さとりくんは、テンプレ被害に遭う
石に入れた力は今後のために節約気味にしていくことにした。
俺が帰った途端に被害人数が減ったら怪しいからね。
オペラは、数人の冒険者を怯えさせるにとどめ、時々確認するかのように俺の”声”を聞こうとして失敗していた。節約っていったい。
昨日入れた分がほとんどなくっていたのは、街まで届くのを利用して俺の声を聞こうと頑張った結果らしい。
聞こえないだろうからいいけど、そんなに聞こうとされてるのを知ったら気になって、聞こうとされているのを感じるようになったし……こんなことで覚能力が強化されるとも思わなかった。
昼は来と一緒に発声練習をして、時々大上に「わうわう」”オオカミ!”とまだ話せない単語を並べらる妨害に遭いつつも頑張った。
いつもの帰る時間には、ほぼほぼ来と同じようにしゃべれるようになった。
やっぱり、見た目以外では見分けが難しい。
来に食べられたことにして名前なんか付けず、来の分体扱いにした方が良かったかも。なんて思ったのは内緒だ。
※
時間だから、街に戻ってきた。
今日は、この後にオペラが俺の部屋まで転移してくる予定だ。
デートという程でもないと思ったけど、よく考えればベットのあるワンルームの部屋に2人になるんだ。正確にはプラス大上と来と昼だけど。
ともかく、ちょっとは期待できる展開が有るかもしれない。
急いで部屋に戻りたい俺は、来と昼を合体させて門をくぐった。
1.5倍のサイズ変わったことを突っ込まれないかとか、体内を揺蕩う赤いリボンがよく見ると半分よりに先には動かないことに気付かれないかとか、ドキドキしたけど何も突っ込まれなかった。
まだ、大上が物珍しいのかそちらにばかり気が行っているようだった。大上、グッジョブ!
そのまま部屋に戻りたいと思いつつも、ギルドに寄る事にした。
今までは何も考えず、活動した日に一度はギルドに寄るように行動している周りの冒険者がと同じようにギルドに寄っていた。
しかし、よく考えれば魔石は来にあげてしまっているので売れるものはほとんどないので、行く必要は感じない。何よりギルドに行くと、腐女子にメンタルを削られるのが分かっているのだから、行かなくてもいいなら行きたくない。
今日は早く終えることを目標に、ギルドに行くのを減らしたいことを伝えようと思う。しばらくしたら帰る予定だし。
そう考えながら歩いた先、ギルドの近くで猛烈にギルドを通り過ぎたい衝動に襲われた。
でも、真面目で普通な人間である俺は、無断欠席するようなことを出来なかった。
___辿り着いたギルドの扉の前で一呼吸し、ゆっくりと開いた。
途端に集まる視線。
この時間はいつもなら空いているはずなのに、なぜか割と込んでいる。
なぜかって言うか、俺待ち……かな?
「君が異世界人? ……へぇ。」
”本当に弱そうだな。”
大きな男に詰め寄られる。
そろそろ弱そうは返上したはずなのに、おかしい。
ともかく、困ったような表情で見上げる。
「異世界人ですけど、何ですか?」
俺がデカい男に絡まれる、の図に、一部の腐女子の声がうるさい。
”ユウキくんが、絡まれてる! 身長差いい! 上目遣いイイぃぃぃ! フローライトさーん! 今助けに行ってあげてぇぇ! ユウキくんを胸キュンさせてえぇぇ!!”
”異世界人の子ちっさい! 上目遣いとか、この小悪魔さん♪ 萌えるー。”
おかしい。エクレアさん以外の声が聞こえる。幻聴かもしれない。
小さいとか。東洋人がちょっと小さ目な種族なだけだし、冒険者なんていう戦闘職は割と体格のいい奴が多いから小さ目に見えるだけで、そんなに小さく無い!
上目遣いとか、身長差あるから仕方ないだろ!? やりたくてやってるわけじゃないよ!!
「そのウルフはダンジョンウルフだよな? 鏡の影響が無いというのも本当?」
「そうです。鏡は全く影響が無いわけじゃないですけど……。」
「そうか。」
”ダンジョンの魔物を連れ出せるということは、その2ランク程上の魔物も支配出来るか、同ランクを複数支配が可能という事か。弱そうだけど、転移迷路では十分すぎる戦力か。”
確認するかのように、全身を見られる。
ダンジョンの魔物を連れ出せるというのはそういう意味だったらしい。
戦力として十分だと思っているのなら、弱そうは止めてくれないかな……?
ふと思ったけど、これってよくあるテンプレってやつ?
お前みたいなチビが冒険者なんて笑っちゃうぜ。俺達がちょっと揉んでやるよ。みたいな?
それで俺がささっと相手を瞬殺するみたいな? それでヒロインが俺にドキッと……今、彼女はダンジョンだ。オペラが居ないところで、そんなテンプレは不要だね。
それに、今更過ぎるでしょ。
俺がここのギルドに出入りして何日目だと思ってるんだ。
……えーっと、6日くらいか。ぎりぎり一週間経ってないからテンプレとして間に合ってるのかな?
”鏡の効かない体質の異世界人は、囮に便利だ。”
「よし、俺らと組もうぜ? 今、転移迷路の鏡の正体を暴けたら、結構な金額が出るんだ。組んでも十分な金額だし、組んだ方が安全でいいと思うな。」
「お断りします。」
一人で戦力として十分なら、パーティーを必要としてないっていうのも分かると思うんだけどな。
しかも囮扱いとか。
ダンジョン協力者として、楽をさせる訳にはいかないね。
「まあまあ、そう言うなって。鏡の情報を聞いてないのか?
