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第2章おまけ:レヴィの合否(お知らせ追記7/8)


「試験は不合格です」


 王城での話し合いから明けて翌日。

 ミズチは、ギルドの応接室にレヴィを呼び出して、合否を伝えて来た。


 樫のテーブルの上に乗せられた依頼書には大きく『否』のハンコが打たれていた。


「理由としては、単純に依頼内容をあなた自身が達成していないからですね」


 レヴィはそう言われて、特に気にした様子もなく肩をすくめた。

 表情を見ても強がっている風ではなく、口をへの字に曲げてはいるものの緑の瞳は穏やかだった。


「仕方ないですね。そんな気はしてました」


 言葉にも嫌味や皮肉はなく、軽口のような色を帯びている。

 クトーは付き添いとして2人がけのソファでレヴィの横に腰掛けたまま、テーブルの向こうで膝を揃えるミズチに問いかける。


「不合格の理由は、条件を達成していないからか?」

「そうです。レヴィさんへの依頼は『ローラがあの場所に向かった理由』を探る事と『なぜ彼女が死んだのか』を探り出す事でした」


 実際、ローラが『ドラクロの生み出した迷いの結界に巻き込まれて壁門を抜けた事』を推測したのはクトーであり、仮死状態になっていた事実を探り出したのはトゥスだ。


 ギルドには正直に報告している。

 レヴィ自身の調査が有用な役割を果たしたのは事実だが、それだけでは昇格条件として認められなかったのだろう。


 だが、クトーはあえて疑問を呈した。


「状況を加味して、結果を覆す事は出来なかったのか?」

「クトー?」


 レヴィは、少し驚いたように目を丸くした。

 今回の件で彼女の合否には拘ってはいなかったが、結界内での戦闘でクトーは命を救われたのだ。


 レヴィの反抗によって、ブネやドラクロに対して起死回生の一手が打てた。


「状況が悪すぎた上に、結果的には魔王が絡んでいる事も判明した。そして問題の規模が大きくなった以上、試験内容を変えての再試を要求する」


 実際、手に負えないと判断した時には依頼内容の変更を考える、とミズチは口にしていたし、事態の進展が早すぎて変更が追いつかなかったのはレヴィのせいではない。


 しかしミズチは、首を横に振った。

 柔和な美貌は平然としており、眉1つ動かさない。


「それは認められませんでした」

「なぜだ?」

「まず、この試験の目的がレヴィさんのDランク昇格である点が理由ですね」


 ミズチの口調はよどみなく、膝に手を重ねたまま事実のみを告げる。


「Dランク昇格に関して重要視されるのは、技能的な面において非常に優れた部分がある事の他に、幅広い依頼をある程度以上こなすだけの技量、あるいは経験がある事です」

「知っている」

「そして他にも、試験官が何かの理由で適性があると判断した場合や、例外的に功績を挙げた場合に、試験なしで昇格させる事もあります」

「それが、どうした」


 試験の目的について述べた彼女の言葉は明快で、分かりやすかった。

 役人としては好ましい態度だが、相手にすると非常に厄介だ。


 レヴィは幅広く依頼をこなすには経験不足ではあるが、同時に優れた部分も経験が豊富な部分もある。


 試験官の胸1つで昇格可能という例外に関しても、ミズチは適用しなかった。

 するだけの理由がなかった、という事なのだろうが……。


「戦闘結果も報告しているだろう。レヴィは魔族の呪縛を打ち破った。そんな芸当が出来る冒険者はEランクに収まり切るものではない」

「理解しています」


 ミズチはうなずいて、不意に口もとを緩めた。

 そして脇に置いた書類の束から、一枚の上質な紙で出来たものを抜き出して不合格を通達する書類の横に並べる。


「なので、レヴィさんには例外が適用されたのです」

「へ?」


 やり取りを見守っていたレヴィが、間の抜けた声を上げた。

 クトーも眉をひそめると、いたずらっぽい表情を浮かべたミズチは、新たな書類を示す。


 そこには『勅状』の文字があった。

 内容の結びである末尾部分には、ホアンの署名と玉印、その下にニブルの署名と受諾印が押されている。


 ミズチは、そっと勅状に手を添えた。


「報告にあった戦闘において、クトーさんの命を救った点。これは非常に重大な功績だと判断されました。クトーさんの価値を知る者が、その損失を免れる働きをした人物に対して『褒賞に値する』と仰ったのです」


 書類とミズチの顔を見比べてから、クトーは鼻から息を吐いた。

 ソファの背もたれに身を預けて足を組む。


「……ホアンか」

「はい」

「え? え?」


 まだ状況を理解出来ていないのか、書類に目を落としたレヴィは、勅状、と口の中で言葉を転がす。


「レヴィさんの技量は、戦闘面に関してはすでに条件をクリアしています。また人脈の豊富さと、クトーさんの口にした魔族の束縛すら破る魂の強さについては、おっしゃる通りにEランクに収まるものではありません」


 ミズチは不合格書と勅状の両方に指を添えて、スッとレヴィの前にそれらを移動させた。


「結果として、レヴィさんには『昇格に値する』という判断が下されました。……試験は不合格でしたが、Dランク昇格です」

「……!?」


 ミズチは目を白黒させているレヴィからクトーに視線をずらして、濃紺の瞳でこちらを見つめてくる。


「また昇格試験に関しては、依頼失敗にカウントされないので【ドラゴンズ・レイド】の実績に傷はつきません。……いかがでしょう?」


 悪趣味な話の持っていき方だ。

 クトーは、メガネのブリッジを押し上げた。


「結論は先に言え。時間のムダだ」

「今のところ、暇でしょう? それに、先に言ってしまっては面白くないですから」

「遊びではないだろう」

「仕事ですが、昼休み中です。肩の力を抜くためにユーモアは必要ですよ」


 余裕を常に持つ、という事を教えはしたが、どうもミズチは自分に都合の良いようにそうした言葉を解釈する悪癖がある。


 だからこそ人望があり、優秀であるとも言えるのだが。


「えっと、つまり……結局は合格、って事?」

「簡単に言えば、その通りですね」


 ふふ、とミズチは笑いながら、恐る恐る尋ねるレヴィにウィンクした。


「昇格、おめでとうございます」

 

第3章はコメディ回です。


7月17日(火)朝7時より再開します。

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