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おっさんたちは、無事に装備を手に入れたようです。


 宝玉が輝いた直後。

 結界が消えて再び落下しかけていたレヴィの体が、ふわりと宙に浮いた。


「あれ?」


 胸元に卵を抱いたまま首をかしげるレヴィの前に、宝玉が浮き上がって近づいてくる。


「何これ?」


 自分の体を包む輝きと同じ光を放つ宝玉が、レヴィの目の前まで来て留まると、不意にその形を崩した。


 光そのものとなってまとわりつく宝玉。

 レヴィが戸惑っていると、不意に額当てが熱を帯びる。


(あつ)ッ!」


 思わず目を閉じて顔を歪めるが、その熱はすぐに少し暖かい程度に変わった。

 おそるおそる目を開けると、体を包んでいた光が装備と入り混じって形を変えていく。


 そしてレヴィが緩やかに着地した時には、すっかり装備の形が変わっていた。


「……何これ?」


 レヴィが呆然としていると、ゴーレムがクトーとリュウによって動きを止めていた。

 クトーがそのゴーレムを前に、不審そうにつぶやく。


「一体、なんでいきなりレヴィを襲った?」

「だから守護者特性だろ? 宝に近づいたから優先順位が切り替わったんじゃねーのか?」


 レヴィが目を向けると、リュウの言葉にクトーが首を横に振る。

 ゴーレムは、顔の魔法陣が一筋引き裂かれ、右足をウォーハンマーによってへし折られていた。


「それはおかしい。守護者特性は、敵性対象が護衛対象の一定範囲内に入ったら発動するものだ。レヴィが宝に近づいてから、ゴーレムの行動までの間にはズレがあった」

「オンボロだからじゃねーのか?」

「どう見ても万全だっただろう。……古代文明の遺産には謎が多いが、少なくとも守護者特性からレヴィを襲ったのではないように見えた」


 納得いかなそうなクトーに、ウォーハンマーを肩にかついだリュウは首をすくめた。

 そして、レヴィの方を親指で示す。


「後で考えろよ。ゴーレムはどうせ回収すんだろ?」

「そうだな。さっさとここから出……」


 クトーは、うなずきながらこちらに目を向けて……ピタリと、動きと言葉を止めた。


※※※


「その、格好は……」


 卵の皮袋を抱えた彼女を見て、クトーは思わずつぶやいた。


「レヴィ」

「何?」


 クトーの声音に何を感じたのか、強張った声を出すレヴィに、クトーは真剣な口調で告げた。


「卵を、床に置け。静かにだ」

「う、うん……あの、これ、置いてあったお宝が……」

「分かっている」


 レヴィが、宝の光によって何らかの影響を受けたのは見えていた。

 卵を床に置き、その場に立つレヴィの姿にーーークトーは、改めて目を奪われる。


 レヴィの全身は、白の装備で統一されていた。

 だが、変わったのは色だけではない。


 トゥス耳型の額当ては変化して、両目の位置に小さな白い宝玉が嵌まり込んでいる。

 

