クトレヴィの日常
パーティーハウスで、レヴィは事務処理に頭を悩ませていた。
「うぅ〜……これが、こっちの経費で、これが……っていうか、ああもう! 何で私たちがこんなの手伝ってるのよ!?」
「仕事だからだ」
結局あの後。
いきなり旅に出る、などということは出来ず、祭り後の事務仕事に追われていた。
同じように、机に向かいながら本当に読んでいるのかというような速度で書類の山を片付けていくクトーの答えに、レヴィは眉根を寄せる。
こちらが捌いているのは、クシナダの店を出した際の事務処理で、クトーが捌いているのは国や豪商ファフニール側のものらしい。
しかし量が桁違いすぎて文句を言う気もなくしたレヴィは、もう一度手元に目を落としたが、元々の苦手意識があるのであまり進まない。
チラリとクトーの横顔に目を向けると、いつもの無表情だった。
苛立った様子なども一切見せない。
ーーーやっぱ何か凄いのよね……。
冒険者服を身に纏っていた時は、細身でイマイチ頼りなさそうに見えるのだが、白い礼服姿でこうして書類仕事をしている姿は、あつらえたように様になっていた。
細いチェーンのついた銀縁眼鏡をかけた横顔。
銀髪はいつも丁寧に整えられており、シミひとつない白い肌。
ーーーこうして黙ってると結構カッコいいのよね、実際。
決して派手でも目を引く訳でもないが、整った顔立ちをしている。
そう思った時、ふと、書類から目を上げたクトーの青い瞳がこちらを向いた。
「……!」
「どうした?」
声をかけられて、レヴィは慌てて首を横に振る。
「なな、なんでもない!」
少し慌てて声音が上ずらせながら手元の書類に目を落とすと、クトーはそれ以上声をかけてこなかった。
首をかしげたのか、シャラリ、とチェーンの鳴る音がした後、再び書類をめくる音が聞こえ始める。
その横顔に見とれていた、というのは悟られなかったようだ。
レヴィは少し安心した。
※※※
「ふむ」
クトーは目を伏せて書類と格闘し始めたレヴィを見て、アゴを指で挟んだ。
こちらを見ていたので、何か質問があるのか、と声をかけてみたが違ったようだ。
レヴィの背中は丸まっていた。
与えられた机に突っ伏すような姿勢は目が悪くなりそうなので、そのうち矯正しなければいけないだろう。
文字に目を走らせる彼女は、なぜか少しだけ耳が赤いようだった。
ーーー疲れているのか?
もう少し、自分の分がキリのいいところまで行ったら休憩を取るか、と思いつつ、少しの間レヴィを観察する。
ポニーテールに結わえた黒髪に褐色の肌、ツリ目気味の緑の瞳に小柄な体躯。
幼さを残した美貌は、笑うと小さく八重歯が覗く。
書類仕事に邪魔だからか、前髪をクトーが贈った髪留めで横に流していた。
彼女は本当に変わった。
強くなり、苦手苦手と相変わらず嫌そうな顔をするものの、事務仕事にも気を入れて取り組むようになった。
その心根も素晴らしい、が。
ーーーレヴィの愛らしさは、見ていて飽きん。
クトーは小動物のような彼女の姿に和みながら、また書類に目を戻した。
2021/3/25より 最強パーティーの雑用係〜おっさんは、異世界で休暇の日々を過ごすようです。〜始めてます。
本編直後から始まる、番外編ですね(๑╹ω╹๑ )クトーさんは異世界でも無双しますので、よろしくお願いいたしますー




