さとりくんは、期待する
お風呂を出て、部屋で待っているとタルトさんが夕飯を持ってきてくれた。
今日のメニューはハンバーグ! 2食分持ってきてくれたので、1食分は一人で食べて1食を来と大上で分けて食べさせた。
”毒るー♪(おいしー!)”
”美味しい! 人間のごはん美味しい!”
来も大上も大満足のようだ。
出来心で質問をする。
「人間とどっちが美味しい?」
”毒るくるる。(食べたことないから分からない。)”
”ボリュームは人間だけど、味はこっちの方が美味しいと思う!”
来は割と飢えていたし、俺でも倒せるスライムが冒険者を倒すのは難しそうだから予想通りだ。
大上の言う肉という部分については、一体がこの一皿よりは多くて当たり前だと思う。
味は……好奇心で大上のイメージしているものを覗いてみた。
___生肉。血。鉄くさい匂いを感じた。それと同時に摂取できる力を感じる。
人肉を当時の仲間と分けて食べるグロい回想情報に後悔したけど、大上の言ったボリュームというのは魔石を食べるのに似た強くするためのエネルギーというものも含まれているのかもしれない。
癒される大型犬の獰猛な過去に、モヤつく気持ちを整理しながら夕飯を食べた。
ちなみに俺は、食事中にテレビとかで気持ち悪いのとかグロい映像が有っても平気な方だ。
タルトさんの作る美味しいハンバーグを完食しないとか、あり得ないよね。
食後、仲間に対して感じてしまった少しの忌避感を謝罪するように大上をもふってから寝た。
洗ったモフモフの毛は元から触り心地がよかったのに、ふわふわになって、フワモフになっていた!
すごく気持ちが良くて、時間を忘れて無心でもふってしまった。
この触り心地は、オペラもきっと喜ぶと思う!
早くオペラとこの癒しを共有したいな。
※
翌朝は、空き始めた時間に起きてタルトさんに昨日のお礼を言った。
従魔大喜びの美味しさを伝えると、今日も持たせてくれたサンドイッチの量が増えていた。それに、これから夕飯はゆっくりできるように部屋に運んでくれるらしい。
いたせりつくせりの対応に感激してお礼を言ってから出発した。
なんか、俺って本当にタルトさんに気に入られてると思う。
もし帰れなかったら、タルトさんの養子になってもいいかも? なんてね。
帰るつもりだし、タルトさんはそうしたいと思ってくれてるけど、会ったことのない実の息子さんもいるようだし、言ってみただけだ。
ダンジョンに着いて、まっすぐいつもの場所に行き、コアのある部屋に転移した。
道中に見つけたスライムは大上に頼らず、俺の魔法で倒した。魔法のコツちゃんとつかめた気がする。
「ただいまオペラ! 見てた? 魔法、結構使えるようになったと思うんだけど!」
上機嫌で彼女に強くなったアピールをしてみた。
「見てたの。良かったね。すごい、すごい。」
「そうだよね!」
これで好感度上がったかな?
期待する俺の予想通りに、オペラはテンションを上げて満面の笑みで近付いて来る。
「そんなことよりも、聞いてほしいことがあるの! スゴイの!」
「ん?」
……そんなことより?
俺のアピールは一瞬で流された……?
「人間も増えてエネルギーも増えたから、魔物もう1種増やそうと思うの。そうしたら! 増えてたの! すごいでしょ!? スゴイの!」
「勝手に増えてたってこと?」
自動で魔物の種類が増えるなんて、スゴイね。
でも、俺のことももっと褒めて欲しいんだけど……。
「増えたの! 今まで選べる魔物は、スライムと石甲虫とゴーレムとピクシーだけだったのに、ドッペルゲンガーが増えたの! すごいでしょ?」
「ああ、選べる魔物が増えたってこと?」
「そうなの。ユウキのおかげなの! 一緒に選んで?」
楽しそうにミルクチョコレートの瞳を輝かせて見つられれば、なんだか俺も嬉しくなる。
よくわからないけど、俺のおかげだって。結果オーライかな?
「分かったけど、今言ったのがオペラが増やせる魔物ってことだよね?」
「そうなの。」
石甲虫はちょっとよく分からないけど、他はなんとなく想像がつく。ファンタジーな魔物だよね。
ただ、そのラインナップに無い魔物がこのダンジョンに居るのは気のせいだろうか。
「ウルフは?」
「ウルフ? 交換したの。ピクシーが珍しいみたいだから、頼まれたの。」
「交換? 誰に?」
言ってから思いつく。ウルフといえば狼。狼といえば獣。北側の獣のダンジョンのマスターとオペラは一度会ったことがあると言ってたからその時かな?
「それは近くのダンジョンマスターの……。」
そこでオペラは言葉を詰まらせた。
顔だけじゃなくて名前も忘れていたらしい。
”名前、なんだっけ……?”
と一瞬悩んだが、すぐに諦めてそろえた両手を頭に置いた。
「……こういうのに。」
……可愛い……。2度目だけど、可愛いっ……!
ぴょこぴょこと動かして見せる手のひらは兎の耳を表しているのだろう。可愛い!
「そ、そうなんだね。そこそこの数が居るみたいだから、たくさん交換したってことだね。」
彼女の可愛さに、緩む口元を片手で隠しながら会話を繋いでみる。
「たくさん? 交換したのは番のウルフを2対と、ピクシーを同数だよ? ウルフは繁殖するし、スライムも分裂するから自然に数が増えて便利なの。」
「なるほど。だから、スライムとウルフをダンジョンに置いてるんだ。他に自然に増えるのは居る?」
エネルギー不足で困っていたオペラとしては、自然に増える魔物の方がいいってことかな。
自然に増えないのは、たぶん増やすたびにエネルギーがかかるってことだと思う。
「居ないの。増えないと使いどころが難しいから、ユウキと相談しようと思ったの。増やせる魔物がこれから増えるなら、今増やす必要も無いかな?」
たぶん俺の予想は当たっている。だからオペラはエネルギーのやりくりを考えて俺に相談している。
頼られるのは嬉しい。ちゃんと彼氏やれてるんじゃないかな?
