さとりくんは、力を貸す
手土産を片手に帰ってきたダンジョン。
オペラに声をかけ、道は覚えているつもりなので大上の迎えは断った。最悪、オペラのナビが有るから大丈夫。
午前中に会えなかったから、今日は寄り道せずにまっすぐ向かう。
しかし、ここで進行方向に、毒スライムが現れた!
”毒だぞ?毒だぞ?毒だぞ?”と、繰り返している!
こうなったら、倒すしかないよね! やっと魔法の出番だ!
前回一度しか使っていないファイアーボールは、フローライトを手本に小さな火が着弾と同時に大きくなるイメージだったが、今回はそんな難しいイメージはしない。
とりあえず大きい火の玉をぶつけてみることにする。
やっと訪れた実験の機会に、若干ウキウキしながら魔法を使う。
これが俺の精神力だ!
「”ファイアーボール!”」
イメージ通りに直径1mほどの赤い火の玉が出来たので、それを【毒だぞ】に投げつける。
火の玉よりも小さいスライムは、火の玉に押しつぶされるように一瞬視界から見えなくなる。
……やったか!?
着弾し消滅した火の玉の場所に残る、一回り小さくなったスライム。俺を敵と認識して迫ってきた!
”毒だぞ!毒だぞ!毒だぞ!…”
……なんで!?
見た目の威力は以前見たフローライトのファイアーボールよりも上。それなのに、効果は一回り小さくするだけという同じ結果……思ってたのと違う……。
迫って来る【毒だぞ】に毒られないように、右手で持つナイフで色の変わった部分を刺す。
変化した魔石は、来に食べさせた。
……俺の魔法って、弱いのかな? でも、イメージ通りに大きい火の玉は出せたよね? だから、使えないことは無いと思うんだけどな……。
魔法現象の不条理さに打ちのめされながら、いつもの場所に落ちる赤い石を拾ってコアのある部屋に転移した。
魔法って、難しい……。
※
「おかえりなさい。」
にっこり笑うオペラを見て、言い知れぬ幸福感が体を駆け抜けた。
おかえりだって! 新婚さんですか! 新妻ですか! 俺の嫁が可愛すぎてつらい……。
「ただいま。待たせちゃってごめんね?」
「大丈夫。あの人のエネルギーをやっと回収できてスッキリしたの。ありがとう。」
フローライトを怖がらせた件でお礼を言われてしまった。
もっと追いつめてやった方が良かったかな?
「それよりも、さっきのは魔法の練習なの? どうしたの?」
……さっきのって、さっきのだよね?
練習のつもりだったんだけど、心底不思議そうに聞かれてしまうと、心が痛い。
……彼女にカッコいいところを見せる練習だったなんて言えない。
「う、うん。魔法を使う練習をしてたんだ。」
「そうなんだ。でも、攻撃の練習じゃないでしょ? 何の練習?」
「え? 攻撃の練習のつもりだったんだけど、なんか違ってた?」
「攻撃の練習だったの? 攻撃する意思を感じなかったから、違うと思ったの。」
攻撃の意思? 魔法って、攻撃の意思が必要なのか?
そう言われれば、さっきは大きい火の玉を出すことと、ぶつける事くらいしかイメージしてなかったかも。
火の玉をぶつけるだけで、十分ダメージになると思ったんだけど……だから、ぶつかって表面がちょっと焼けた効果が無かったとか? そういうこと?
「なんとなく分かったかも。次はもう少し上手くできそう。」
「……そう? よくわからないけど、役に立てたみたいで良かったの。」
持つべきものは素敵な彼女だね! 魔法のコツがなんとなく分かったかも!
もうちょっと魔法の練習をしたいな……。
「それなら、早速だけど力を貸してくれる?」
「ああ、うん。大丈夫。冒険者来た?」
オペラの声にハッとして、コアの前に浮く画面を見る。
昨日は2つだった画面は、今6個になっている。そのどれもに、人の姿は映っていない。まだおしゃべりする時間は有りそうだ。
「そうじゃなくて、今日みたいにユウキがいない時に鏡の意味が無くなっちゃうでしょ? だから、力を貸して欲しいの。」
「うん?」
俺のスキル頼りになることが欠点だと伝えたはず。いない時はただの鏡になるのは仕方が無いから、つまり帰らないでずっと一緒に居てってこと? ……それはそれで可愛い。
でも、帰る協力をしてくれるんだよね? どういう事?
オペラの内心を見ても、きょとんとした表情と同じく、”力を貸してほしいって頼むのは変じゃないでしょ?”という何が伝わっていないか分からない様子だ。
「ええと、力を貸すのはいいんだけど、どうして欲しいのかな?」
「どうして? ユウキの能力を貸してほしいの。いい?」
「能力? いいけど、どうやって?」
「私が石を作るから、それに入れて。」
……力を貸す=スキルを石に詰めて貸す。ってことか!
