おっさんは、仲間たちから労われたようです。
ーーー王都・外門前。
「……勝ったな」
【ドラゴンズ・レイド】の面々を連れて脱出した後。
着陸した飛竜の背から転がり落ちて座り込んでいたヴルムは、空の大穴を見上げながら呟いた。
穴が、音もなく徐々に閉じていく。
「何で分かるんスか?」
「そこから説明しなきゃいけねーのかよ、ダリィな……そんなもん、魔王が生き残ったんだったら帝城が落っこちて来るからに決まってんだろが」
言っている間に、大穴から地上に湧き出ていた魔物たちが宙に溶けて消滅していく。
無限に湧き出てくる辺り、実体を持たない存在だということは薄々察していたが、予測通りだったようで何よりだ。
結界の中で待機していた者も、外で魔物たちとやりあっていた冒険者や王都の兵士たちも。
空を舞っていた鳥人たちも、元気に暴れ回っていた巨人族も。
皆、一様に空を見上げて大穴が閉じる様子を眺めていた。
治療を施してくれていた治癒士を手で軽く押し除けたヴルムは、よっこらせ、と立ち上がる。
「行くぞ。テメェもいつまでも寝てんじゃねぇよ、ギドラ」
「あー……クソ、起きたくねぇ……」
「ホッホ、軟弱よのぉ」
「鍛え方が足らんのである」
この場でただ二人、一切の疲労すらしていなさそうなケインとムーガーンが口々に言うのに、ヴルムは思わず心の中で悪態をつく。
ーーーあんたらがダリィくらい異常なんだよ。
立ち上がったヴルムは、のそのそと結界の外に向けて歩き出す。
他のレイドの面々と、ディナやケイン、ムーガーンもそれに続いてきた。
魔物の消えた最前線。
ニブルやユグドリア、フヴェルのいる辺りまでヴルムが歩を進めたところで。
大穴に続く門があった辺りに、ゆらりと青い光が揺らめくと……四つの人影が、そこに現れた。
ミズチの肩を借りたリュウと、レヴィを抱き上げたクトー。
ーーーだよな。
現れた彼らを見て、ヴルムはほくそ笑む。
多くの戦士達が固唾を飲んで見守る中、クトーと目を見交わしたリュウが、ミズチと共に前に歩み出ると、やれやれ、とでも言いたげな表情をしてから。
大きく拳を突き上げ、勝気な笑みを浮かべて声を張り上げる。
「俺たちの、勝ちだ! ーーー騒げお前らぁあああッ!!」
最初に反応したのは、当然レイドの面々。
Weeeeei! Fooーーー!! と声を張り上げ、手を叩いて肩を叩き合うと、リュウたちに向かって一斉に走り出す。
歓喜の波が徐々に広がっていき、高揚に呑まれた者たちによって王都内まで届く大歓声になった。
ヴルムも駆け寄りながら、チラリとクトーに目を向ける。
リュウに面倒くさいことを押し付け、こういう時ばかり存在感を消す銀縁眼鏡の男は。
ファーのついたインバネスコートの肩布をなびかせながら、静かに、リュウを囲う輪の少し外側に佇んでいた。
※※※
「……ねぇ、良いの?」
リュウが『どうする?』と目で問いかけてきた時に、クトーが微かに首を横に振ったのを見ていたのだろう。
レヴィが、なんとなく納得の行かなそうな様子で問いかけてくる。
「何がだ?」
「サマルエ倒したの、貴方じゃない。レイドの皆も絶対気付いてるのに」
「興味はない。重要なのは倒したという事実だけだ」
むしろ、この件に関する戦後処理がどう考えても膨大になるため、早々に切り上げてそちらに着手したい。
それに、腕に抱いたレヴィの体調も心配である。
と、そこまで考えてから、クトーは思い至ったことを問いかけた。
「……お前は、そうか。あの輪の中心に居たいのか?」
レヴィは元々、実力と名声を求めて冒険者になったのだ。
であれば、きちんと自分の働きに対する対価として、祝福を受けたいのかもしれない。
だが、そう問いかけたクトーに向かって、レヴィは頬を膨らませた。
「誰もそんなこと言ってないでしょ!? 私は別に対したことしてないし……」
「俺も同じだが」
最後はリュウとミズチの手を借りて、魔王にトドメを刺した。
体を使ったのがクトーだっただけである。
「ああもう……あなたがそれでいいなら、もういいわよ……そーゆー奴だった分かってるし……」
「む?」
よく分からなかったが、とりあえず放っておく。
「なるべく早く休息を取ろう。全員、疲れているだろうからな」
「そうね」
レヴィがうなずいたところで、輪の中からヴルムが声を掛けてくる。
「クトーさん、来ないんすか? この状況でそこに突っ立ってるのは流石に、付き合い悪くてダル過ぎっすよ」
いつも以上に眠たげな半眼をしている彼の呼びかけに、他の仲間たちも口にしないながらも同じように思っている様子で、目線を投げてくる。
「……そうかもしれんな」
仕方がない、とクトーは、少し考えてからうなずいた。
「では、行くか」
「うん」
レヴィの答えを受けて、クトーはゆっくり進み出ると、ヴルムに背負われて王都に移動するために進み始めた輪に加わる。
すると、リュウたちを周りで囃し立てていた仲間たちが次々に、さりげなくクトーの背後に回っては背中を叩き、レヴィとハイタッチを重ねていく。
「こうやってさ」
レヴィはにこやかに仲間たちに応じながら、キラキラと輝く緑の瞳をこちらに向けて来た。
可愛らしく、眩しい笑顔と共に。
「皆でお祝いし合うの、楽しくない?」
そう問われて。
クトーは、かすかに笑みを浮かべた。
「……そうだな。悪くない気分だ」
※※※
後に『魔王の再臨』と呼ばれ、大陸全ての国を巻き込んで世界を揺るがせた大事件は、こうして収束した。
魔王を再度倒した、勇者率いる【ドラゴンズ・レイド】の名声はますます高まったが。
相変わらず、そのパーティーリストの末席に名を連ねる『雑用係』の存在は、表には現れなかった。
それから半年。
戦後処理も大方を終えて、商会連合のトップに立ったファフニール主導の(掛け過ぎた予算回収のための)首脳会議に便乗した馬鹿騒ぎ、改め『魔王戦祝勝祭』と称された祭りが開催される。
その初日に、下手をすれば魔王復活以上の衝撃が【ドラゴンズ・レイド】のメンバーの間を駆け抜けた。
「お前たちに、今日から一週間、休暇を取らせる。ーーー総員、一切仕事をするな」
パーティーハウスの広間で、仕事の鬼がそう告げた瞬間。
『クトーの頭がおかしくなった』と、リュウ以下全員が、満場一致でそう思った。




