少女の意地。
レヴィは、全く疑っていなかった。
ただ真っ直ぐにサマルエを見つめ、突っ込んでいく。
クトーが援護してくれる。
ーーー私が、リュウさんと同じというなら。
絶対の信頼を置いて背中を預ける相手を、疑うことはしない。
ただひたすら、真っ直ぐに。
予想通り、周りで殺意を放つ竜頭がどんどん消えていく。
さらに間近に迫ったモノも、いきなり現れたクトーの気配が消滅させた。
交差の一瞬、彼と目が合う。
ここまでだ、と。
彼の目が語った瞬間、レヴィはスキルを発動した。
「ーーー《極竜活性》ッ!!」
視界を流れる景色が緩やかになった直後に双刀を振るって、残った竜頭を体を捻って一息で斬り飛ばし、回転の勢いをそのまま、足運びで前進の力に変えて。
魔王に、肉薄する。
「ーーー動》」
しかしサマルエも、辿り着く直前に動き出す。
ーーー望むところよ!
真正面からかち合っても、この戦闘を制してみせる。
決意と共に、レヴィはさらに一歩踏み込み。
「アァアアアアアアアッ!!」
気迫と共に、自分に可能な限り、全霊の連撃を放った。
スキルは使えない。
技量と技量をぶつけ合う、真っ向勝負。
双刀に対して、サマルエの双剣で受けられる。
反撃の竜の尾に、自分の尾を叩きつけて絡める。
翼の先端で目を狙うと、頭をずらして額で受けられる。
防いだ刃の上に自分の刀身を滑らせながら、相手がこちらの首を鋏のように狙うのを、頭を下げて避ける。
腹を突き上げるように頭突きを放つと、相手はわずかに重心を後ろに下げて衝撃を殺し。
「……終わりかな?」
言葉と共に、魔王が交差させた双剣を頭上から降り落として来た。
ーーーナメんじゃないわよ!
腕を振り上げ、手甲から生えた竜爪で大剣の刃を受けたレヴィは、そのまま体を捻って右足を振り上げる。
横向きに体を回転させて、踵が狙うのはサマルエの顔。
振り下ろした踵落としは相手が体を半身にずらして避けられるが……お互いに絡めた尾を支えに、レヴィは蹴りの軌道を変えて、足刀でサマルエのこめかみを捉えた。
だが、浅い。
「へぇ、やるなぁ!」
擦れて切れたこみかみから紫の血を流しながらも、サマルエは怯まずに笑みを深くする。
逆に脇腹を蹴り上げられ、その威力を殺し切れないまま吹き飛ばされた。
「……!!」
「ほーら、僕とクトーの遊びに割り込んできたんだから、もっと根性見せなよ!」
絡めた尾を逆に利用され、グッと引き戻されたレヴィはそのままもう一度、みぞおちに膝を貰う。
「……ッ!?」
腹の中で何かが爆発したような、凄まじい衝撃。
左の大剣を地面に突き立てたサマルエにそのまま喉を掴まれ、レヴィは息を詰まらせた。
「カッ……!」
「ハハ……へし折ってやろうか?」
大きく目を見開くと、視界に、サマルエの歪んだ口元と首筋が見える。
ーーー調子に……乗ってんじゃないわよッ!?
ギシギシと噛み締めながら牙を剥いたレヴィは、左のニンジャ刀でサマルエの首筋を狙った。
「おっと、まだ元気だね!」
あっさりこちらの首からサマルエが手を離し、そのまま距離を取ろうと絡めた尾を解いた瞬間。
ーーーここ!!
レヴィは翼を羽ばたかせ、斜め下に自分の体を叩きつけるように加速し、大剣を引き抜いて地面を蹴った魔王に追従する。
両手から双刀を離し、足に走る衝撃を膝で殺し。
サマルエの胸元に潜り込んだレヴィは、右の拳を腰だめに握り込む。
「ーーー!?」
ようやく、敵の顔から笑みが消える。
「この……!」
ーーー絶対ぶち込むッ!!
サマルエが振り下ろした大剣が、こちらの頭を狙うのに構わず、レヴィは拳を握り込む。
そこに込めるのは、託された全て。
捻り切るようにひねった上半身を動かすのは、培った根性。
バネのように弾け、反転する動きに満たすのは……必中の、意思。
「ーーー《破壊振の……拳》ッ!!」
レヴィが突き抜いた拳は。
魔王の腹を捉え……手甲の竜爪が、鎧ごとその腹を貫くと。
兜の額当てに【真龍の大剣】が、食い込んだ。
※※※
「ガ……ァ……!」
高速の戦闘が終わり、二人のスキルが解除された瞬間。
クトーは、レヴィの拳がサマルエの腹に突き刺さり、逆に大剣を額に受けている姿を目撃する。
「……!」
「この、クソガキ……!!」
魔王に蹴り飛ばされたレヴィが吹き飛び、宙を舞うが……彼女は、生きていた。
体を捻って足から地面に着地し、しかしそのまま、ガクン、と膝をつく。
クトーは、レヴィを案じる気持ちを、唇を噛んで押さえ込みながら、地面を蹴った。
ーーーまだ、終わっていない。
魔王は動きを止めていた。
腹の傷に紫の龍気が集まりかけているが、確実に傷を負っている。
この機会を、逃すのは、愚策中の愚策。
レヴィの兜が割れ、地面に落ちると……彼女は首を曲げ、苛烈な意思を込めた目で、こちらを見ていた。
やりなさいよ、クトー、と。
だから、足は緩めなかった。
心配でないわけがない。
意識はあるが、本当に無事なのかも分からない。
それでも。
今を逃せば、レヴィの努力の全てが、無駄になってしまう。
故に。
「よくやった。後は、任せろ」
そうとだけ告げて、クトーは膝をつくレヴィの横を、駆け抜けた。




