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さとりくんは、腐女子じゃない彼女が欲しい  作者: siki
中学3年生、春休み
1/43

さとりくんは、腐女子が苦手

心の声や唐突な回想シーンが多く、読みずらい部分も多いと思います。

それでも読んでくださるという方、よろしくお願いします。

 僕は、里山さとやま優紀ゆうき。日に焼けて少し茶色がかった黒髪と黒目の一般的な日本人男子。

 近所にある此処の神社のお参りは欠かさない。必ず御守りを身に着けている。

 この神社にお参りを欠かさないからと言って、神の存在を信じているわけではない。

 でもこの神社の、神もしくは神主の、特別な力については信じている。

 こうして、参拝しているが、これは御守りを手に入れるついでだ。


 ___賽銭を入れ、鈴緒振って、先に付いた鈴を鳴らす。


 神の存在も懐疑的だが、妖怪の存在も懐疑的だ。

 疑ってはいるが、居ないとは言えない。僕の先祖には、さとりという妖怪として迫害を受けたものがいるらしいし、僕自身も、他人の心を読む能力は受け継がれているからだ。

 とはいえ、お化けなんかが見える訳でもなく、怪我の治りが早いわけでもなく、風邪だって引くし、去年はインフルエンザにだって罹った。勉強の成績も平均くらいだし、体育は…平均以下かもしれないけどまぁまぁ普通だろう。

 ちょっと変わった能力があるだけで、他の人間と変わりがないのだから、僕は妖怪ではないと思う。そうすると僕の先祖も、僕と同じようにちょっと変わった能力があるだけで、妖怪がいたとは言えないと思う。

 もちろん、先祖や僕自身も、変わった点を持って妖怪と呼ぶのであれば、妖怪はいると言えるのかもしれない。


 ___拝殿に向かい、二度礼をする。


 この、変わった能力に振り回されないようするために、ここの御守りがよく効く。

 この神社の御守りがあれば、能力が抑制されて普通の人間のように過ごせていると思う。

 僕の変わった能力に効く、ここの御守りを作りに関わった人間か神だって、変わった能力があるに違いない。それなら、僕とこの御守りの関係者の違いだって特に無いハズだ。

 神だって、妖怪だって、人間と大した違いはないんじゃないかと思う。


 ___体の正面で合わせた手をずらして、二度拍手する。


 それでも、母の指示に従い、同じ能力を受け継いできた母と母方の祖父以外にはばれないように、父にもばれないように徹底して誤魔化した。大した違いが無いと思っているけど、ご先祖のように妖怪として扱われるのは御免だからね。

 そういえば、僕の能力の抑制には、御守りの中でも厄除けの御守りが特に効くんだけど……同じにしてもいいよね?ちょっと変わった能力のある普通の人間で、大丈夫!………だよね?


 ___拍手の後の両手を合わせて、合掌し、目を瞑る。

 効果のよくわからない参拝は、近況報告と愚痴を込めた祈りになる。これが僕のお参りスタイルだ。



 本日、中学校の卒業式を迎えました。めでたい!

 この春、高校生になります!

 楽しかった中学校生活、読心能力の成長と、黒歴史な中二時代、思ったより伸びなかった身長、そして心に刻まれた腐女子の存在!

 ちょっと話を聞いてください。


 小学校では上手くやっていけたと思うし、本当に普通に過ごしていた。御守りがあっても、時々触った時に思っていることが聞こえてくることはあったけど、テストなどで読心能力を悪用することも無かったよ。

 もちろん、中学に入っても、能力がばれるようなことも能力の悪用も無かったよ?

 ただ、読心能力が上がったのか、御守りをしっかり持っているにも関わらず、周囲の人の心の声が聞こえることがあった。近ければ近いほど。特に、僕について考えていることほど聞こえた。

 触らなくても聞こえるって、結構な公害だ。慣れるまで、大変だったんだ。

 でも、慣れて聞き分けられるようになれば、内容まで意識が行くようになるわけで、そうするとインパクトのあるものが気になってくるわけです。まぁ、エロですね。

 素知らぬ顔で、エロい事考えている男女は一定数いると断言する!

 クラスメイトがとか、アイドルがとか、エロ本がとか、思春期なのだから気になる異性の事を考えるのも仕方無いと思う。さらにアニメとか漫画とかのキャラクターで妄想するものいい。二次元のキャラクターなら、それが同性同士だったとしても問題ない。

 僕は普通の人間。多少心が読めるからといって、避けたり嫌ったりすることはない。普通の人間のふりして、聞かなかったことにしてあげる。


 そう、問題は腐女子。その中でも、リアル中学生男子を絡ませようとする腐女子!!

 どうして、リアル中学生男子を絡ませようとする!?

 成長した読心能力に慣れた頃に隣の席になった女の子がそうだった。常に観察され、僕が男友達と話していれば、彼女の妄想の中で付き合っていることにされる。しかも大抵は、僕が受け。受けって分かる?男同士で絡ませる時に、入れる方を攻めで入れられる方を受けって言うんだって。何を入れるかだって?ナニだよ!そんな知識はいらないよ!

 僕は確かに身長が低いけど、別にクラスで一番二番に低いというわけではない。低い方だけど、そこまで低くないんだよ!?僕だって男だよ!可愛いとか言われても嬉しくないし!どうして、そんなことさせようとするの!?思考の公害だよ!?僕の幼馴染は大分成長して並ぶと身長差があるけど、そんな風に見えるはずないよね!?



