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さとりくんは、腐女子じゃない彼女が欲しい  作者: siki
中学3年生、春休み
17/43

さとりくんは、悩む

 ギルドを出た後は、夕飯まで街をぶらついて時間を潰した。

 サンドイッチを食べて間もないし、次は宿の美味しいことが確定している夕飯が待っているので、買い食いは出来なかった。焼き鳥っぽい串焼きは、今度買おうと思う。

 だからと言って他の物も、集中してみることは出来なかった。

 修行について考えながら歩いていたから、本当にいい匂いのした屋台くらいしか印象に残ってない状態で宿に戻ってきた。


 ゲーム的に階層ごとに強くなる他のダンジョンに対抗した修行メニューとか……いや、ゲーム的な他の方法も考え着いたんだけど……あんまりやりたい方法じゃないっていうか、それが本当に修行になるのかとか、それが修行になるならそれも困るような気もするというか……。


 そもそも、来と大上が強くなれるかもわかっていないのに、パーティーメンバーでも無い冒険者を強くすることを考えるっていうのも微妙な感じだ。


「来だって、強くなりたいよね?」


 独り言じゃないよ。ちゃんと来を抱き上げて話してるから。

 来を抱きかかえて、ベットに腰かける。

 あー、夕飯まだかな。散歩で時間を潰したつもりだったけど、まだだったみたいなので、部屋で休憩中だ。


”毒る。毒る。毒る?(なりたい。強く、なれる?)”


 来が強くなりたいのは分かっても、なり方とかわかんないし。このぷにぷよ感は、最初と変わってないし、毒る?毒る?と聞こえてくる声にだって変わりはない。


「魔物を倒したらレベルアップしないかな?」

”毒る?毒る。毒る。毒る。毒る!(戦う? 食べると、強くなる。だから、毒る!)”


 え、食べると強くなるんだ? 今日は丸一匹兎を食べたけど、変化はなさそうだな。この声だって……え? 待って、毒るは毒るだけど、ちょっと違うかも!

 来を目の前に持ち上げて聞く。


「来! 今日、兎食べたけど、強くなった?」

”毒る。毒る。毒る。(なった。と思う。たぶん。)”


 強くなったかは……本人も思っているように微妙だけど、確かに変化はある。

 あの”毒る?”という、クエスチョンマークなテンションが常時で無くなってる!

 ……本当に、強くなったかは微妙だけど……いつかは、ちゃんと喋れるようになるってこと? それなら、大上も強くなると声とイメージが一致してくるのかも!

 ……それが、強さとどういう関係かは分からな……くも、ない?



 ___ココン!

「夕飯の用意できたよ!」

「え! はい、行きます!」


 ドアのノックと共にタルトさんの声が聞こえた。

 慌てて来を下ろして、部屋を出る。


「わざわざ呼びに来てもらってすみません!」

「あたしが呼びたくて呼んだんだから、気にするんじゃないよ。シチューだからあったかい内に食べた方がいいからね?」

「そうですね! サンドイッチも美味しかったです! 今日のシチューもすごく楽しみです!」

「自信作だから、期待して食べておくれ!」

”こんな可愛いのが息子だったら……強くなさそうだし、遭難する前に冒険者を止めるように勧めたいが……異世界人のテイマーじゃ、向いてないのがはっきりするか1年するまで勧誘できないね……。”


 サンドイッチといい、なぜか気に入られてしまったようだ。ごはんは美味しいし、こんな可愛がられ方は嬉しい。同じ可愛いと思われるにしても、腐女子な方とは与えられる心持が全然違うね。

 それにしても、そんなに弱そうに見えるんだろうか……実際に強くないけど、それでも男子だから強く見られたいんだよ……。



 

 シチューはビーフシチューだった! 豪華だね!

 とても美味しかったことをタルトさんに伝え、満腹のお腹を抱えてまた部屋に戻った。


 ええっと、来と大上を強くする方法のことを考えてたんだよね。

 来の声が変わったのがどのタイミングかは分からないけど、パンやサンドイッチでもいいのか、昨日の毛皮と魔石抜きの肉でも良かったのか、丸々一匹食べないとダメなのかとか。

 丸々一匹とするなら、ダンジョンは向かないな……魔石しか残らないけど……もしかして、魔石を食べると強くなるかも? ありえそう。

 残っている補助金とルビーの稼ぎがあるし、明日は魔石類は全部来に食べさせようか。強くなるといいな。


 明日の方針を決めてお風呂に入って寝る。就寝時に来から厄除御守を返してもらうことで、静かに寝られる。

 ……でも、だいぶ慣れてきたし、そろそろ無くても平気そう。

 こんなに早く、上昇した覚能力に慣れるなんて初めてだ。上がり幅が前より少ないわけでも無いのに……火事場の馬鹿力とかって言うし、人間っていうのは必要な時にはそれなりの能力を手に入れられるもんだね。人体の神秘だ。





 さて、やって来ました。朝です。

 遅めの朝食をとり、今日もサンドイッチなお昼ご飯をこっそりもらってダンジョンに出発した。

 道中の森では近くに兎やスライムが居なかったので、そのままダンジョンに直行。

 中に入って、そのまま来と3階に転移。オペラに向けて声をかける。


『オペラー、来たよ。どこに行けばいい?』

”ユウキ? どこからこの声が……もしかして、これが魔物支配のスキルでの意思疎通? どうやって返答すればいいの? 私、ダンジョンの魔物としか意思疎通できないの。どうすればいい?”


