さとりくんは、魔法チート
画面を6つにしたからか、鏡の噂が広がったからか、続々と冒険者が現れた。
声を聞く限り、両方かな?
新しいものに対する好奇心や、よくわからないけど危険という存在を暴いたり倒すことで知名度やランクアップを狙う冒険者も居た。
このまま盛況が続けばいいね。
オペラは、そんな冒険者を逃がしたり、完全停止するまで追い込んだり、ただ鏡のまま通すこともあった。
気まぐれなのか、人を見て決めているのかはよく分からなかった。ともかく、毎回俺が居る時間だけしか被害者いないとなると怪しまれそうだから、オペラも声を使えるようになったのは良かった。
あとは、初めて見る冒険者も普通に声が使えていたけど、石の仕組みがよくわからない。俺が使うのと同じように使えているのか、石を詰めた時に”声”が聞こえる範囲に居た人物は対象になっていたのか……もし後者だとしても、街の方まで範囲内だから問題ない気もする。
「あ。この場合はどうするの?」
「どうした?」
オペラの声につられて画面を見ると、食べられると騒いで放心したままの冒険者の所にもう一人冒険者が現れていた。
そしてその冒険者に鏡の前から引きずり出された。
「二人目は声を掛けないから、この場合は助けさせればいいんじゃないかな? 鏡の前で何人も立ち往生してても気持ち悪いし。」
「確かにそうなの。」
鏡の前から離れても起きない様子に、助けた人は体をゆすり、最後には顔を叩き始めた。
それから数秒で、無事に正気が戻ったようだった。
自然に再起動するまでの時間を調べたかったんだけど、まさか昔のテレビな方法で起動させられるとは思わなかった。
なんにせよ、家電も人間も同じようなものだってことだね。
他の意識が虚ろになった人間は、俺の体感で10分から1時間くらい固まっていたと思う。この大きい個人差が精神力の強さなのかな? ここまで幅があると、短い人には耐性を持たれそうなのが怖い。
しばらくは様子見するけど。
「じゃあ、そろそろ俺も街に戻ろうかな?」
「行くの?」
「うん。魔法の練習をしながら戻ろうと思うんだ。」
「そうなの。頑張って。」
「行って来ます。」
「行ってらっしゃい。」
オペラの見送りを受けて、覚能力を入れた輝石から離れる。
コアの周囲の一部だけが汚染されたように黒くなってるのが気になるけど……しょうがないよね。
元の世界に帰った居ない間のために、全部黒くした方が良いと思うけど……そうなったら神秘的な雰囲気が消えて、禍々しくなる気がする。俺のせいだけど、なんかヤだな。
※
壁の模様から転移すると、来だけでなく大上も着いてきた。
今日はかまってないからかな?
そういえば、大上用の魔石を買ったんだった。
「大上、この魔石食べていいよ。来の強化に付き合ってくれてありがとう。でも、今からは俺が魔法の練習するから攻撃しないでね?」
”魔石! 嬉しい! 強くなる!”
大上の前に置いた昨日購入した3つの魔石は一口で飲み込まれた。
そう簡単には強くならないと思うけど、強くなれるといいね。
ふと思い出す初めて会った時の大上は、他の狼と一緒にいた。今はオペラと一緒に居るようだし、群れに戻らなくていいのかな?
大上単体だと攻撃的な印象はかなり薄くなっている。スライムを狩る時も遊んでるような印象が有った。相手の強さの違いか……あの時はフローライトが居たからかもしれない。あんなに殺気立つくらいフローライトが嫌いという意味ではしょうがない気もする。
まあ、いいか。
とりあえず、魔法の練習だ。
攻撃する時の、攻撃する意思。魔法の結果までイメージすればいいのかな? 言葉に出すだけで簡単に発動されるけど、こういうイメージが大事だったりするよね。やってみようか!
近くに居るスライムの方に近付く。
スライムと同じくらいの大きさの火の玉をイメージする。
そして、その火飛んでスライムを焼き尽くすことを念じる!
「『燃え尽きろ!』」
あ、間違えた。
呪文からして間違えた。しかも、声も間違えた。
さっきまで『声』を詰めてたからその弊害だね。うっかりしてたよ。やっちゃったね!