”大丈夫、中里くんが本命だもんね?知ってる。でも、佐倉くんも気になるんだよね?キャー!”

 なんて、嬉し気に僕に向かって話しかけるように思考しないで欲しい。

 ギャーと言いたいのは僕だよ!そうされると、優先的に聞こえるから本当にやめて!中里はただの幼馴染だし、佐倉も部活が同じのただの友達だ!


”やっぱり、中里くんとクラスが分かれて寂しいのよね?あ、中里くん来た。嫁に会いに来たのね!素敵!”

 素敵!じゃないよ!?忘れた教科書を借りに来ただけだから!

 僕が嫁とか…悲しすぎる。僕で妄想するなら、せめて塩原さん本人と絡ませてよ!


”遠くて何話してるか分からないけど、教科書を貸してるみたい。やっぱり中里くんには、お返しは体でするよ。とか優紀ちゃんに言って欲しいな!”

 中里の体!?そんなの俺には不要だよ!?何させるつもりだよ!って、ナニか!やめて!


「どうしたか?熱でもあるのか?」

”顔が赤いけど、もしかして、エロい事でも妄想してるのか?ちびっこのくせに”

「大丈夫だよ!ちょ、触らないで。」

 中里に体温を測るようにおでこに手を当てられる。

 エロい事考えてるのは、塩原さんだから。ちびっこもやめろ!触るな、誤解される!

「大丈夫そうだな。じゃ、あとで返しに来るから!」

 立ち去る中里を見送る。返すのは、塩原さんのいないところにしてほしいなぁ。

 ため息をついた。


”接触キタ!!優紀ちゃん照れてる!カワイイ!こんなところで、触るなよ!家に帰ってから好きにすればいいだろってことだね!わかります!ああ!ため息ついちゃってる!寂しいんだね!わかるぅ!”

 わかってないよね!やめて!本当に、やめて!家に帰っても何にもないから!むしろ部活も違うし、中里とは放課後は滅多に会わないから!

 好意的な解釈本当にやめて!



 思い出すだけで疲れた。

 僕は普通の人間だから思ってる事なんか分からないし、知らないよの振りも結構大変なんだ。精神的ダメージが多いの分かってくれますか?

 ちょっと変わった能力があるからと言って、口に出していない心の声で人を判断するのは良くないと思うけど…聞こえてしまうんだから仕方が無い。僕だって、人間みたいなものなんだから、苦手があってもいいと思う。

 そう、腐女子は苦手です。

 そろそろ年頃なので、彼女だって欲しいと思います。でも、こんな疲れる彼女は嫌だ。腐女子のーさんきゅー。最低でも、僕で変な妄想をしない彼女が欲しいです。なんとかなりませんか?

 よろしくお願いします。


 ___合わせた手を下ろして、一礼する。


 三年間同じクラスで、くじ引きしてもなぜか毎回席も近くなる塩原さんは、今日の卒業式でお別れ。僕を散々に悶絶させてポーカーフェイスを鍛えさせてくれた塩原さんと別れられる進路が嬉しくてたまらない。

高校からは新しい出会いに期待して、今日は縁結びの御守りもいただいた。

 縁結びの御守りは初めてだが、他のよく効く御守りが効力を保証している。これから腐女子じゃない彼女と出会わせてくれるに違いない。…よく効きすぎて、神社から出たらすぐに出会っちゃったりして!なんてね。

 ああそうだ。卒業を期に、一人称は俺に変えようと思ってたんだ。俺、の彼女楽しみ!


 うきうきとした足取りで拝殿を後にし、しめ縄の巻き付つく鳥居をくぐった瞬間、視界が変わった。

 別に転んだりしたわけじゃない。

 町中に珍しい神社敷地内の濃い緑の木々を背に、鳥居の先にある日常的な自動車の走る道路へ向けて歩いていただけだ。何をどうしたのか、日常への脱出に失敗した。



 トンネルのような岩肌に囲まれた、やや薄暗い場所。振り返るも同じ風景だ。

 自動車やコンクリートの道だけでなく、鳥居も神社も無くなっていた。

 見たことのない光景と、聞いたことの無い切羽詰まった声に、膝から力が抜けてへたり込む。



 全身鎧で剣を持つ一人の剣士と、5匹の大きな青い狼。

”殺せ!殺せ!”

 獣の唸り声と、剣の立てる風切り音と金属音。

”突然現れた!?人間か!?”

”増えた!とりあえず、殺せ!”

”見捨てるか?それはダメか。”

 僕に向かって飛びかかろうとした一匹が、鎧の剣士に首を跳ね飛ばされた。

 僕にまでかかる、赤い、返り血。

 顔に付いた赤を反射的に手で拭う。生暖かく、鉄くさい匂い。

 とさり、という軽い音に目を向ければ、切り飛ばされた青い狼の首が少し離れた所に落ちていた。その虚ろな瞳と目が合う。


 こんなの、夢にしてもあまりにリアルすぎる。悪夢過ぎる。


 僕を庇う位置に着いた鎧の剣士越しに、警戒したように少し距離を取った4匹の青い狼が唸るのが見える。

 理解した。これ、異世界トリップじゃないか?

 ……もしくは、異世界トリップの夢であって欲しい。


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