石造りの小さな机と一脚の椅子、そしてベッド。


 ベッドの上でこちら側に顔を向けて横になるオペラは、向き合うように顔だけをベッドに乗せている大上の胴を垂らした片手で撫でていた。

 横になっているせいか多少の捲れはあるものの、衣服に破れや乱れはない。怪我をしている様子も無い。


 ……どういう状況? なんで急に家具が?

 

 俺の口からは喘鳴ぜいめいだけが漏れ、言葉にならない。

 立ち止まったせいで休息を求めて動くのを拒否する足を無理矢理前に踏み出せば、何かを蹴ってしまった。

 コロコロと転がっていく手のひらサイズの赤い球体を追う。

 赤い玉は、俺より早くベッドに到達してコンと小さな音を立てた。


 音につられたように顔を上げるオペラと目が合う。

 白い顔はいつもより青白くて、心配になる。でも、無事なようで良かった。


「だい…じょうぶ?」


 息切れは収まらないが、なんとか声を出す。

 オペラは体がつらいのか緩慢な動作で首を振り、甘いチョコレートの瞳に真剣な色を載せて俺を見上げる。


「ダメなの……。ねぇ、私を泣かせて……?」

「なっ……なかす!?」


 泣く。悲しさや感動による涙を求められているのか……鳴かす……? まさか、とうとうエロい意味で? 

 だるそうにベッドに転がるオペラは、不謹慎にも色っぽい。急に用意されたベッドはそう思うと辻褄が合うような……合わないような……。

 具合の悪い彼女に対する、不謹慎で破廉恥な妄想を頭を振って振り払う。


”ユウキなら、出来るはず……。”


 ……振り払えない。

 すごく俺を求められているのが分かる。まさか本当に……? 魔物にはそんなエロい看病があるのだろうか?

 どうしようか。もしそうだとしても、経験のない俺がそいう意味で鳴かせるなんて出来るのか? 機能的にそういう行為は出来るけれど、鳴かすというほどの快感を与えるのが初心者に難しいことは知っている。

 俺にそんなことが出来るのか……!?


「……涙が出ないの。」

「……涙?」

「どうやったら泣けるの?」


 必要なのは涙。どうしても涙が必要。そんなイメージを読み取った。


 ……やっぱりエロはいらないよね! 分かってた!!!


 純粋な瞳で俺を見上げる彼女に、気持ちよく鳴かせてあげるよ、なんて言えない。

 そういう手段で泣かすことも不可能じゃないかもしれないけど、他人のイメージを見たことがある程度の未経験者な俺自身のテクは信用ならない。そもそも、そういう手段を想定していなさそうなオペラを襲って怖がらせて泣かすのは最悪だ!


「どうすれば、いいんだろうね……。」


 視線を避けるように、遠い所を見る。

 失望した。つらそうにしている彼女にエロイ妄想をした俺自身に失望した。そんな奴だとは思わなかったよ。たとえ、ベッドという若干思わせぶりなアイテムが増えていたとしても!


「出来ないの? 無い困るの。」

「無いとオペラの体調が治らないってこと? そもそも、何が有ってそんなに調子が悪そうなんだ?」

「調子……? 私は大丈夫なの。」


 ベッドの上で上半身を起こしたオペラは、ふらついた。

 思わず手を伸ばすが、それより先に大上がベッドに上がってオペラを支えた。大上が尻尾を振って褒めてと言わんばかりの顔を俺に向ける。

 支えてくれて良かった。でも、撫でてあげない。

 ふらついたオペラに抱え込まれた大上に嫉妬したわけじゃないよ。たぶん。


「大丈夫じゃなさそうだけど。顔も血の気が引いて青いし、何が有った?」

「血の気……?」


 気まずそうにオペラは視線を下げた。

 イメージで読み取った光景は昨日のことか。



_____

 オペラが剥き出しの白い手首の裏をもう片方の指で撫でると、皮膚が裂けた。こぼれる赤い血液が硬質な音を立てて床に落ちる。

 床に落ちているのは血液ではなく、小さな赤い石。この部屋に転移するためのものと似ていた。似ているというより、同じ物だろう。


 その石の上に更に落ちていく血を巻き込んで、どんどん石は成長する。


 最終的に、手のひらサイズの球体になった所で、オペラが最初と同じように傷口を撫でると元の白い肌に戻った。

_____




 こんな映像を見れば、オペラの血が輝石になることを認めるしかない。彼女が、本当に人間では無いことを認めるしかない。

 ……血が固形化するとかファンタジーな物語には割とあるし、この程度は想定済みだ。


 蹴ってしまっていた赤い玉をかがんで拾う。もう一つ、ベットの下に落ちていた似た玉も拾う。

 赤い玉は全部で2つ。


「貧血ってこと? どうして急にコレを2つも作ったりした? 誰のせい?」


 小さな石でも銀貨5枚の価値が有った。滅多にないような高純度だったらしい。

 それよりもずいぶん大きくてきれいな球形のこの輝石は、冒険者のエサにするにはもったいなさすぎる。

 文字通りのオペラの欠片を、人間どもにくれてやる必要があるのか?

 事実を知った今としては、売ってしまったあの赤い石ですら回収したいくらいだ。


「誰の? 私が、ユウキを返してあげたかったから……つらそうだったから、早くした方が良いと思って頑張ったけど、足りなかったの。」


 俺を帰すために?

 元の世界に戻るための石と、此処に戻ってくるための石。世界を越えるための必要な高純度の二つの石を必要としているのは俺だった。


 アイツのせいじゃなかった。アイツのためじゃなくて、良かった。


 緊張がゆるみ、酷使した足が今更にもつれて崩れ、支えるためベッドに腕を打ち付けた。

 バンッと。

 痛い……。これ、ベッドじゃないね。スプリングが一切無い、石の台だった。オペラがさっきまで横になってたからこんなに硬いと思わなかった……。


 昨日心配を掛けた俺のために、オペラが頑張ってくれた。そのせいでオペラが体調を崩しているのに、嬉しいだなんて思ったからばちが当たったのかも。ずいぶん軽い罰だけど。

 

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