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さとりくんは、腐女子じゃない彼女が欲しい  作者: siki
中学3年生、春休み
20/43

さとりくんは、試す

 オペラは、宙に浮く赤い立方体のコアに触れて何やらやっている。

 何やらっていうか、鏡の設置だけど。

 その様子を見ると、すごく集中しているのが分かる。

 ダンジョンに同調して、設定を変えるってこんな感じなんだ。

 

 覚能力であちらこちらから声が流れ込んでくるのは慣れたけど、この無機物を通した内部の映像とか生物が動く振動とかが流れ込んでくるのは、感覚がちょっと違って酔いそうだ。

 設定が終わるまで、オペラから盗み聞きするのはやめようか。邪魔になっても悪いし。


 下に目を向ければ、体を揺らす来と、尻尾を振る大上が居る。


”毒る…? 毒る、毒る…?(話終わった?今日も撫でてくれる?)”

”終わった? 撫でてー。構って~!”


 意図的に無視していたわけだけど、オペラと話している間のこの二匹は、遊んでほしいという意思をずっと流して来ていた。

 椅子の無いこの床に直接座り込み、来をぷよっとつつく。


「オペラの作業が終わったら撫でてもらうといいよ。」


 来は頷くように体を揺らして、オペラの足元に行った。

 ……オペラは今集中してるから、来が足元に居るのに気付いてないよ。後で踏まれないといいけど。


 そして、俺の膝に乗り上げてきた大上は、もふる。

 オペラじゃなくて俺にかまって欲しいなんて、嬉しいじゃないか。俺からも魔物に好かれるオーラ出てるかな?

 ……ただ単に、俺が来るまでオペラに撫でられていたから、俺に懐いてきただけかもしれないけど。犬だし。


 ……このお試しが上手く行ったら、これからは此処で過ごすことになるのかな? 椅子もないし、何か敷物とか用意した方がいいかも? でも、オペラはいつも此処に居るんだよね? ずっと立ってたら疲れないのかな?


「設置が終わったの。後は、冒険者を待つだけ。」


 ぼんやりで大上をもふっていたから、急に声をかけられてびっくりした。

 目を向ければ、オペラが来抱えた状態で近づいて来ていた。そして、俺の隣に腰を下ろした。


 ……ち、近い! か、彼女だとこの距離感になるんだ!? い、いいけどね! 緊張するけど!


 視線をそらすように正面に目を向けると、コアの前に宙に浮く画面が2つ有った。

 どちらにも、トンネルの壁の一部が学校のトイレの鏡サイズに鏡化している部分が見える通路が映っている。防犯カメラの映像みたいだ。

 ……近未来的な画面の出し方だ。いや、ファンタジー的なのかな?……どっちでもいいか。

 オペラから直接見るつもりだったけど、こうして見える形にしてたほうが楽だね。助かる。


「あの映像って、今設置した場所の映像ってこと?」

「そう。奥の方で比較的冒険者が通りやすい所に、2か所設置したの。侵入者が居ない区画じゃないと新しい設置が出来ないから、今近くには居なくて待つと思う。」

「そうなんだ。」


 じゃあ俺が来る時に石を置いてくれるあの場所は、区画の変わってすぐの場所ってことかな。だから、近くに石を置けなかったんだね。


「そう、時間はあるからちゃんと説明して欲しいの。ユウキの事。」


 真剣さを帯びたミルクチョコレートの目が俺をまっすぐ見つめる。

 ……両手は、膝上の来と、俺の膝上の大上の頭を撫でてるけど、真剣なんだよね? 無意識? 無意識に撫でちゃってるの?……なかなかいい触り心地だから仕方ないよね……。


「えっとー、説明するけど、とりあえず先にお昼にしよっか! そろそろいい時間だし。」

「お昼?」


 袋から今日ももらったサンドイッチを出す。

 そういえば、オペラのエネルギーは侵入者の感情だった。サンドイッチ、食べられるかな?


「これだけど、食べられそう?」

「たぶん。……くれるの? ありがとう。でも、説明はちゃんとして。」

”何それー。食べたいー。”

”毒る? 毒る?(食べるの? 食べていい?)”


 来は今更だけど、大上は食べるのは冒険者くらいって言ってたよね。サンドイッチを食べても大丈夫かな? 本人が食べたいって言ってるから、いいよね。


「分かってるよ。食べながら説明するね。」


 サンドイッチをみんなで分けて食べる。

 量は少なくなったけど、タルトさんのサンドイッチはダンジョン組の味覚も喜ばせることができたようだ。


「俺の能力は、俺の先祖から遺伝してるんだ。だから、この世界のスキルじゃない。

 能力の内容は、心の声を聞くこと、考えていく事を読むこと、そしてオペラに声をかけたように『声』をかけること。俺は覚能力って呼んでる。

 ここでスキルとして2つ登録したけど、どっちも覚能力の副次効果なんだ。

 心の声を聞くことで近くに居る生物の居場所が分かることから察知のスキルという事にして、『声』で命令すると操ることができるから魔物支配のスキルという事にしたんだ。」


 説明といっても、これくらいしか無い。

 ちょっと変わっただけの能力だし、そんなに説明出来ることも無いよね。

 オペラは静かに聞きながら、”異世界人ってそんな便利な能力があるの。いいな。”と思ってた。

 地球人全部じゃないけど、俺達っていう生きる証明がいるんだから、きっと他にも何かの能力持ちがいても不思議じゃないよね。特に訂正はしなかった。

 あとは今回のお試しに関係ある、『声』の補足事項かな。


「今から『声』を使って冒険者を驚かしていくつもりだけど、この『声』は見たことのある相手なら心の声が聞こえる範囲より少し遠くまで使うことが出来るんだ。

 たぶん鏡の位置まで声の範囲も届いていると思うけど、思っている声だけだと範囲が広いほど多くて区別が難しくて……見える映像と照合したいから、映像が見たいって頼んだんだよ。」

