さとりくんは、彼女が欲しい
大上が合流してから、道中と付近のスライムを狩りつつこの前の場所に向かった。
スライムが落とす魔石はそのまま来に食べさせた。
「来、強くなったみたい?」
”毒、毒る♪ 毒るる♪(たぶんなった! 動きやすいよ!)”
5個ほど食べさせてこれだ。単調なテンションでの鳴き声が少なくなり、毒るのテンションだけで喜んでいるのが伝わるようになった。
魔石でも強くなるようで良かった。
これで、心の声の自由度が上がることで運動能力も上昇することが証明されたね。
たぶん魔物はイメージしたと事を声に出すまでに何らかの抵抗があって、それが強くなることによって同期されて動きやすくなるんだと思う。
思うと同時に動ける、思ったように動ける。それが強くなるってことだと思う。
……ゲーム的な圧倒的な力って感じはしないけどね。心の声とイメージが一致した後に、なんかスゴイ強さの成長が来るかもしれない。……そうだといいねっていう希望だけど。
そうだとしても、後どれくらいでちゃんと喋れるようになるんだろう。まだまだかかりそうだ。
”いいな~! 強くなりたい!”
大上が狩ったスライムの魔石で来が強くなってるからね。羨ましいのは仕方ないと思う。でも、大上が簡単に狩れるスライムの魔石でレベルって上がるかな? ……経験値的に上がらない気がする。
「街で魔石を買えるか聞いてみるよ。買えたら持ってくるけど……大上って、何食べて生活してるの?」
”食べないよ? 食べるのは、侵入者?”
……物騒!!
冒険者が居なくても、飢えることなく生きられるって事かな。ダンジョンからあんまり離れると死んでしまうらしいし、ダンジョンからエネルギーを得ているのかもしれないね。
飢えて土を食べたような来と比べると楽そうだけど、結局オペラがそのダンジョンのエネルギーのやり繰りで四苦八苦しているようだから、一長一短かな。
辿り着いた通路に、見覚えのある小さな赤い石(推定価値銀貨5枚)が3つ落ちていた。
道は覚えられたか、不安。
だって来や大上と話したり、オペラからの催促の声に返答もしていたからしょうがないよね? 2カ所で同時に話すと大変なんだよ。
石を拾って転移した先は、幻想的な輝石とコアの部屋だった。
案の定、オペラは唇を尖らせていた。
「待たせてごめんね。」
「待ったの。……そのスキル、どうなってるの? ダンジョンを通すと音声が聞こえないけど、オオカミとかと話しながら私とも話していたでしょ。集中しなくても使えるってこと? 便利過ぎて、ズルい。」
道中浴びせられた声と同じテンションで、ズルいと言われて苦笑する。
「集中はしてるよ。2か所で話すのは結構大変だし。オペラも思念伝達出来るんだから、やって見れば?」
「二つを同時に考えるってこと? そんな難しいの事、出来るとは思えないの。」
出来ない? 心の声やイメージと、声や行動がここまで一致しているのと関係あるのかな? だから、こんなに素直でストレートな”声”ってこと?
声がブレて聞こえると言うのは、本当は少し辛いんだ。家では出来るだけゆっくりしたいという理由でで、母も父を選んだことを教えてくれた程だった。
その母に選ばれた父よりも、よっぽどオペラの方が綺麗だ。もちろん、俺のタイプもそんな相手。
____
「今年のクラスには好みの女子はいたのかよ。」
「好みのね。うーん。難しいかなぁ。」
周りを伺うよりも、塩原さんの強烈な思考が常に襲ってくるから、タイプの女子とか探したり考えたりする気が起きない。塩原さん達と比べれば、ほとんどの女子は有りな気がしてくるよ……。
「まだ、性格の素直な女とか言ってるのか? 性格より、胸だろ。」
「それは中里の好みだよね!? 女子の顔より先に胸を見るくらいおっぱい好きの嗜好を、僕に押し付けないでよ。」
中里は、胸は大きければ大きい方がいいと常々主張している巨乳好きだ。
僕の場合は、覚能力的な切実な理由のある好みの選定だ。一緒にしないで欲しい。
「でもさ、性格とか全部抜いたら、佐倉とかイケそうな気がしないか?」
「佐倉って、はぁ!? 佐倉ぁ!? 僕はムリ!」
え、巨乳好きがまさかの男OK? 初めて聞いたんだけど! まさか、塩原さんの腐がここまで感染したとか!? 怖すぎる!!
「あの性格とかを抜きにすれば、下手な女子より顔綺麗じゃん。あの顔で、胸が有れば結構いいと思うんだよな。妹とか姉ちゃん紹介してくれないか?」
”これが聞きたかったんだよな。”
やっと本心がわかった。厄除御守の能力抑制が頑張っていたようだ。
前置きが長すぎる上に、変な話題の振り方だったから、無駄にドキドキしちゃったよ!
