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さとりくんは、腐女子じゃない彼女が欲しい  作者: siki
中学3年生、春休み
14/43

さとりくんは、人間代表

 さて、人間代表としてこのダンジョンに意見するとしても、まずは現状を聞かないといけないね。

 それと、彼女に本当にさとり能力があるのかどうかも確認したい。

 口からの声と心の声がほとんど一致するなんて微妙過ぎる。俺と同じ能力なら、完全に聞こえなくするはずだ。

 俺自身も、常時思考を垂れ流すような恥ずかしい真似はしていない。もちろん、母さんもじいちゃんもそんな恥ずかしいことはせず、完全ブロックだ。他人の声を聞く以上に、自分の声を操作するくらい造作もない。

 ……もしかして、異世界の覚能力は系統が違うから、オペラにとっては俺のブロックは無意味だったりして?

 ……自分の心で考えていることを聞かれるとか……恥ずかしすぎて、やばいんですけど。


 そういえば小学校に行く頃の、心の声を聞かれないようにブロックを習得した時にも、母さんに今までの事を恥ずかしいって伝えたな……。




_____

「小さい時は、声を我慢できなくても問題ないんだよ。お母さん、すごく優秀なママだったんだから。」

「そうなの?」

「そうよ!優紀が赤ちゃんの時は、心の声すら話せなかったけど、どんなことを考えていてどんな感情なのかは分かったから、上手に面倒を見れたのよ? 必殺技も有ったしね。」


 胸を張って自信有り気に言う母は、そのころを思い出すように少し遠くを見るようだった。


「赤ちゃんの時のことはいいよ!けど、この前までぼくの声をきいてたんでしょ! それを恥ずかしいって言ったんだよ!」

「ならいいでしょ? 後になって思い出せば、まだまだ優紀は小さいんだから、誤差の範囲よ。」

「赤ちゃんとは違うもん!」


 確かに今思い出せば、誤差の範囲みたいなものだ。それなのに、この時は違うと言い張っていた。


「いいのよ。はじめの内は聞かせてくれないと、お母さん優紀が困ってるのに気付けないじゃない。声を隠せるようになるのは、隠してもやっていけるくらいに成長したってことよ。もう少し、ゆっくりでも良かったのにね。」

_____





 そう言って優しく笑った母に、確か「早く大人になるもん」と返したような……いや、「大人になったんだよ!」って自慢気に言ったんだっけ? 

 昔の記憶だから、曖昧だ。

 赤ん坊を上手に面倒を見るための必殺技というのは、ずっと心の声を聞くことだと思っていた。だけど、今考えるとたぶん『声』での命令の事だろう。心の声も話せないような小さい頃なら、『声』での直接指示はよく効いたと思う。

 ……やっぱり、俺って失踪したことになってるよね? 母さん、心配してるだろうな。


 ともかく、とりあえず目の前の女子と仲良くなることを考えよう。

 ……不謹慎な気がするけど、帰るための実験的な処置だから許して!


「オペラって、大上と離れていたのに会話出来てたみたいだったよね? 俺の考えている事とかも、分かったりする? ダンジョンに協力するなら、ダンジョンの仕組みとかオペラのスキルとかも知りたいんだ。」

「分かった。ダンジョンマスターは、ダンジョンの魔物と意思の疎通をしたり、指示を出したり出来るの。他の人間や魔物には、そういうことは出来ないけど、エネルギー源が侵入者の感情だから、どんな気持ちかはなんとなく分かるよ。

 ユウキは、今ちょっと困ってる? ごちそうさま。」


 別系統能力っていう考えは、当りだったようだ。感情を知られるのはちょっと恥ずかしいけど、思っていることを具体的に聞かれているわけでは無さそうだし、俺の覚能力も有効らしいことが分かったから、まあいいか。

 でも、ごちそうさまって! 何かを盗られた気はしないけど、感情を食べるってなんだろう? 心を食べる系のファンタジー生物ってこと? なにそれ、怖い。


「感情がエネルギー源ってどいうこと? 感情を食べられたら俺って、大丈夫? 無事?」

「よく分からないけど、たぶん無事だと思う。感情そのものじゃなくて、発せられたものをダンジョンの壁から吸収しているみたいなの。」


 発せられたものって、声ってこと? 声がエネルギーなんて、変わってる。それに、心の声を食べているにしても、ダンジョン内で遠くにいた大上の声を聞くことも出来たし、俺は心の声を発しないようにしているから……やっぱり、別次元で感情の認識をしてエネルギー源にしてるってことなんだろうな。

