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さとりくんは、腐女子じゃない彼女が欲しい  作者: siki
中学3年生、春休み
3/43

さとりくんは、街にいる

 僕の…いや、俺の報奨金がいくらかを、計算するのに楽しそうな鎧の人に着いて、見えていた高い塀に辿り着いた。高い塀というのか、分厚い壁が街を一周ぐるりと回っている。

 ダンジョンというゲームっぽいファンタジー要素がある世界なので、外にも魔物が居るのかもしれない。

 それを防ぐための物というなら、魔物の襲撃がここまで来る可能性が有るという事か。

 ……もし、中に入れないと、その危険地帯で野宿になるのか?不安だ。


 門には門番がいる。

 案の定、止められる。


「身分証は?」

「ありません。」


 身分証か。鞄があれば、生徒手帳があったんだけど…この異世界な場所で、使えそうに無いけど。

 鎧の人が、カードのようなものを門番に見せて、話しかけている。


「ダンジョンに居たんだ。誘拐かもしれない。」

「ダンジョン?こっち側は、転移迷路だろ?」

「そうだ。ジンジャとか…あー、なんか聞き覚えのない地名を言っていた。」

「そうか。今この街で誘拐事件は聞いてない。身分証明書を発行するが、金はあるか?銀貨3枚だ。」

「…ありません。」


 こちらに向けて聞いてきた門番に、無いと答える。

 財布も鞄の中だ。…財布にも、日本円しか入ってないから、あったとしても銀貨は払えないけど。

 眉をひそめた門番は、ここまで連れてきてくれた鎧の人を見る。


「事件性が有れば、無料になる可能性が有る。そうで無いなら、代わりに払うか?」

”変わった服だ。事件にしても、服がそのままなら金をどこかに縫い付けるくらいしてあるだろう。おかしな奴だ。”

「そうだな…何か、売れそうなものはあるか?」

”誘拐では無いか。なら、異世界人じゃなければ損になる。回収できるか?”


 異世界人だから大丈夫!…だと思うけど、門番にも怪しまれている。この面倒くさがりで金勘定の好きそうな鎧の人に見捨てられると、街に入れないかもしれない。

 …街に入ってもどうすればいいか分からないけど、外で野宿よりはましだと思う。街に入ったら、親切そうな人がいればいいな…。


「分からないですけど、この服を安いものに買い替えたら、足りますか?」

「そうだな。たぶん大丈夫だろう。後で返せるなら、銀貨3枚貸してやる。」

”服か。もしかすると、金貨になるかもしれないな。それなら、十分回収できる。”

「ありがとうございます。」


 にっこり笑って感謝を伝える。

 隙あらば、見捨てようとするから、ハラハラした。

 制服だけど、卒業式は終わったし、無くなっても問題ない。それだけは安心だ。

 このブレザーの制服が高く売れるといいな。

 卒業式で、ボタンを誰かにあげることも無かったから、良かった。別に、欲しがった女子がいないわけじゃないんだからな。



”優紀ちゃんのボタン!記念に欲しい…!けど、我慢。きっと後で、中里くんか佐倉くんとの交換イベントがあるハズだから…!”

”優紀ちゃんのボタン…。目の前で交換してくれればいいのに、もう帰るんだね…。いっそのこと、記念に私がもらいに行く?ううん、駄目。きっと、帰った後に中里くんと交換する。大丈夫。分かってる。”

”どうして、ボタンそのままで帰っちゃうの、優紀ちゃん!佐倉君は、近所じゃないんだよ!勇気を出して交換して!ああ、もう。私がもらって、こっそり佐倉君と交換してあげようかな!?それとも、この後会う予定があるの!?分からない!”



 ……うん、彼女たちは、勇気が無くて僕に声をかけれなかったんだ。

 少なくとも、3人は欲しがってたと思うと、モテモテだったと思わないか?

 記念って何!?とか、中里とも佐倉とも会う予定ないよ!?とか、なんで女の子を間に挟んで男同士で交換しないといけないんだ!?とか、いろいろ思うことはあるけど、むしろ、悲しくなってくるけど。現実逃避しないと、やっていけないよ…。

 腐女子ってなかなか面白い当て字だよね。こんな変わった思考の女子は塩原さんだけだと思ったら、塩原さんの友人を中心に、何人かに広がってるんだから。腐女子、怖い。

 

 卒業式後の一幕を思い出して、虚ろな目になったのは仕方ないだろう。


 来い、と声をかけてくれた門番について、門の横の詰め所に入る。

 カウンターのようになった場所で待たされ、門番は奥の戸をくぐって行った。戻ってきた時には、黒い手袋をはめた手で一枚のカードを持っていた。


「これを持て。それで登録される。」

「はい。」


 差し出されるままに、そのカードを受け取る。

 紙とは違うつるつるとした硬い質感だ。金属か、鉱石?よくわからない。

 持って数秒経つと、そのカードに黒い線が浮き上がってきた。すごい。ファンタジー現象だ。

 浮き上がった線は、ミミズがのたくったような、というのか、居眠りしている時にノートに引かれていた線のような、とにかく意味のなさそうな線がカード上に模様のように走っていた。

