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さとりくんは、腐女子じゃない彼女が欲しい  作者: siki
中学3年生、春休み
34/43

さとりくんは、癒しが欲しい

 攻撃開始の鉄貨と床が立てる音。

 カンっという小さな音の余韻を聞くことなく、動き出した6人に魔法を……向けない。


 便利な能力というだけでチートでもない普通の俺が、冒険者なんて運動能力高い相手を相手取るのだから、まずは身を守るのが最優先。

 俺に向かって来るのは分かってるんだから、焦らず最速で声を出す。


「”ファイアー……”」


 ボールの言葉すら惜しんで、とにかく魔法を発動させる。

 普通の俺の身を守る、防御魔法を。


 俺を包むように一瞬で燃え上がる炎。練習の結果、燃やし分けは完璧だ。

 俺に迫る武器は炎に触れれば消え失せる。灰も残らない燃やしぶりは相変わらずだけど。


 さらに、ただのファイヤーよりもファイヤーボールの方が威力調整をしやすいことが分かっているので付け足す。


「”……ボール”」


 攻撃の意思。対象の6人。

 俺を中心に渦を巻いた炎は、6人を追いかけるように球状に広がる。


 近くに居た他の人を巻き込んで怖がらせてしまったのは申し訳ないけど、燃やし分けてるから精神面以外は大丈夫。

 ここがダンジョンならエネルギーをいっぱい集められたのに。残念だな。


 対象が範囲に入って、まずは武器を燃やす。燃やすっていうか、消えるようにしか見えないけど。


 次は防具を燃やす。小さい声でのギブアップだってちゃんと承認する。

 誰だと思ってるの。俺は覚能力の持ち主だよ?

 

 さらに、上半身の服を燃やしてみる。パニックになってないでギブアップって言いなよ。


 混乱した奴が素手で殴りかかって来る。その拳の皮膚をこんがり焼いてみる。


「うわあああぁぁ!!!」


 悲鳴を上げて床に転がる一人と、呆然と腰を抜かすもう一人。

 残ったギブアップを言わない二人だけど、戦意は無さそうだ。

 対象だった6人以外もビビらせている炎の範囲を縮小する。念のため、手のひらの上に乗るサイズで火の玉は残しておくけど。

 うーん。怖がらせすぎたかな?

 『声』を使った訳でもないのに、動けなくなって……やり過ぎた?

 いやいや、ただの魔法だよ? 初級魔法のファイアーボールだよ? 『声』じゃないし、普通だよね! ……そうだよね?

 誤魔化すように、にっこり笑う。


「ギブアップ?」


 二人とも、何かの形に口を動かしているけど、うめき声と震えた呼吸音しか出ていない。

 必死な形相で頷いているので認めてあげようか。

 発動させたまま維持していた魔法を消して、これ以上怖がらせないように優しく笑いかけてあげる。


「じゃあ、終わりということで。」


 よく見ると、こんがり焼いたつもりの拳は、イメージ通りにこんがりしていた。

 皮膚が燃え尽きてるかもしれないとも思ったけど、ちゃんと出来て良かった。

 魔法の威力のコントロールも上がったかも! やったね!


”燃えてないー!? すごいー!!”

”毒るー!!(すごーい!)”


 一番近くに居るからといって、仲間である来と大上を燃やすわけがない。

 完璧な燃やし分けは、自分でもなかなかスゴイと思う。


 ただ、ヒロイン不在の状況なのが残念だけど。

 オペラにスゴイって言われたかったなー……。




 受付に向かって歩き出せば、その方向に人の波が割れる。

 ちゃんと穏やかな表情のはずなのに、そんなに怯えられると、もやっとする。


 殺さない所か、怪我人すら一人で済ませたんだからそんなに怖くないと思うんだけど。

 威力や範囲のコントロールがしっかりしてるとか、維持時間が長いとか。褒め言葉にしか聞こえないのに、怯えるってどういうこと。

 テンプレの後って、こんなんだっけ?

 お前スゴイな! なんて言いながら背中をバシィと叩くような……人間の仲間は要らないから、このままでいいのか。


「こんにちは、エクレアさん。」

「こんにちは、ユウキさん。凄く強いんですね! スゴイです!」

”初級魔法だったのに、こんなに成長して……パーティーを組んでくれないフローライトさんを迎えるために努力したのね! 最高! 愛は少年を強くする! 素敵!”


 初級魔法だったのに? 今のもただのファイアーボールだけど。ちょっと範囲を大きくして燃やし分けする……ここまで来たら初級じゃない……? じゃあ、何級だろう。

 ともかく、エクレアさんには、フローライトの相手に相応しくないっ思ってくれた方が都合が良かったんだけど。


 すごい、すごいと繰り返し、すり寄ってきた来と大上を空いてる手で撫でる。

 腐女子との会話には、フワモフとぷにぷよの癒しが必要だ。

 

「あの、魔石無いので、買い取って貰う物も少ないんです。ギルドに来るのを減らしても大丈夫ですか?」

「そうですか……。できれば、安否確認のためにも顔を出してほしいですけど、今日の騒ぎも有りますし2.3日まとめてでもいいですよ。」

”フローライトさんと会える機会を減らすなんて……まさか、さっきの男たちがフローライトさんから許可をもらっていることを知って、傷ついてる!? そうだよね! もうちょっとしたら、フローライトさんからアプローチが有るはずだから、それまで休んでてね!!”