「そうなの。」


 やっぱりそれくらいの感想だよね。便利だけど、大した能力じゃないし。


 これ以上説明することも思い浮かばなかったので、この後は妖怪覚について話したりした。

 やっぱり、鏡を見ると自分の心の声が聞こえてくるなんて、怖いかどうか分からないよね。

 オペラも本当に恐怖を煽れるか不思議そうにしていた。

 たぶん大丈夫。覚能力というものをなんとなく分かってきた今としては、その怖さが少しだけわかる。きっとこの世界の冒険者も怖いハズ。



 ”美味しい”という声を聞いた後は、雑談しつつ、ぷにぷよ・もふもふに癒される。

 ほのぼの、まったり、だね。

 ちゃんと映像も確認してるよ。優先すべきことは忘れてないよ?



 ということで、待ちに待った冒険者がやってきた。

 遅いねー。なんて話していた後だったから、映像に冒険者が登場したことを皆で喜んだ。噂をすればなんとやらだね。

 お試し第一号だ。集中しようか!


 映像の中の冒険者は、鏡を見つけて近寄っていく。


”なんだ? 鏡か? 外して持って帰ったら高く売れるか?”


 なんて思っているが、壁の一部が変化したものだから外れないと思う。

 フローライトじゃない冒険者だったけど、この人もお金好きだね。

 売れるかもと思った彼は、のこのこと鏡に近づく。映像を注視して、鏡にその姿が映るまで…3.2.1…!


”埋め込まれてる? 取れないのか?”

『 埋め込まれてる? 取れないのか?』

”なんだ? 声が…聞こえる? 鏡からか?”

『 なんだ? 声が…聞こえる? 鏡からか?』


 突然声が聞こえた冒険者は、鏡に映る自分の姿を見つめて、固まった。

 鏡を外せるか試すために腕を伸ばした状態で停止し、だんだんと不安を感じ始めるのが分かる。


”俺の思っていることが…俺のこえか?”

『 俺の思っていることが…俺のこえか?』

”なんで、鏡…どうして、こえが…。”

『 なんで、鏡…どうして、こえが…。』


 鏡に対して、不気味さを感じてきたのが分かる。


”こんな不気味な鏡…触って大丈夫か?”

『 こんな不気味な鏡…触って大丈夫か?』


 そして鏡に触ろうして声に驚き、ぎりぎり触れない位置で止まっていた腕を下ろそうとする。

 ……でも、出来ないよね。

 冒険者は、硬直したまま。動けないことを悟る。

 そして、さっきまでの比じゃないくらいの焦りと不安と恐怖を覚える。


”なんで動かない…! 俺の体が…、お前が!?”

『 なんで動かない…! 俺の体が…、お前が!?』


 鏡に映る自分を、恐怖の眼差しで見る。

 鏡の中の自分が自分を乗っ取ろうとしていると妄想したらしい。

 お前というのが『声』を出している俺の事だったら、正解だけどね。


”危険なのか!? 逃げ…逃げるべきだ!”

『 危険なのか!? 逃げ…逃げるべきだ!』

”転移を…転移、転移で…!”

『 転移を…転移、転移で…!』


 もう少し試したかったんだけど、転移で逃げたいようだ。根性が無い。

 でも、今流れ込んできたイメージは有力な情報だった。

 逃がしてあげようか。


 更に三度ほど転移を願った冒険者は、映像から消えた。無事に転移で逃げられたようだった。


「なんか、ずいぶん怖がってたよね? エネルギー的にはどう?」


 一応、動けないところにスライムに襲わせるという第二プランもあったけど、鏡から声というお化け現象で十分に怖がってくれたようだ。

 あの人がスゴイ怖がりっていう可能性も有るけど、とりあえず成功かな?


「十分エネルギー回収出来たの。ごちそうさま。……でも、突然動かなくなったけど、何で?」


 そうか。心の声が聞こえないと、冒険者が突然動きを止めて不安や恐怖を感じたら逃げるように転移したってことになるのか。


「説明した通り、俺があの冒険者が思ったことをワンテンポ遅れで『声』で伝えただけだよ。」


 オペラは、きょとんとしている。”それで、なんで動きが止まるの?”と、不思議そうだ。


「操作できる俺の声は、優先力が強いんだ。自分で思った後に、同じ命令を1拍遅れでされると動作機能が混乱してフリーズするんじゃないかな?」

「そうなの……。」

”そうなの? 実際に起こったから、そういうものなんだ……。”


 オペラは不思議そうだけど、そういうものだと認識したらしい。

 パソコンで次ページをクリックして読み込んでいる時に、さらにクリックするとフリーズしたり読み込めなくなったりするのと一緒だね。……そうなるよね? うちのパソコンだけじゃないよね?


 動けなくなることは想像していたけど、実際に人間にもパソコンと同じ現象が起こるなんて……面白かった!



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