 もしこれが、この世界の文字というなら覚えられる気がしない。そもそも、どこからどこまでが一文字なのかも分からない。


「どうだ?出たか?」


 カードを覗き込もうとする門番に反射的にカードを隠すように裏返した。

 小説なんかである異世界物の身分証明書的なカードには、スキルが入っている場合がある。この世界でも十分に読心できるさとり能力が発揮できているから、スキルとして表示されている可能性が有る。この能力がこの世界でどういう扱いになるのか分かるまで、あまり知られたくない。

 ……だから、隠したつもりだったが、無意味だったようだ。カードの裏側にも同じかどうかわからないが、意味のなさそうな線が模様のように走っていた。


「これは…。」

”読めない。この読めない線は、異世界人か!?初めて見た!”


 門番に、ひったくるようにカードを取られた。何度も確認するように、両面を見ている。

 よかった。この線は、この世界の文字でもないようだ。少し安心した。


「異世界人だったんだな。ようこそ。ここはフィフの街だ。この身分証の発行の金額はかからないから、安心しろ。

 保護したのは、フローライトか。フローライトは冒険者だな。冒険者組合で登録すると補助金が出るから行くといい。よろしくな!」

”異世界人なんて、珍しい。保護した奴はついてるな!”


 にこやかに笑って、握手を求められた。とりあえず、握手をする。

 保護した奴はついているという事は、もらえるお金は多いのだろう。

 後ろにいた、鎧の人を見ると、表情は鎧で見えないが、嬉しそうだった。


「異世界人だったか。このまま、組合ギルドに連れて行くよ。」

”異世界人だったか!大当たりだ!報奨金は金貨が出るだろうか?”

「ええと…よろしくお願いします。」


 鎧の人…門番にフローライトと呼ばれていたな。

 未だに、名乗りあってないけど…まぁいいか。

 ただ、もうしばらくフローライトと一緒に行動することになりそうだった。


 門番と別れて、フローライトと共に街の中に行く。

 街並みは、西洋風な感じだ。

 冒険者ギルドか。ゲームっぽい感じだな。小説的なのだと、帰れるパターンと帰れないパターンがあるけど、どっちだろう。異世界人は珍しくても居そうだし、帰れるパターンだといいな。

 でも、小説的な話だとすると、主人公には使命があったりするんだよな。魔王を倒せとか?出来る気がしない。僕の…いや、俺の使命ってなんだろう?

 ……御守の力だとすると、やっぱり彼女を作ることかな?そんな使命って有りなのか?

 冒険者ギルドとかって言ってたし、受付の人とかいそうだし、その時に聞いてみようと思う。





 考えている内に、ギルドに着いたようだ。

 フローライトのように剣を腰にさしていたり、槍とか弓とかの武器を持っていたり、杖を持っている人が出入りする建物だった。杖ってことは、魔法もありそうだな。

 武器を持つ人たちは、防具を付けていたりもするけれど、フローライトのような顔まで全身の鎧は、他に見当たらない。珍しい装備だったようだ。


 この場に俺は場違いな感じもしたが、登録をしないといけないようだし、気にせずさっさと(報奨金のことを考えながら)中に入ってしまうフローライトに付いていくしかなかった。

 中に居る人達は、それほど多くは無かった。

 カウンターになっている受付の空いた所に、入った。

 ギルドの受付嬢…すごい!もう一度、夢ではないかと疑った。とがった耳のエルフな美人。期待を裏切らない美人だった!


「フローライトさんですね。今日は早いですね。買取ですか?」

「いや、こっちの登録をお願いしたい。」


 かしゃんという金属音に、エルフな美人から横に顔を向けると、フローライトが鎧の頭部分を外していた。

 なるほど。建物では、帽子を取ったりするように鎧の頭部分も外すらしい。

 じゃなくて、薄緑な髪に同じ色の目をした若そうな美青年だった。

 これが、面倒くさがりでお金好きなぼっちの顔!?予想と全然違った。だって、ぼっちで剣士で、面倒くさがりのお金好きなのに……なんか、悔しかった。


「登録ですね。身分証を貸してください。」


 営業スマイルの受付嬢に、先ほどもらったカードを渡す。


「これは…異世界人ですか!もしかして、フローライトさんが保護したんですか!?」

「そうだ。」

「そうなんですね!私は、エクレアです。私からもいろいろ説明しますので、これからよろしくお願いしますね?」

”私一押しのフローライトさんが、可愛い男の子を保護!美味しい!異世界人と保護者とか…素敵!”


 エクレアさんの輝く笑顔がまぶしい。

 ……なんだろう、すごく、身に覚えのある反応だった。気のせい。異世界なんだから、きっと気のせいに違いない。

 眩しい笑顔に押されるように、何とか、よろしくお願いしますとは返した。

 異世界のエルフな婦女子が…まさか、まさか、ね?


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