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おっさんは、権力者たちと会議に踊ります(後編)


「見つけ出し、万端の準備で対峙できるのなら、二つ取れる方法がある」


 クトーは、ホアンたちにそう告げた。


「どんな?」

「封印、もしくは魂の抹殺だ。……魔王自身の言葉を信じるのなら、殺すこと自体は以前に比べれば簡単だろう」


 クトーの言葉に、反応したのはニブルとファフニールだった。


「随分と自信があるようだ」

「一回殺した経験で驕ってんじゃねーか?」


 二人は、言葉の調子こそキツいが、本気でそれを疑っている様子ではなかった。


 ーーー魔王を殺せる。


 その事実こそが、リュウやクトーがこの場に同席を許されている理由なのだから。


「挑発せずとも、情報は提供する」


 別に、こちらには知られて困ることなどないのだ。

 そもそも、現状リュウを擁する【ドラゴンズ・レイド】に勝る対魔王戦力は、存在しない。


「先ほども言った通り、ティアムと魔王の言葉を信じるならば、魔王は確実に弱体化している」


 再誕前の出現は珍しい、とティアムは言った。

 現実では、大したことができないと、魔王も言った。


 それらの言葉は、サマルエが『今、魔王ではない』ということの証左だろう。


「さらに、この王都と関係のないところで……正確には、俺やリュウのいない場所で魔王による甚大な被害が出る可能性は考えにくい」


 クトーは、権力者たちに向けて一本指を立てた。


「魔王は言った。俺に嫌がらせをすることが、今1番の楽しみだと」


 リュウがーーー魔王と対になる存在である勇者が、いつもよりも真剣な顔で問いかけてくる。


「なんで、お前が魔王に目ぇつけられた? それは聞いてねぇ」

「さぁな」


 そこまでは、本当に知らない。


「だが、ティアムが言うには、魔王に心境の変化があったようだ。そして、祭りそのものは中止にすべきではない」

「それは何故だい?」


 ホアンが円卓に手を置いて、まっすぐにこちらを見据えるのに、クトーは事実を口にする。


「俺の仕事が減るからだ」


 そのクトーの返答に、なぜか微妙な空気が場を支配した。


「どうした?」

「……意味が、よく分からないんだが」


 ホアンが首をかしげるのに、クトーは、ファフニールにちらりと目を向けてから、容赦なく告げた。

 現在、王都に潜伏する脅威が、自分にも責任があることだと理解してもらおう。


「魔王は祭りの情報を得て、これ幸いに、とどこかの豪商をそそのかしたらしい。多分、お前自身は利用された意識すらないだろうが」

「なんだと!?」


 ガタ、と椅子を鳴らして、ファフニールが背もたれから体を起こす。


「魔族は、人の体を乗っ取ることができる。お前に情報をもたらした『誰か』が自分だと、奴は言った」


 クトーが明かした情報に、ニブルが鼻を鳴らした。


「これだから俗物は困るのです。利益があると思えば浅ましく食いつく意地汚さを、これを機に少しは改めるといいですよ」

「ぬぐ……ッ!」


 祭りにも魔王の影があることを知って、ホアンが真剣に問いかけてきた。


「祭りを開催して、危険はないのか」

「混乱させるために、祭りを引っ掻き回す可能性は当然ある」


 むしろ確定事項だろう。

 クトーは、特に偽らなかった。


「だが、それは祭りを開催しなければ、俺への嫌がらせに相手が別の手段を取るだけの話だ。危険性は上がるだろうが、会談そのものを中止にすることは出来ないだろう?」

「今の段階では無理だ」


 小国連合の会談は、国家間での重要な物事を決めるために行われる。

 もちろん、各国の首脳部を集める以上、リスクそのものは最小限に抑えなければならない。


「代理人を立てて国主を保護するかの?」


 今まで、黙って話の流れに耳を傾けていた、宰相のタイハクが口を開いた。

 続いて近衛隊長のセキも言う。


「あるいは、開催国を変更をすればどうだ?」

「それらの措置は考慮するべきですが、魔王側の動きが読めなくなりますよ。どちらを取るかです」


 話をするだけでいいのなら、究極的には風の宝珠による会議などでも済むのだ。


 わざわざ集まる意味、北の国の問題と、人の心の問題だ。

 人の心は理屈だけでは動かない、と、散々仲間たちから教えられた。


 つい先日、魔王の件で自分自身でも少し経験した。


 顔を見て、雑談交じりに話をするという一見不合理な状況も、必要なものなのだ。

 合理性だけを優先してリスクの分散を図った場合、各国の関係が悪化する可能性もある。


 それ自体が、魔王の狙いである可能性も捨てきれない。