確かにそれが出来るなら、俺が居なくてもオペラ一人で困らないよね。
……そして俺は、お払い箱? ……そんなこと、ないよね?
「わ、分かった。それと、ここに来た時の赤い石を一つ売っちゃったんだけど、石作るのも大変なんだよね? ごめんね。昨日の石は持って帰ってきたから、これに入れて返せばいい?」
「一つくらい大丈夫なの。でも、返してくれるなら嬉しい。その石なら純度が高いから入ると思うの。」
「それと、石にスキルを入れるって言うのは……どうやるんだ?」
「石を持って、その石にスキルを入れるつもりでスキルを使うの。そうすると入るんだけど……ユウキのは異世界の能力だから、入らなかったらどうしよう……。」
今思いついたようで、眉を下げるオペラが可愛い。
俺は慰めるように笑って言う。
「そうしたら、また方法を考えればいいよ。とりあえず試してみようか。」
「お願い。」
オペラの見守る前で、見えるように今日の赤い石を持ち、この石に俺の能力が溜まるようにイメージしながら……とりあえず来に声をかけてみる。
(来、声聞こえる?)
『声』を出したつもりが、出なかった。手に持った石を見ると淡く光っていて……点滅した後に、砕けた。そして、キラキラ光りながら消滅した。
手には欠片どころか、粉一つ残っていない……。
「え? どうしよう、砕けて消えたんだけど!?」
推定銀貨5枚が蒸発したことに焦りながらオペラを見ると、目を大きく見開いて凝視している。
思考の方も驚きのあまり、しばらく停止してしまったようだ。
「…………そうなんだ。ユウキの能力は強いから、普通の石だと耐えられないみたいなの。でも、いい石を作ったら世界を転移させられるかも試さないといけないから……どうしよう。」
普通の石では耐えられないし、新しく作るいい石は俺の転移の為に使ってくれるらしい。
それなら……、俺はコアの方の石を指さす。
「あの石に入れるのはどうだろう?」
もちろんコアではない。コア周辺の床や壁から氷柱のように生える透明度の高い淡く光る石。
輝石と呼ばれながらも、実際に光る石はあれしか見ていない。明らかに特別性なのは間違いない。
特別過ぎて使えないなら、仕方ないけどね。
「でも、それは……ユウキが欲しいって言ってたでしょ? いいの?」
ビックリ顔のオペラに驚いた。
アレ、俺にくれるつもりだったんだ!? 確かにそういう話はしたけど、すっかり忘れていたような話だし、そもそもあの周辺の全てって意味じゃないよ!?
「もしかして、全部俺にくれるつもりだった?」
「そうだよ。ユウキは困っていた私を助けてくれたでしょ? それに……異世界に帰っても戻って来てくれるように、私のあげられる一番価値のあるものをあげたいと思って……。」
頬を染めて照れたように話す彼女が、悶絶するほど可愛かった。
こんな彼女が居るんだから、全力で世界を越えて戻って来る努力をするに決まってるよね!?
やっぱりあの石はすごく特別なんだね。それを帰ってきてほしいから俺にくれるとか……いつの間にこんなに好かれてたんだろう!?
便利な人間扱いっていうか、逃げられたら困る特殊技術者じゃないんだから……あれ、そういうつもりじゃないよね? 好意だよね?
「アレが欲しいって言ったのは、言ってみただけだから忘れて。何かを貰わなくても、オペラは俺の彼女なんだから、何ももらわなくても帰って来るよ。その……ほら、俺、……オペラが好きだし。」
ちゃんと好きって言うのは初めてだ。照れで赤くなる頬をこすって誤魔化す。
もっとさらっと言えたらカッコいんだろうけど、これが俺の限界だ。
伝えた彼女を見れば、頬を染めたまま口元隠すように両手を重ねていた。
「……彼女だから、いいの……? 嬉しい。私、ユウキの彼女なの……だから……。」
ミルクチョコレートの目を甘く潤ませて、俺に顔を寄せて続ける。
「あの石に、能力を入れて?」
分かってた! はいはい、便利な彼氏さんです!
こんな可愛い表情で、甘い香りを感じる位顔を近づけられたら、頷く以外出来ないよ!
こくこくと何度も頷く俺を見て、オペラは笑う。
口元は手で隠されていて何を言っていたか分からない。でも。
”すき”
小さく聞こえた声が幻聴じゃなければいいんだけど。
単純なところが利用しやすくて好き、って意味じゃないといいんだけど。
言い訳を重ねて緩もうとする表情筋に気合を入れて、それでも崩れる表情を隠すように光る氷柱に駆け寄って触る。
彼女の役に立つためだ。石に能力を詰めるくらい、余裕だ!
俺の能力をオペラが役立てる。オペラの能力で俺が世界を行き来する。
需要と供給のバランスがぴったりで、俺とオペラの相性もすごく良いよね。
……縁結御守の効果が絶大過ぎると思った。