 首には、白いチョーカー。

 青竜の闘衣は、目の覚めるような青から純白のニンジャ服に。


 元の闘衣に合わせて、太ももの半分まで見えているような際どい位置の裾丈。

 履いていた旅人のズボンは消えて、代わりに白いガーターベルトが白い網型のオーバーニーソックスにつながっている。


 さらに両腕には、唐草に似た模様のヘナタトゥーーーそれらが、褐色の肌に眩しく映えていた。


 左足に巻かれた足用のナイフホルダーも変化している。

 ガーターリングのようにベルトと繋がっており、そこに見慣れた魔導具……【カバン玉】が半球状に埋まっていた。


 腰に差していたダガーも刀身が伸びて白樺の木で作ったような装いのニンジャ刀と化している。


「クトー……?」


 不安げに、美しい緑の瞳を揺らしながら、レヴィが上目遣いに見上げてくる。


「な、何か、ヤバいの……?」


 クトーは、その言葉に目を細めると、メガネのブリッジを押し上げた。

 そして、満足感(・・・)とともに大きく息を吐く。




「なんと……可愛らしい……」




「は?」

「んなこったろーと思った」


 ぽかんとするレヴィに、リュウが呆れたように肩をすくめる。


「別にヤバい気配は感じねーな。むしろ装備から感じる力が増してる。何だありゃ?」

「さぁな。多分、使用者の力を高める宝玉か何かだろう。発動条件がよく分からないが」


 しかし、それ自体は些細なことだ。

 危険がないなら、レヴィの装備が強化されるのは喜ばしい。


 それ以上に見た目の変化が素晴らしすぎる。


「レヴィ、しばらく眺めたいので、そこにそのまま立っていてほしい」 

「い、嫌に決まってるでしょ!? 大体なんなのこの格好!!」


 顔を真っ赤にした彼女は、あわてて卵の皮袋を拾い上げると、手で忍者服の裾を引っ張った。

 そんな仕草も可愛らしい。


「こっち見んな!」

「てか、それも帰ってからにしろよ。取りに来た装備をまず回収しろ」

「む」


 非常に名残惜しいが、クトーは苦労してレヴィから目をそらした。

 そして、台座の片割れに残っている装備の元に歩み寄る。


「籠手か」


 黒地に赤い縁取りが施された籠手が一対、並べて置かれていた。

 王家の紋章に似た多頭竜の印章が、小さく金で描かれている。


 後ろからひょいと覗き込んだリュウに、クトーは声をかける。


「どこかお前の装備に似てるな」

「そーだな。神器っぽいか?」

「どうだろうな。強い気配は感じるが」


 高ランクの装備は、そこにあるだけで存在感を放つ。

 だが、その籠手から感じる気配に邪悪な感じはせず、似た気配を持つ存在をクトーは知っていた。


「聖属性の装備だな。ティアムから感じたものと同質の気配だ」

「あん?」


 リュウが、妙な顔をした。

 腕を組んだまま体を起こし、問いかけてくる。


「お前、聖なる気配とか感じられたっけ?」

「言っていなかったか? ティアムと契約を結び、高位聖魔法を操れるようになってから、分かるようになった」

「……聞いてねーけど」


 今までクトーが出来なかっただけで、リュウやミズチなど、高位存在との契約が出来るものには普通の能力だ。


「まぁ、言われてみればそうかもな」

「高位魔法って、契約するだけで使えるようになるものなの?」

「なったな」


 レヴィの疑問に答えながら、クトーは慎重に籠手を取り上げた。

 警戒したのは、宝を得たことによる迷宮崩壊の罠などだが、幸いなことに仕掛けられていないようだ。


「普通は使い方を学ぶもんだけどな。まぁクトーだし、どーせ使えなくても使い方だけ学んでたとかそんなとこだろ?」

「よく分かったな」


 流石に腐れ縁なだけはある。

 

「そうでなければ、いくら血の贖いをしたところで、ブネ相手に最上級聖魔法など使えるわけがないだろう」

「わけがないだろう、って言われたって知らないわよ」


 ふん、と鼻を鳴らすレヴィを放っておいて、クトーは籠手を付けてみた。


 随分としっくりくる。

 効果は、ここを出てから調べてみることにしよう。


「今日は大量の収穫があったな。撤退だ」


 クトーたちは、ゴーレムを回収して迷宮を出るために元来た道を戻って迷宮を出た。

 

※※※


 後日。


「結果が出たぞ」


 クトーは、パーティーハウスの大部屋でレヴィに一枚の書類を差し出した。


「何の話?」


 レヴィはちょうど昼食をとっており、ミートソースを頬に付けてパスタを頬張っていた。

 今日の服装は、元の自前の装備だ。


 トゥスが、すぐそばにふよふよと浮かんでいる。


「装備の謎に関する結果だ」

「むぐぅ!」


 その言葉に、レヴィはパスタを喉につまらせてむせ返った。

 クトーが、特に表情も変えずに書類を持った手で水の入ったコップを彼女に差し出すと、あわてて口をつけて飲み干す。


「ぷはぁ!」

「何をしている」

「な、なんでもないわよ!」


 迷宮を出た後。

 レヴィがそそくさとトゥス耳兜を外すと、彼女の装備が消えて肌着姿になってしまった。


 悲鳴をあげる彼女にコートを着せかけた直後に悲鳴を聞いた憲兵に見つかるというトラブルはあったが、まぁそれは別の話だ。


 装備が消えた謎を探るために、メリュジーヌやニブルに相談した結果、クトーは一つの結論を得ていた。


「装備が消えた理由だが」

「……」


 単刀直入に切り出すと、レヴィの耳が真っ赤に染まる。

 

「どうした?」

『ヒヒヒ』

「な、何笑ってんのよ!!!」


 クトーの質問には答えず、笑い声を上げたトゥスにレヴィが噛み付く。

 