 フローライトからのアプローチとか、お断りだよ。

 とりあえず減らしていいようだから、まあいいか。

 

 昨日と今日の分の買取ってもらう水晶を渡し、エクレアが奥に行くのを見送る。


「ユウキくーん? さっき言ってた別の目的何か、教えて欲しいにゃー。」

”ちっさくて、可愛くて、強いなんて、萌えー♪ 従魔の懐きっぷり半端ないね! 異世界人ってやっぱりちょっと違う。けど、それがイイ!!”


 にゃー?

 受付カウンターに居たのは、エルフなエクレアじゃなくて、中里が好きそうないわゆる巨乳な体型の猫耳女性だった。

 猫耳だからって、にゃーとか……! 違うのは俺よりも、猫耳さんだと思うよ!?


「にゃー?」

”異世界人って、こう言うと喜ぶよね?”


 とんだ風評被害だ!

 小首を傾げる仕草は可愛いけど、声と一致しない妙な語尾が気になるよ!


「トルテ! ちょっと空けた隙に……退いてください!」

「まあまあ。質問の途中だにゃー。」

「確かに、私も目的というのは気になりますけど……。」


 戻ってきたエルフと猫耳獣人の視線を感じる。

 こうやってじっくり見ると、異世界なんだなーって思うよ。オペラとか、見た目も普通だし。

 あ、外見もすごく可愛いよ! 普通っていうのは、耳とかの話だからね!?


 ともかく、ダンジョンに協力するのが目的ですー。なんて言えない。

 言うならば。


「元の世界に帰りたいと思ってて、その方法を探してるんです。」


 これなら嘘じゃなくて、しかも普通の理由だよね。

 それに対する、二人の受付嬢の反応は、表面上は簡潔だった。 


「そうですか。」

”そうだよね! フローライトさんと一緒に居られないなら寂しくて帰りたくなるよね! 待ってて、私がフローライトさんを説得して見せる!”


「そうなのにゃ。」

”寂しそうな顔が可愛い! エクレアの押しのフローライトになんか、もったいないー! 今日はギルド長いなんだよー! 次回は絶対引き合わせて見せるから、待ってて♪”


 ええええぇー……。

 帰りたいって言っただけで、輝く笑顔の美人二人から、待っててって言われるなんて……。

 こんな内容じゃ、待ちたく無いよ!

 ギルドって鬼門かも! 俺に興味を持った腐女子が増殖したし!


「ええと、なんとなく帰れそうな感じもするんで、その場合って急に来れなくなっても仕方ないですよね?」


 もうギルドに来なくて済むなら、来たくない。


「本当ですか!?」

”急に帰るだなんて、そんな! 寂しいよ!”


「ウソ!?」

”せっかく会えたのに!? こんな可愛くて強い子が居なくなるなんて、残念過ぎる!”


 驚く二人は、不思議なことに萌えやカップリングがとか、そんな妄想よりも先に俺自身を惜しんでくれるらしい。

 ……その次は、妄想のネタに対する惜しみがきたけど。


「確かに、帰れそうならそれを優先してもらうべきですけど……。」

「来られなくなってから、すぐに契約期間は停止するにゃ。その目的を優先しても大丈夫だにゃん。」

「そうですよね……。」


 ちょっと落ち込み気味のエクレアさんの背を、励ますようにバシバシ叩く猫耳さんにちょっと笑えた。

 腐女子の公害のような思考は苦手だけど、好意は感じるから嫌いになれない。

 会いたくないし近づきたいと思えないくらい苦手だけど、その声が気になって反応しちゃうくらいには嫌いじゃない。


「良かったです。またこっちに来れたら、その時も急になると思いますけど、よろしくお願いします。此処と元の世界を、行き来する人もいるんですよね? 俺も出来たらいいですけど。」


 実際、行き来するつもりだし。

 ちゃんと1年の期間を累計で過ごしたら、この世界の他の街でオペラとデートするんだ!


「そう、そうですね! よろしくお願いします! 頑張ってください!」

”嬉しい! フローライトさんも、きっと大喜び! 再開のエッチは激しいですかあぁぁ!!!”


「気長に頑張るにゃ。ギルドはいつでも、冒険者歓迎にゃん♪」

”行き来なんて難しいよー? そんな強い子……大好物!! 頑張ってヤるんだ! 妄想はかどるぞ♪”


 ……やっぱり、腐女子って苦手。

 俺をどうしたいんだ……ああ、受けにしたいのか。ほんと、やめて。

 そんな不純な好意を受け止め続けるのは、つらいよー……。


 その返せない好意が、苦手なんだ。

 俺を対象にする腐女子の妄想を一緒に喜ぶとか……無理だね。

 俺にも一人の人間としての趣味や嗜好があるんだから、許して。

 

 さっき一瞬だけ感じだ純粋な好意を、遠い目で惜しみながら、おざなりの礼を返してギルドを出た。




 なんだか、すっごく疲れた。

 あんなに沢山の人から感情を向けられるのは、初めてだからかな?

 恐怖や怯えの感情含んだ大量の声は、ダンジョンだったらもっと喜べただろうけど、こんな場所で叩きつけられても、不快なだけだね。



 まだまだスゴイと繰り返しては絡まってくる、来と大上は本当に癒し。

 仲間って、いいよね。

 早くオペラに来てもらって、一緒にまったりしたいよー。

 この、もやっとしたメンタルには、彼女の癒しを必要としている!




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