「それでも奴は、祭りの開催までは手を出してはこないと読んでいる」

「根拠は?」

「人に害をなすより、今は俺への嫌がらせが主体だからだ」


 ホアンの質問に答えると、横でリュウが、コツン、と拳で軽く円卓を叩いた。


「そいつは、俺も同意だ。俺の方にも、ティアムがご丁寧に神託をくれたんでな」


 彼は口の端を歪めて、嫌そうな顔で続ける。


 リュウとは、一応事前に打ち合わせを終えていた。

 その際に、ティアムが彼に情報を与えたらしい。


「魔王が力を失ってることと、クトーに嫌がらせをして苦労する姿が見れれば、今はなんでもいいらしい事をな」

「今、下手に会談を取りやめて、魔王に別の策謀を巡らされたり、気を変えて行方をくらまされては困る。……こちらの提案は」


 クトーの言葉に、全員の視線がこちらへと集中した。


「最初の予定通り、俺に仕事を集中する形で祭りの準備を進める事。その間に、魔王をおびき出す算段を考える」


 今この場で、情報すらほぼない状態では算段を考えるだけ無駄だ。

 大枠の方向性を示し合せる、その為の会議なのだ。


「今後、祭りや俺に関連して何かのトラブルが発生したら、逐一魔王がらみかどうかを精査する。行動理由を追い、開催の危険度がこちらの想定を越えれば、中止だ」


 会談を行わないことで国家の連帯が乱れる事よりも、さらに問題があると分かった場合。

 もうその時点で、話は悠長に構えていられる段階ではなくなっているだろう。


「異論は?」


 本来は、会談まで何ごともなく全てが終わるのが一番良い。

 会談後なら北の王国の出方なども大方分かり、やりやすくなるからだ。


 あるいは、会談前に魔王を殺す。

 だが、そこまでは望めない。

 

「特にないね。もっと細かい話は、早急に人員を確保してからだろうし」


 ホアンが最初に、クトーへの同意を示した。


「アタシも陛下と同じね」


 ジョカも当然ながらそれに賛同し、リュウがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらファフニールを見る。


「俺もいい。で、どこかのハメられた奴の責任は?」

「ギルド側も、賛同します。そして、どこかの俗物の責任は、私も問いたいですね」


 ファフニールを責める機会を逃さないニブルが、リュウと無駄に息を合わせる。

 クトーとホアンは、同時に息を吐いた。


「祭りの準備に、ファフニールの存在は重要だ」

「外す考えはないですが、たしかに少しは責任を感じてもらいたいところです」


 ファフニールは、舌を鳴らして足を組んだ。


「魔王を取り逃がした最初の落ち度はクトーどもにあると思うんですがねぇ。王国側も、祭りを大きくすることに関しては同意したはずですが?」

「話を逸らすな」

「あなたが責任を感じるかどうかと、その部分は今は関係がない」


 しばらく黙ったファフニールは、嫌そうに頷いた。


「俺の責任を追求するなら、クトーの報酬は減らすぞ」

「構わないが」


 即座に、クトーは応じた。


「俺個人と、【ドラゴンズ・レイド】としての協力は別だ。単に協力してもらうだけのつもりだったが、ホアンと後で正式にパーティー側としては契約を結ぶ。魔王を取り逃がした分を考慮に入れてな」

「いいだろう。では、ファフニール殿」


 ホアンが、ファフニールに実質的に罰となる交渉を持ちかけた。


「パーティーとの契約は、ギルドを通します。そちらに、今あなたが得る利益の1割を分割し、ギルドの手間賃と彼らを雇う報酬に。同時に王国側にも、利益を1割渡すように取り分の比重を変更して契約をむすび直します」

「額がデカすぎませんかねぇ! 2割ィ!?」


 ファフニールが拒否を示すが、クトーはホアンと目を見交わして追撃した。


「当然だろう? 先ほど魔王を取り逃がしたと煽った時に、ハメられる奴が悪いと言ったのはお前自身だ」


 揚げ足取りに近いが、この場合に不利なのはファフニール側である。


「クッソ……!」

「それを呑まないなら、完全にこの件から外れるか? 俺としてはそれも困るが、嫌なら仕方がない」


 ファフニールは、片手で髪をぐしゃぐしゃとかき回して吼えた。


「分かったよ! クソ、まさかこんな事に……」

「口は災いの元だ」


 ファフニールがリュウを煽らなければ、こんな事にはならなかった。

 ホアンが全員を見回し、最後に問う。


「この件に関しては全員で情報を集め、全員で共有する。隠し事はなしにしてもらいたい。他に質問は?」


 全員がそれに沈黙で応え、会談は終わった。


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