「せっかくだから、増やそうよ。ドッペルゲンガーなんかちょうどいいんじゃない? 鏡の声でもかなり怖がってるみたいだし、鏡を見たあとで自分と同じ顔に会ったらもっと怖がると思う。」
「それはそうだけど、ドッペルゲンガーにかかるエネルギーがちょっと多いの。すぐに倒されると赤字になるの。」
「ドッペルゲンガーのなりすまし具合にもよるけど、完璧に真似られるなら魔物なのはバレないんじゃないかな? 本人に合わせる時は、オペラの転移で逃がせばいいと思う。倒されると魔石で魔物だってばれるから、逃がしてよく分からないモノにした方が良いと思う。」
よく分からないモノって怖いよね。
今も鏡の存在を暴くために冒険者が集まっているから、魔物っぽいけど分からないものにした方が集客もいい気がする。
「ドッペルゲンガーは、基本的に半径500m以内の生き物の姿を映しとれるみたい。でもダンジョンは区画で分かれてるから同じ区画じゃないとダメだし、造作は完璧だけど声は出なくて攻撃力も弱い。エネルギーがかかる割には弱い魔物なの。本当に大丈夫?」
ドッペルゲンガーは、さっき俺のおかげで増えたって喜んでた魔物だよね?
なんでこんなに否定的なんだ……? 悲しくなる……。
「ユウキ、悲しいの? 否定した訳じゃないの。転移で逃がすにしても、転移の石の設置には侵入者のいない区画じゃないといけないし、ドッペルゲンガーの変化できる範囲も短いのに自力で身を守るもの大変そうでしょ? 相談だよ?」
彼女に気を使わせる、俺。ちゃんとした彼氏には、まだ遠いかも……。
好感度だとか言ってないで、好きなならざるを得ないいい男になる! 心身ともに!
……無理じゃないよね? 頑張る!
「そうだね。オペラがそいういう位だし、他の魔物が増えるか様子を見てからでもいいんじゃないかな? さっき喜んでたけど、魔物の種類が増えることってよくあるの?」
「……あんまり無い。初めて増えたの。でも、ダンジョンの方針とかエネルギー率とかで増えるみたいだから、ユウキが協力してくれている鏡のおかげでもう少し増えてもおかしくないの。」
「なるほど……。」
それで、俺のおかげって訳なんだね。
「ドッペルゲンガーを逃がすためにも、たまに冒険者が持ってる魔力を遮断する布みたいなものが手に入るといいかも。そうしたら持たせられるし……それに、ユウキも此処に帰ってくるための石を持ってかないといけないでしょ? 触るとすぐに発動しちゃうから、帰りの分には必要だと思うの。
でも手に入れ方が分からないし、そもそも私が見たことのない場所に転移させるだけのスキルが入れられてないけど……。」
俺が帰るための方法探しを完全にオペラに丸投げしちゃってる。何か手伝えることがあればいいんだけど……。
魔力を遮断する布は門番やフローライトから聞いた気がする。たぶん街に売ってるんじゃないかな?
自分の知らない場所に転移させるスキルを入れる方法は……そういえば。
「魔力を遮断する布は街で探してみるよ。スキルを入れる石だけど、昨日俺が見たことのない冒険者にもオペラがあの石を使えてたから、アレなら大丈夫なんじゃないかな?」
昨日黒くしていったコア周辺の輝石を指す。
2割ほど黒くしたはずなのに、真っ黒の部分は少ししか残っていない。
一度黒くした部分は色が抜けても薄い灰色で……もとの可愛い色じゃない。なんだか申し訳ない。
「昨日いろんな冒険者の声が聞こえたから私もそれを思ったけど、今日は何人かあの石が使えない冒険者がいるの。ユウキの能力の範囲が広いから、昨日力を貸してくれた時の位置で範囲が決まっただけだと思う。だから、あの石でもたぶん同じ。」
範囲か。ここから街までの範囲の声が聞こえるから、今俺が声を聞くことのできた人間は今から能力を詰める石を使えるけど、今範囲外だと使えないってことかな?
昨日鏡の場所とかいろいろ考えて詰めてみたけど、そういう事なら意味が無かったのか。
「ここから街までの範囲は声を聞けるから……昨日範囲外で今日いる冒険者は、昨日もう一つのダンジョンに居たか、他の街から来たのかも。」
「そんなに範囲が広いの? すごい!」
すごい と言われるのは嬉しい。
でも、他の街の人は仕方ないにしても、今からまた詰めても普段獣のダンジョンに居る冒険者が急にこのダンジョンに来た時に困るよね。
でもここに生えている石は動かせないから……。
「夜だったら、あの街を拠点にしている冒険者が街に戻ってきて範囲に入る気がする。でも、夜に街の外に出る人はほどんど感じないから、怪しまれるかも。」
「それなら、私がユウキの生活している場所まで行って転移で送る? オオカミも外に行ったし、私も一緒に行きたいの。ダメ?」
それって……デート?
一緒に屋台見たりとか……デートだ! 俺の生活している部屋まで来るとか、お部屋デートだよね! 期待していいかな!?
……まだエロ展開には早いよね。手も繋いでないし、分かってる。自重する。
でも、手を繋いだり、キスくらいまでの進展を期待するのは仕方ないよね!?