イメージした通りのサイズの火の玉。ただし色は黒。
それが飛び出して、対象にイメージしたスライムを燃やし尽くした。一瞬だった。
魔石すら現れない。燃え尽きたようだ。
……正直、普通の「声」と『声』の混ざった感覚は今までにない。普通の呪文を唱える声の感じもちょっと違うは思ってたんだけど、これは事故! ……本当だよ?
でも、なんかアレな気がしてきた。
たぶん、魔法って声の強さに反応してる気がする。だからイメージとか意思とか言うんだ。
それは覚能力に共通していて……しかも、上位の『声』を使えるのは覚能力だけ。
覚能力って汎用性が高いね! 異世界では覚能力で物理現象を引き起こせるなんて、妖怪風の能力も進化したもんだよ。
でも、魔法の強さが精神力の強さじゃなくて覚能力の強さだとすれば、俺の精神力の強さの証明にならない。だから、やっぱり魔法は精神力ってことでいいよね?
”ど、毒る……。(す、すごい……。)”
”今の何? 弱そうだけど、すごく強い! すごい!”
来と大上からの賞賛の声に満足する。そろそろ弱そうはやめて欲しい。
オペラが見てたら、カッコいいっても思ってくれたかな?
オペラの声を探してみたけど、聞こえなかった。たぶん、覚能力を使ってる。
あの石を使われている間はブロックされちゃうんだよね。石を使ってるという事は、たぶん冒険者を処理している最中で、その最中に他を意識するようなことはオペラは出来ないから……つまり、俺を見てない。残念。
こんな裏技みたいなのは人前じゃ使えないから、普通の魔法の練習もしたい。
普通の魔法といえば、ファイアーボールとウォーターボールの次は何だっけ?
……うーんと、エアカッター?
取り合えず、やって見ようか。
次のスライムを探して使ってみた。
「”エアカッター”」
イメージ通りに風の刃でスライムを刻んだ。即座に魔石に変化した。
これだよ、これ。魔法使ってる感。ファンタジーっぽくて、いいね!
あともう一つが思い出せない。
うーん……。でも、イメージで出せるなら何でもいいんじゃなかな?
例えば、水が有るなら氷とか?
「”アイス”」
とりあえず唱えてみると、2cm角くらいの氷が現れた。空中のそれを捕まえて確認する。
氷だね。冷たくて、手のひらの体温で溶け始めた。冷凍庫で普通に作る普通の氷。
ちゃんとイメージ出来れば何でもできそうだね。
……ちゃんとイメージしないと、こんなしょぼい氷とかになるけど。
こんなの1個だと、飲み物を冷やすのにも使えないよ。
魔法の練習をしながら、ダンジョンの外に向かった。
ほぼ、ファイアーボールで魔石を消し飛ばさないようにする練習だった。
普通の赤い火の玉ですら魔石も燃え尽きるってどういう事かと思ったら、燃やし尽くすイメージが強すぎたらしい。でも、焼き加減を弱くすると倒せないから苦労した。
結果、イメージの中で魔石だけ燃え残るようにイメージすれば大丈夫なことが判明した。
これなら範囲の指定とか、火以外にも応用できそうでいい勉強になった。
異世界っぽくちゃんとした魔法を使えて満足した俺は、到着した壁の青い模様に触れてダンジョンに出た。
「え、何で大上も着いて来たんだ?」
来の他に、大上も着いてきた。
構い足りなかったから? それとも、魔石がもっと欲しいから?
大上は犬らしく「クーン」と鳴いた。
”仲間だから一緒にいる!”
「仲間って言うなら、昨日とかもそうだったよね? え、ダンジョンを出て大丈夫? 死なない?」
”ちょっと強くなったから、1日くらい大丈夫!”
”毒るー♪(一緒だねー。)”
”一緒、一緒♪”
うん? なんか、来と大上が仲良くなってる。
オペラと一緒に居る時のかまってコールを無視し続けたことで連帯感が生まれたのかな? パティーメンバーだし、仲がいいのはイイよね。オペラと居る時も、2匹で遊んでてくれれば助かるし。
魔石3つで1日外に出られるなら、もう3つでさらに1日くらい平気になるのかな? ゲームだとレベルが上がると必要経験値が上がるからそう簡単に行かないか。
とりあえず、ダンジョンの魔物の強さはそうやって強くなるようだ。




