剣闘士は、ボーナスのためにおっさんの代わりを務めるようです。
「……どこいった?」
光が収まった後。
ギドラが周りを見回して呟くのに応えず、ヴルムは誰が消えたのかを確認していた。
クトーとレヴィ、ミズチ、リュウ、そして神々と魔王サマルエ。
「多分、『夢見の洞窟』辺りだろうな。……ダリィことになった」
先ほどのトゥスとティアムの呪文を聞いて、ヴルムはそう推察し、その場にしゃがんで肩に【闘剣】を担ぐ。
夢見の洞窟そのものでなくとも、ここではない、また別の異空間に跳んだのはほぼ間違いない。
「ぽんぽんぽんぽん、禁呪級の魔法ばっか使い倒す化け物ばっかでヤバ過ぎんだよな……クトーさんもキレてたし……あぁダリィ……」
ヴルムが憂鬱になっていると、ズメイがカブトの頬当てをガシャリと上げて、心配そうな顔をして呟く。
「大丈夫スかね……まともに戦えるの、クトーさんとミズチだけスし、レヴィも……」
「わかんねーな。普段のクトーさんならヤベェかもしんねーが、あの人が魔法全開の装備で全力戦闘してんの、一回も見たことねーしな。ダリィ……」
出来れば、勝つ方法を探るために見ておきたかったが、と思いつつ、ヴルムは汗の滴る髪を掻き上げる。
そして、ズメイのもう一つの心配を言葉にして否定してやった。
「多分だが、移動したのはほとんど戦力外の俺らを気にせずクトーさんが戦えるようにするためと、レヴィのためだろうな」
「レヴィの?」
ギドラが散っていたレイドの面々と負傷者を手招きで集めながら、こちらを見下ろしてくる。
「ここ、時間の流れが『下』と一緒だしな。夢見は違ぇだろ。少しでも死ぬまでの時間稼ぐための方法があるか、別の目的か……」
魔王まで巻き込んで、神二柱で発動した魔法なら、別の魔法……例えば自分たちを王都に飛ばすような転移魔法なんかを使っている余裕はなかったのだろう。
「出来りゃ、使って欲しかったがな。俺らごと王都に戻してくれりゃ最高だった。ダリィ……」
「何がダリィんだよ……お前、まだ魔王と戦りたかったのか?」
「そりゃお前の方だろうが。ダリィのはそこじゃねーよ……クトーさんもレヴィも竜のチビもいねーなら、どうやって俺らこっから王都に戻るんだよ……」
「「あ」」
二人がようやくそれに気づいたようで、声をハモらせる。
そもそも転移魔法が使えるのはクトーらであり【転移の札】もない。
ましてこの帝城は落ちている最中で、今のままなら地面に叩きつけられて城ごと死ぬ。
と、そこまで考えたところで、ヴルムはふと気づいた。
「つーか、振動が収まってねーか……?」
「言われてみれば」
「そうスね」
ヴルムはノソリと、カバン玉から【風の宝珠】を取り出して通信を入れた。
「ジグ、ルー。お前ら終わったのか?」
四つの飛行装置とやらに向かっていた面々の一角に声をかけると、通信がきちんと繋がった相手が答える。
『おう、ようやく繋がったな。超絶ダンディな俺サマの活躍でこっちはオーケーだぜ?』
「何がダンディだ。おせーんだよボケ」
『何だよ、嬉しくねーのかい?』
「あー、ちょっと待っとけ。クソダリィ……」
自分たちより上のメンツが誰もいないせいで、ヴルムがわざわざ折衝のようなことをやらなければいけない。
しかしやらなければ、後でクトーにボーナス取り消しを食らうのは明白で、それは余計にダルい。
ーーー前門のダルみ、後門のダルみだ。
ギドラとズメイ、他一人の宝珠を使って他のエリアも確認する。
「ジグ」
『ヌフン。西はルーがタコ殴りだよぉ』
「ディナさん」
『南の敵は排除した。我は勝手に帰投する』
「あー、聞く必要もねーが、ケイン翁」
『ホッホ、手応えもなくてつまらん連中だったのう』
全員が、無事に飛行装置の起動に成功したようだ。
なら、今すぐ落ちる心配はない。
だが、グズグズしていて向こうの決着がついた時、この帝城がある異空間がどうなるかは分からない。
「ケイン翁、悪いっすけど、下から竜騎隊連れてきてくんねーっすか。ジグ組とセイ組は、大広間に戻ってこい」
結局、時間勝負だ。
それぞれの返答を聞いて通信を切ったヴルムは、その場で寝っ転がった。
もう動きたくない。
「ああダリィ……とりあえず、俺らに出来ることはもう後一個しかねぇ……」
「何だよ?」
ギドラがその場に座り込んであぐらをかくのを見ながら、ヴルムはかすかに笑みを浮かべた。
「決まってんだろ。むっつりで、守銭奴で、変人で、頼りになる、自称雑用係様の勝利を願うことだよ……」




