さとりくんは、諦めない
デートにテンションを上げる俺だが、一呼吸する。
落ち着け。オペラから甘い感情を感じない。俺の先走りの可能性が有る。
「一緒に街に行けると嬉しいけど、オペラも1日くらいダンジョンから出ても平気ってこと?」
「1日は分からないけど、数時間なら平気なの。」
行って帰って来る位は平気ってことだね。
改めて、オペラをじっと見る。
胸元で留められた黒いドレスは、華奢な腕や肩を剥き出しにしている。成長途中を思わせるラインが色気を感じさせな……い、わけないよね!? 可愛いんだよ!? 彼女だよ!?
触りたいに決まってるんですけど!?
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放課後、部活中。珍しく僕と佐倉以外はサボりで居なかった。
「よっす! 雑用押し付けられそうだから、ちょっと匿え!」
突然訪れた中里は、誰かから逃げているらしい。
「何でサボってるんだよ。部活行け。」
僕の苦言を意にも介さず、笑いながら近くの席を陣取り居座る気だ。
「せっかく他人も居ないし、ずっと聞きたかったんだけど、佐倉って経験者? めっちゃモテるだろ?」
うわ。脳内ピンクの野郎め。そんなこと、佐倉に聞くな!
佐倉が答えるのを遮るように、僕が口を挟む。
「中里! そんなの聞かなくても分かるだろ! っていうか、何で僕に聞かないんだよ!?」
「は? ユウキが脱童貞してるわけないだろ。ほら、佐倉はアニメの女子じゃないとダメとか言うのは女子を振る言い訳かと思ってさ。気になってたんだー。」
「だから! 三次元女子はダメだって言うんだから、あんまり突っ込むな! 可哀想だろ!」
「は? 勃たないってマジ? 顔が良かったり胸がデカければ普通勃つだろ?」
「それは中里の普通だよ! やめろよ!」
普通って、僕もそんな簡単に反応しないけど。中里が即物的過ぎるんだ。
そんな普通を振りかざして、佐倉のデリケートな部分を面白半分で聞くヤツが僕の幼馴染なんて、信じられない……。
「……お前ら、俺のこと馬鹿にしる? お前らっていうか、特に里が失礼だろ。まあ、俺は気にしないからいいけどさ。」
え、失礼だった? おかしいな。佐倉のためを庇ったつもりだったんだけど。
「じゃあ、マジでアレか。イ……」
「違うから。三次元女子はダメでも、嫁相手なら勃つし出せる。子作りは異世界でするから、何も問題無い。別に人前とか気を使う必要もないし、他の人に言ってくれていいよ?」
”三次元女子なんかに反応するほうが面倒。早く異世界に行きたい。”
中里の言葉は遮りつつも、堂々と主張する佐倉に、僕も中里もどん引きだ。
そういう話を、女子も居るクラス内で平気で出来る感性は見直した方が良いと思うんだ……。
「そ、そうか……。好みは人それぞれだもんな……。」
”やっぱり、電波な方か……。”
電波は言い過ぎだけど、中里の好みは人それぞれという言葉に同意して頷いた。
僕たちを言い負かしたと思っている佐倉の表情が自慢げなのは、腑に落ちなかった。
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普通の男子である俺は、いくら綺麗な女の子だって見境なく発情したりしない。
しかしこんなに可愛いくて、しかも合意を得た彼女だというなら話は別だ。俺は普通の男子だから仕方ないよね?
ともかく、世の中には異世界女子という理由で発情するような人物も居ることを知っている俺は、上半身の露出の多い服の彼女を無計画に人前に出すことは出来ない。
ただでさえ、ドレスのような正装風の人は街で見なかったし、絶対に目立つ。
「オペラのその服って替えられる? 街に行ったらたぶん目立つと思うんだ。」
「服? そう言われると、違うかもしれないの。」
俺の指摘に、オペラはダンジョン内を移す画面を見ている。
冒険者でドレスを着てる人は流石に居ないと思うけど、目立たない服のイメージは冒険者風でいいと思う。
可愛い服を来た彼女を見せびらかしたい欲が無いわけじゃないけど、世の中にはロリコンや変態も居る。危機管理が大事だよね? 俺はロリコンじゃないよ? 俺とオペラは見た目の年齢同じくらいだから。
”マスター、一緒に行けない?”
オペラが足元にすり寄った大上をしゃがんで撫でる。
「ふわふわ? どうしたの?」
”お風呂でぐるぐるした! マスターもぐるぐるする? 一緒に行く?”
オペラをぐるぐるって、俺がやるの!? 手も繋いでないのにお風呂プレイは早すぎるよ!!