「佐倉の妹とお姉ちゃんでしょ? やめた方がいいんじゃない? 佐倉から聞く限り性格が不安だし……僕は嫌だよ。佐倉も紹介しするの嫌がると思う。」
「佐倉の顔の女バージョンだろ? 性格を抜きにすれば、かなりイイと思ったんだけどな。確かにそうだよな。」
佐倉の女バージョンか。佐倉がもし女だっとしても、あの重度のオタクは「異世界召喚待ち」と堂々と言い放つんだ。……友達としては面白いけど、そんな精神を持っているの彼女、ヤダ。
中里が「彼女ほしー」と何度も言ってうるさいので、「受験に集中しろ! 中学で彼女作るのは諦めろ!」と言って黙らせた。
____
そうだった。こんなこともあった。割と最近の話だったけど。
受験も卒業式も終わってるし、彼女を作ってもいいよね。別に、抜け駆けじゃないよ。
「出来ないなら、仕方ないね。貸せるんなら、俺の能力を貸すんだけど。」
「ほんと? 貸してくれるなら、嬉しい!」
「ああ、うん。貸すので良ければ、ここに居るときは言ってくれれば貸すよ。」
「嬉しいの! 便利そうだから、利用方法を考えないと!」
ミルクチョコレート色の目を輝かせて、上機嫌に笑っている。
俺が力を貸すくらいで、こんな嬉しそうにするんだ。……可愛いな。
時間がある時に手伝うくらい簡単だ。これで、オペラが2重思考を練習しないでくれるなら安いものだ。
……まだ、彼女になると決まってないし、腐女子チェックもまだだった。
「そういえば、攻めの反対って何か分かる?」
「いきなり問題なの? ……攻めの反対は、守り? もしダンジョンを攻められたら、私の攻撃力は低いから守りに徹するの。私はダンジョンマスターだから、しっかり守るの。」
心の声もイメージも、完全一致! 祝、not腐女子!!
ビターチョコレート色の髪をさらりと揺らして、真面目な表情の顔を寄せられる。
ち、近い! なんか甘い匂いがする気がする! やばい!
「ユウキも協力者だから、手伝ってくれる?」
至近距離で、ミルクチョコレートの瞳を甘く潤ませて聞かれれば……頷く他は無いだろう!
こくこくと何度も頷けば、満足そうに微笑んで、距離感が戻った。
細く息を吐いて、跳ね上がった心臓を落ち着ける。
「……付き合ってください。」
「付き合う? 何に?」
……だよね!!!
なんで俺はいきなり告ったんだ!! つい、口から出ちゃったんだからしょうがないよね!?
あまりのショックに自問自答をしてしまった。
……それにしても、この返しっていうのは、遠回しの拒否ってことかな……?
縁結びが、絶対ここで結んでくれたと思ったのに……。
「どうしたの? 何がそんなに悲しいの? ごちそうさま。」
キョトンとした顔でこちらを眺めている。本当に、意味が通じて無かったってこと? まだチャンスある?
「えーっと……お付き合いって、男女間の親密な関係? みたいな意味なんだけど。えーっと。そういうのは、無いかな? オペラが良ければ、俺の彼女になって欲しいんだけど……。」
「お付き合いで彼女? 伴侶とか番ってことなの?……ユウキは、人間なのに私なの?」
そういえば、オペラって厳密には人間ではないんだよね。でも、人間っぽいから人間のくくりに入れてもいいと思うんだ。……いいよね?
俺が言った意味が通じて混乱している様子だけど、小声でブツブツと混乱した内容を漏らしながら再考してくれているようだ。
「……でも、私はマスターだけど人間みたいなものだし、アリなのかな?……アリなの?……便利なスキルが……親密な関係で、貸してくれる?……好きになれる?……人間だけど、人間っぽくないような? アリ?……協力者で親密な関係? アリ?……人間でも、アリなの?……有りなの。」
便利なスキルが俺とのお付き合いの利点に入るんだね。いいけど。
人間っぽくないとか言われてるけど、人間だよ? 別にフラれても協力者としての協力はするつもりだけど……結構有りに傾いてる気がするんだよね。
オペラは納得したように一つ大きく頷いて、俺の目をまっすぐ見つめてきた。
「お付き合い、いいよ。彼女になるの。よろしく。」
「ほんと!? う、嬉しい。ありがとう!」
初彼女! やった! こんな可愛い子が彼女なんて嬉しい!
オペラから差し出された手を握り返し、握手をする。
……一瞬、契約成立って気がしたんだけど、喜んでいいんだよね?
……好かれてる感じはしないけど、有りって判断してくれたんだ。好きになってもらえるように頑張ればいいってことだね。
じゃあ、好感度を上げるために、ダンジョンの協力を頑張ろっか!!