『わっちもその場に居たかったねぇ。随分おもしれー事になってたみてぇだしね』

「よく分からんが……」


 特に何か面白いことはなかったように思う。

 クトーはそのやりとりをスルーして、話を戻した。


「例の宝玉は、全ての装備を取り込んで一体化したようだな」

「一体化?」

「そうだ」


 クトーはカバン玉からトゥス耳兜を取り出して、目の代わりになっている2個の宝玉を示す。


「要は、お前はこれを身につけた時だけ、あの装備姿になる、ということだ」


 取り込まれずに、毒牙のダガーだけは元に戻ったが。

 おそらく再度トゥス耳兜を被ればニンジャ刀に変化するのだろう。

 

「……で?」


 食欲がなくなったような様子で、レヴィがフォークを置いた。

 彼女がナプキンで口元を拭くのを見ながら、クトーははっきりと告げる。


「お前の最強装備は、現状この兜を身につけることだ、ということだな」

「嫌よっっっ!!!」


 今までにない全力の拒否だった。


「あ、あんな恥ずかしい格好で人前に出ろっての!? しかもその兜付けて!?」

『ヒヒヒ。可愛いならいいじゃねぇか』

「あなたは黙ってなさいよ!!」


 しかしクトーは、そのレヴィの言葉に首を横にふる。


「ダメだ。今後、依頼などで外に出る時は必ずこれを身につけろ。これはリュウからの命令だ」

「ふざけないでよ!!」

「全くふざけていないが」


 コトリとテーブルの上に兜を置き、クトーはレヴィに書類の中身をつきつける。


「この装備は、Sランクに相当する。青竜の闘衣の効果に加えて、常時身体能力まで強化することがわかった」


 単体を包む、常時展開の物理軽減結界だ。


「その上に、カバン玉の効能を持つオーバーニーソックス。加えて武器の強化効果もあり、さらに未知数の効果がある可能性も否定できない」


 レヴィの得た宝玉には及ばないが、クトー自身の手に入れた籠手もかなりの品だった。


 特に効果を付与していない、全ての属性攻撃を軽減。

 加護の腕輪より強力な定量魔力消費結界の展開。

 さらに斬撃耐性に加えて、解毒作用のある魔法の行使まで可能な代物だった。


 【双竜の魔銃】と共に【九頭龍の籠手】としてSランクに認定されたのだ。


 そして、レヴィの兜も。


「ランクで見ると非常に過ぎた品だが、その上におそらく、あの兜はもうお前にしか装備できない」


 その言葉に、レヴィが固まる。

 何に心が動いたのか、視線をさ迷わせてからおそるおそる、という感じで言葉を口にした。


「……私だけ?」

「ああ」

「リュウさんの、装備みたいな……?」

「そう。専用装備、というやつだな」


 効果を調べることは出来たが、ほかの人間が兜を被っても特に変化がなかった。

 レヴィが、クトーの発言に苦悩した表情を見せる。

 

「でも、トゥス耳兜……その上あの格好……」


 出会った頃はキュロット姿だったので大して変わらないように思えるが、それは口にしない。

 代わりに、もっと重要な事実を告げる。


「専用装備なので、換金は不可能だ。その上で、取り込まれたカバン玉と青竜の闘衣は俺が貸与したもの。……この意味が分かるな?」

「ぐぅ……」


 レヴィが、汗をたらりと一筋流す。

 頬を引きつらせながら、彼女は答えを口にした。


「借金が、増える?」

「そうだな。が、不可抗力であった状況と、俺とリュウのミスもあった。その上で提案する」


 クトーは、外に出ていたので手にしていた旅杖を、かつん、と鳴らした。


「現在は、【ドラゴンズ・レイド】が狙われる危険度の高い状況だ。今後、あの装備を身につけるという条件で、借金ではなくお前に装備を譲渡する」

「う〜……!!」


 レヴィにしてみれば、カバン玉すら手が出ないほどに高い魔導具だ。

 この上青竜の闘衣までとなれば、今までとは比べものにならないくらいに借金が膨れ上がる。


「分かったわよぅ……」


 どこかいじけたような口調で、レヴィは承諾した。

 クトーがうなずくと、トゥスが茶化してくる。


『兄ちゃん、喜んでるねぇ?』

「何の話だ?」


 あっさりと流すが、クトーはトゥスの指摘通りに内心は踊っていた。


 ーーー可愛らしい上に強い装備。

 

 これ以上、レヴィに相応しい装備などないと思ったからだ。

 

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