「大上のいう事は気にしないで! 俺はオペラをあ、洗ったりとかしなし! っていうか、大上は半日以上外に居たんだから、今日も着いて来たら時間足りないだろ!?」
俺の慌てた否定は、オペラと大上のきょとんとした視線にぶつかった。
俺、何か間違った……?
「お風呂は気になるけど、オオカミのいうグルグルは気持ち悪くなりそうだから遠慮するの。」
洗濯で気持ち悪くなった大上のイメージを見ているオペラが、やりたいなんて言うはずがなかった。
それをお風呂プレイって……! 自分の妄想力が恥ずかし過ぎる……!
”此処に戻ったから、もう少しすればまた外に出れる! 美味しいの、食べる!”
「美味しいの?」
”美味しいの!”
”毒る?(一緒に食べる?)”
「あ、仲間になったの? よろしく。」
”毒る。(よろしく。)”
大上が出かけられる1日は俺の想像以上に狭い感覚で出かけられるらしい。
オペラに驚きは見えないから、魔物が外に出られるようになったらそうなるのかもしれない。
それにしても、俺が気付けなかった来と大上の仲間具合もすぐに分かるなんて……流石マスターだ。
「ねぇ、ユウキ。私がその食べられるところまで直接転移するのは、どう? 個室みたいだから、そこなら目立たないと思うの。」
「え!? 一緒に街を歩くんじゃなくて!?」
デートが! せっかくデートの機会なのに!!
「目立つのはよくないでしょ? 歩いて行ったら時間もかかりそうだし、短時間で出掛けられて一緒に美味しいのでちょうどいいの。」
確かに……。オペラが転移で出入りするなら、徒歩で門を入ったり出たりする回数が合わないと怪しまれるかもしれない。そもそも俺の部屋から出ないなら、何の心配もなくなるけど……デート……。
「そ、そう! 行ったことないと転移出来ないんだよね? 俺の部屋に直接来るのはムリじゃないかな?」
そうだよ! それが問題で今悩んでるんだから、転移で直通なんてことは出来な……。
「出来るの。オオカミとクルから見たから、安心して。」
「出来る!? なんで!?」
「私のスキルは見たことのある場所に転移できるの。ダンジョンの魔物とは意思疎通できるから見たものを共有できるの。ユウキもダンジョンの魔物なら、帰る場所が見えるのに。残念。」
冒険者からは鏡の魔物扱いされる挙句、彼女には魔物じゃなくて残念って言われる俺……。
普通の人間じゃ駄目なのか……。
余計なことを言ったせいで初デートが無くなったし、辛すぎる。
部屋に来てくれるならそれもデートな気もするけど、今のこの状態と対して変わらない気がするんだよね……。
「あ、ユウキ。今思いついたんだけど、ユウキの力を使ってユウキを見たら、帰れる場所も見られるかもしれないの! どう? 出来そうでしょ?」
え? そう言われるとそうだ。
覚能力なら思い浮かべるイメージを映像で受けることも出来る。俺がしっかり場所を思い浮かべればそれをオペラが読み取ることも出来るはずだ。
覚能力のある俺は便利だから、人間のままでいいよね?
「出来そう! 覚能力、万能だね!?」
「便利過ぎてズルいの。」
「いやいや! オペラの転移と石の力がすごいよ! 俺だけじゃ帰れそうに無かったから、本当にありがとう!」
覚能力は便利だけど、単体じゃ便利以上にはならないし。
フローライトの転移は行った事のある場所という制限もあったから、オペラのスキルがスゴイのは間違いない!
「そう? 私、スゴイの? 嬉しい。」
上機嫌でくすくすと笑っている姿は、とても嬉しそうで見ている俺まで嬉しくなる。
……そんな彼女とのデートは流れたわけだけど。
まあ、これでちゃんと世界を行き来が出来るようになるなら、定期的に此処に戻ってこれそうだ。
近場で目立つのがマズそうなら、今度他の街でデートすればいいよね。次の楽しみにしようか。
「ユウキもスゴイの。だから、力を貸して?」
楽しそうに笑う彼女に、俺もすごいと言われるのは嬉しいけど、オペラはちゃっかりと黒が薄くなった輝石を指さしている。
帰るためにも、ダンジョンのためにも覚能力をオペラが使えるようにしないといけないよね。
分かってるけど、デートが無くなった俺にもっとご褒美が欲しいよ……。
もしかして、俺がオペラのスキルで元の世界に帰れるなら、オペラも地球に来れるってこと?
この世界のデートスポットとか分からないけど、元の世界なら普通に映画館とか行ってもいいかも。楽しみだな。いつか実現させたい。