あの鏡の前で意識を失うことがあるらしい。中にはその間にスライムに襲われた奴もいるんだ。そいつが受けたのが毒だったから意識が戻ってから何とか対処できたが、もし麻痺や酸だったら。ウルフだったら。被害が大きくなったり、帰ってこれない可能性も有る。
他にも、意識を失っている間に何かを食われたんじゃないかとか、未知の攻撃の効果が他にもある可能性があるんだ。一人だと危ないからパーティーを組んだ方がいいだろ?」
「お断りしました。」
食べられたって、まさかあの冒険者かな? 俺、何も食べてないんだけど……。
それにしても、まさか魔物に襲われていた冒険者が居たとは。
俺が居ない時間だよね。オペラが指示したとは思えないけど、偶然通りかかったスライムを止めることもしなかったってことだね。
冒険者達がかなり怯えているから、良い効果が出てるみたいだ。
「ははは! きっぱり断られてるんだから、退けよ。」
「もう少しだって。」
野次に対しても笑って返す男。
きっぱり断ってるんだから、あきらめようよ。
周りの様子を聞けば、勝手にパーティー勧誘の順番を決めていたらしいから、このしつこい奴の後も控えてるなんて……イラッとするね。
「あの鏡が効かないってだけで君はスゴイんだから、一緒に組もうぜ?」
”こんな弱そうなやつ、脅したら一発なのにな。”
だから、弱そうっていうのは止めて欲しいんだけどな……。
脅すとか。
鏡のただの復唱ですら、どうにも出来ないただの人間風情が何を言ってるんだか。
「鏡の効かない人は他にもいるんじゃないですか? エクレアさんにも言いましたが、精神力が強ければ影響が少ないと思いますけど。」
「残念だけど、君の言ったそれは間違いだった。今のところ君以外の全員が行動できなくなってる。結構強い魔術師もその中には居るんだ。とても君がその魔術師以上の精神力だとは思えないな?」
にやりと、底意地の悪そうな表情をする。
性格の悪さを隠して、囮として取り込みたいなら、そのくらいの表情はちゃんとコントロールしようよ。バカなの?
もうテンプレってことでいいから、さっさと片づけたい。
とりあえず、実力行使で諦めさせればいいんだよね? 何度か読んだことのある流れだから、これで対処出来るはず。……そうだよね?
「もし俺が結構強い魔術師だとしたら、精神力の強さが関係してるってことが証明できますか? そうしたら、特別じゃない俺への勧誘も終わりますか?」
「なかなか自信有りそうだな。賞金は知らないが、その従魔を使わず魔法だけで俺を倒せたら、俺の勧誘は止める。君が負けたら俺と組む。これならどうだ?」
”初級魔法ってのは聞いてるんだ。頑張って強くなってても中級が精一杯だろう? 保護者のフローライトも組むのを嫌がるくらい弱いのは知ってるぜ? 異世界人は上手く使って儲けないとな。”
ああ、もう。ここでもまた、フローライトか。
異世界人の場合は基本的に保護者が優先のために、初めは保護者に勧誘許可を取らないといけないらしい。つまりこれは、フローライトから押し付けられた厄介ごとということだ。
保護者の金貨を貰ってるんだから、厄介なのはブロックしてくれよ! あの面倒くさがりめ!
「いいですけど、俺は別の目的が有るので、人とパーティーを組む気は無いです。もし他に勧誘希望が居るなら、まとめてでお願いします。これ以外の条件で組む気は今のところ有りません。」
”殺す? 殺す?(人肉確保? 終わったら食べていい?)”
”毒麻痺!(食べていいいなら、食べてみたい!)”
浮かれ騒ぐ従魔を撫でてなだめる。
流石に殺すのはダメだよ。でも、倒すってことは殺して大丈夫なのかな?
「おいおい、あんまり自意識過剰は良くないぜ?」
周りもざわざわ騒いでいるけど、無視だ。
この後ろにも何人か勧誘が控えてるのが聞こえるのに、何度もお断りするのも時間の無駄。
テンプレは一度で終わらせるべき!
「急いでるんです。場所は此処で、相手とその所持物以外の物に損害を与えたら失格、ギブアップと言った後は攻撃をしない。ただ、互いの怪我やその所持物の損害は自己責任ということで、いいですか?」
ギルド内での騒ぎは、備品や当事者同士以外の損害が出なければ基本問題ないらしい。
「本気か?」
「他に誰かいますか? 後からとか、面倒なので今日以外で勧誘しようと思っている人もいるなら、今の内にしてください。」
ちらほらと挙がる手。俺が許可したからフローライトに許可を取っていないやつも居る。
純粋にリンチになりそうなのが楽しそうで手を挙げるやつも居る。それを純粋とは言わないか。
皆、そこそこの魔物支配とそこそこ魔法が使えて、鏡の囮にできる仲間が欲しいようだね。
勘のいい人や、普通に勧誘したかっただけの人は一瞬手を挙げても諦めたりしてるから、最終的に手を挙げたままのしつこい奴と性悪は全部で6人。多いような、少ないような?
「ここで締め切ります。俺がこれを落とすので、床に落ちたら攻撃開始ということで。」
「分かったよ。」
”こんな人のいる場所で魔法を使える訳ないだろ。他に当てたら失格とか自分で首を絞めちゃって、バカな奴。”
にやにやと笑いながら距離を詰めて来る6人。
方法として選んだコイントスだけど、コイントスなんてしたことは無い。取り出した鉄貨が変な所に飛んで床に落ちない事態は何より避けたい。
___摘まんだコインは指を離してそのまま真下に落とす。
見た目? いいんだよ。結果的に鉄貨が床に落ちればいいんだから。
オペラも居ないのに、カッコつけても仕方ないでしょ。