 あわあわと慌てて始めたオペラの声が聞こえてきた。

 集中すれば、ダンジョンのスキルなのかこちらの映像の確認を始めたのも分かった。

 ちょうど斜め上くらいの視点から見ているようなので、その方向に向けて手を振ってみる。


”なんで見てるのが分かるの!? 届いてるってこと? 魔物じゃないのに、ダンジョン経由の意思伝達が通じているの? とりあえず試したのは私だけど、本当に人間なの!?”


 ちょっと変わった能力はあるけど、立派な人間だよ! でも、集中したからといって、他人の見ている範囲が見えたのは初めてかも。能力の成長と能力抑制の御守を解除しているのも大きいと思うけど、現在の視界のイメージをはっきり思い浮かべる人って見かけなかったし、ぼんやりと映像が見えることがあってもここまではっきりしたのは初めてだ。

 つまり今してることや、しようとしていることを、はっきり思い浮かべるオペラが素直過ぎるという結論。

 

 ダンジョン経由の意思伝達したのは、(聞こえる? 今から準備するから待ってて。)っていうオペラのイメージかな? 覚能力で聞こえた以上には聞き取れなかったから、やっぱり別系統の能力なんだね。

 そろそろ返事をしないと可哀想なほど狼狽えているので、返事をしてあげよう。


『ダンジョン経由の意思伝達は聞こえなかったけど、普通に言葉を思い浮かべてくれれば聞こえるよ。』

”そうなの? 聞こえてる?”

『聞こえるよ。』

”そう……。もしかして、ずっと聞こえてた?”

『まあ……そうかな。』

”恥ずかしい。もっと早く言って。便利なスキル。……準備するから、この前の場所に行ける?”

『ごめん。覚えてない。』


 この前の場所って、何度も左折や右折を繰り返したから覚えてない。帰りはほとんど回想と索敵と牽制に意識がいってたし、近くにスライムが居れば寄り道してたから……覚えてるわけ、無いよね。


”どうしよう。地図のイメージは伝わるの? 口頭で案内するの? オオカミいる?”


 大上か。いる? って言い方が……そうか。大上が必要か聞いているのか。大上は今オペラの所に居るようだ。

 イメージでも受け取れるけど、ずっと地図を思い浮かべ続けてもらわないと見れなくなるから、大上が案内出来るなら大上がいいかも。

 ……大上の記憶力以下とは思いたくない。次からは困らないように覚えようか。


『大上いる。』

”分かった。オオカミ、転移してユウキを連れてきて欲しいの。お願い。”

 

 すぐに指示を出してくれたようだ。大上が走ってくればきっとすぐに来るね。

 今思ったけど、どうせ大上が迎えに来るなら、声が聞こえるか慌てないで初めから大上に指示を出してくれれば良かったのに。


”もしかして、最初からオオカミに頼めば良かった? 今気が付いたの……。”


 オペラのしょんぼりした声が聞こえた。

 ……今気づいたなら仕方ないよね。

 思ったことが聞こえるって伝えたのに、大上に指示を出した時点でもう聞かれてないつもりになっているのが伝わってくる独り言感に、聞いてしまったことの罪悪感を覚える。

 いつもやってる事なのに、どうして罪悪感なんて……思っていることが聞こえるって、言ったのが初めてだから?


”……もしかして、ユウキ、まだ聞いてた? …………聞いてるの?”


 不安そうに聞いて来る。聞いてなかったことにした方がいいのかもしれないけど、素の心の声を聞かれた人の反応ってどうなんだろう。


『聞いてた。俺も今気づいたから、大丈夫だよ。』


 心を読む能力を持つ先祖は、かつて妖怪と言われた。それは、恐ろしくて不気味なものだったから。

 この世界では、嫌われやすいとしてもスキルという能力としてあり得るものだ。オペラは魔物支配のスキルの副次効果だと思い込んでいる。……受け入れられるのだろうか?


”やっぱり。恥ずかしい。でも、一緒だって。いつまで聞いてるの? 一人だけ聞いてるなんてズルいの。……魔物支配のスキルにしては、便利過ぎるでしょ。ずっと聞こえるの?”

『うん……まあ、そうだね。』

”いいな。……私には声が聞こえないから、早く来て。”


 ____手で口元を隠した。


 ズルい。いいな。聞こえないから、聞こえる所まで来て。って……そんな思いで済ませられるものなんだ? オペラの性格的な問題もあるだろうし、この世界の人間だからということじゃない気がする。

 でも、嬉しい。ずっと、隠してきたから、いいなって言われると嬉しい。

 ダンジョンのスキルでこっち見えてるんだよね? 俺の表情、大丈夫かな。うん、大丈夫。


『大上が来たら、スライム狩りしながら行くね。』

”すぐ来ないの? ズルいの。私は聞こえないのに……ずっと聞いてるんでしょ。いいな。”


 脳裏に唇を尖らせて不機嫌をアピールするオペラの姿がよぎった。

 素直な表情が可愛い。話すのが楽しい。聞こえる声に嬉しくなる。

 ……母と祖父以外で、こうやって人と話すのは初めてだけど、いい。

 ……こんなコが彼女だったら、イイ。 


 これで腐女子だったら、どうするよ。そう考えて、跳ね上がった心臓を押さえる。

 腐女子だったら、無し。おーけー?


 俺は腐女子じゃない彼女を作って、帰れるかどうかを試すんだ。もし帰れたら……彼女になっても置いてくのは残念だな。また戻ってこれるのかな……。


 

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