 ダンジョンで感情を食べられたから、フローライトはお金の事ばかり考える情緒の無さそうな性格になったのかもと思ったけど、感情そのものを盗られる訳ではなさそうだから、フローライトの性格は元々ってことか。それはそれで、残念な性格だ。


「とりあえず大丈夫そうなのは、分かった。けど、みたいって何? オペラが吸収してるんじゃないんだ?」

「ダンジョンのエネルギーはダンジョンが吸収して、あのコアを一度通って私に流れるようになっているの。私はそのエネルギーを効率よく回していくようにするために生まれたから、コアの分体みたいなかんじかもしれない。」


 コアか。オペラに示された、宙に浮く赤く光る立方体の石を見る。確かに、ダンジョンコアなイメージにぴったりかもしれない。


「それなら、例えばオペラが死んでもコアが無事なら復活できるってこと?」

「マスターは、コアからまた生まれることが出来るけど、それは私じゃないの。人間だって、同じ親から生まれても同じにはならないでしょ? 魔物だからって、バカにしてる?」

”いくら異世界人だって、死んだら生き返らないのは分かるんじゃない? 私、なめられてる?”


 少し口元を尖らせたオペラに、睨まれた。……やばい、ちょっと怒らせちゃったみたい。

 なめてるつもりは無いけど、魔物の生体をファンタジー現象的にとらえ過ぎてしまったかもしれない。エネルギー源は違うけど、それ以外は普通の人間と同じってことだよね! 理解した!


「ごめんね。分体とか言うから、コアの本体が無事なら無事かと思ったんだ。バカにしたつもりは無かったんだけど、気になったなら、ごめん。」


 怒られたら、とりあえず謝る。勘違いした理由を告げつつ、謝る。

 ……母さん対策なんだけど、オペラにも効くかな?


「確かに、分体って言い方も悪かったけど……私、そんな変な生き物じゃないもの。

 コアを通して、ダンジョン内を見たり魔物と交信したりとか基本的なことが出来るってことと、このコアの性質としての、輝石を生む能力と転移の能力を受け継いでいるって伝えたかったの。」

「そうなんだ! じゃあ、能力とかを親から受け継いだりする人間とほとんど同じだね! でも別で生まれているのに、まだコアと繋がった力を使えるっていうのは分体みたいって言った意味が分かったよ!」

「……わかったなら、いい。」


 ミルクチョコレート色の目を細めて、にっこりと可愛く笑ってくれた。

 誤った後の相手の説明に対して、理解と同意を伝える。完全な母さん対策だけど、オペラにも効いてよかった。

 クラスの女子にも、揉めた時にこれで収まったことがあったけど、この対策って結構有効かもしれない。

そして、これが効くってことはオペラも人間みたいなものなんだね。これからは、普通の女子扱いをしようと思う。


「あとは、収支が悪くなったって言うのは、そのエネルギーが回収できなくなったってこと?」

「そうなの。最近、入ってくる人間も少な目だし、入ってくる人間の感情の質が悪いの。

 ダンジョンとしてエネルギー効率のいい感情は、恐怖・絶望・不安・混乱なんかの負の感情がいいから、転移のトラップで常時警戒させてトラップに引っかかると危ないっていう不安をメインで集めていたんだけど、最近は遭難させても、転移で帰れるから不安を感じずに探索していく人間が多くて困るの……。私もコアも転移の性質を持っているから、外部からの転移スキルは防げるけど、内部からは逃げられてしまうの……。」


 あ、その相手、知ってるかも。

 人が減っている原因は分からないけど、帰還という転移系のスキル持ちには心当たりがある。あのお金好きに不安を感じさせることが、今後の課題ってこと?……人間代表としての課題がそれって、納得いかないんだけど……。


「深部の石のグレードも上げて質のいい石を拾うと遭難しやすいっていう不安をより煽っていたのに、その不安のエネルギーもらえず、生産エネルギーが掛かるいい石をたくさん拾われていくから収支が悪くなっているの。このままだと、飢えちゃう。」

「そ、それは大変だね。人が減っているのは、ギルドで聞いてみるけど…そういう人は、一人だけでも困るのかな?」

「一人なら許容出来るけど、最近は多いの。」

「多いんだ!?」

「………。」

”多いって、困ってるって、言ったよ?”


 またもや、オペラは口元を尖らせた。怒っているというポーズらしい。

 一人の心当りが有ったことで、聞き逃してしまっていたようだ。帰還スキルって、そんなに珍しくないスキルなのかな? でも、最近増えたって言うから……フローライトは関係ないってこと?よく分からない。

 転移できるようなアイテムが、売られるようになったりするのかな? ゲームなんかだと、脱出のアイテムがあったりするけど……それにしては、そのアイテムを勧められずに、遭難に気を付けるように言われたような……?



 

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