少女たちは、竜の勇者を援護するようです。
「オォオオオォ!!」
リュウが振り下ろした大剣に対して、ブネは左腕を掲げる。
衝突の瞬間のみ拮抗したが、相手の瘴気による防御を突き破り刃が腕に食い込んだ。
『一本、くれてやる』
剣が腕に半分食い込んだ状態でブネが振り払うと、左腕が砕け散った。
軌道を逸らされた剣先は白仮面のかすめるに留まり、逆にブネがこちらの頬を狙って右のフックを叩きつけてくる。
首を捻り、ツノの根元の一番硬い部分でそれを受けたリュウは、頭を揺らす衝撃に耐えながら、左手を大剣の柄から離した。
そのまま白仮面を真正面から握り締め、急降下の速度をさらに上げる。
「地面に叩きつけてやらァ!!」
だが、リュウが床の直前で急上昇に移行するのと同時に手を離すと、ブネの体がトプン、と地面に沈み込み、手応えがなかった。
ーーー《闇渡り》。
おそらくは自分とリュウの影を使って、その中に潜り込んだのだ。
「クソめんどくせェ……が」
隙は生まれた。
リュウは急上昇の勢いのままに、魔王の繭に狙いを定める。
もし影に潜んでいるとしても、もうブネにリュウの突撃を防ぐ方法はない。
大きく翼を広げ、リュウは再び大剣に竜気を込め始めた。
※※※
レヴィは、リュウの動きを目で追いながらラードーンに迫っていた。
ーーー抜けた!
少し足を引っ張ったが、ここでレヴィ自身が邪霊将を防ぎ切れば、リュウを阻む者はもういない。
ラードーンは案の定、リュウに向かって手をかざして何かの魔法を行使しようと動き始める。
『《屍肉……』
「させるわけないでしょ!?」
地面ギリギリを滑空するむーちゃんの上で身を起こしたレヴィは、パシリと逆手に握り直した三叉槍を、紫の肌を持つ太った化け物に向かって投擲する。
ラードーンの腕を三叉槍が貫いて魔法の発動がキャンセルされる。
『小娘ェ……! 〝怠惰に染まれ〟……!!』
相手にも意地があるようだった。
ラードーンは忌々しそうな顔で体勢を崩しながらも、さらに魔力の波動を解き放つ。
闇の上位弱体化魔法。
死霊術師の職種についている者が扱うものよりも、さらに大規模な範囲に広がった魔法の影響を受けて、レヴィはズシリと体に重い疲労のようなものを感じた。
むーちゃんの動きも鈍る……が、魔王の繭に迫るリュウの速度は落ちない。
ーーー効かなかった!!
弱体化魔法は、彼に対して影響を及ぼしていなかった。
「そのまま行って、むーちゃん!」
猫耳ニンジャ姿に変化したレヴィは、足のガーターベルトに埋め込まれたカバン玉の中から数本の投げナイフを引き抜く。
白い宝珠の力を受けて一本がニンジャ刀に変化するのと同時に、レヴィはむーちゃんの背中から跳んだ。
逆手に握った右のニンジャ刀と、左手の指の間に挟んだ投げナイフ。
「《弱点看破》ォッ!」
空中に在る一瞬。
敵の弱点である〝核〟が、ハッキリと目に映る。
体を蝕む弱体化の倦怠感を気力でねじ伏せ、レヴィは投げナイフで牽制した。
打ち払うラードーン、だが飛び降りた勢いのまま宙を飛んだレヴィは、体ごとそのガラ空きの喉元を……そこにある〝核〟をニンジャ刀で貫く。
柔らかい……肉ではなく、スライムのような軟体に刃が埋まる感触。
が、刃先に〝核〟を捉えた手応えがない。
『ホホ……読めてるのよねん!』
「ッ!」
レヴィも、気づいていた。
貫く直前に、体内にあった〝核〟の位置が動いたことに。
弱体化魔法を受けていなければ、という『もしも』を考える間もなく、ビュル、と粘着質な音を立ててラードーンの体が変形して幾本もの細い触手を生み出し、肉に取り込むようにレヴィを縛り付ける。
腐臭に似た匂いと、締め付ける気色の悪い圧が体に掛かる。
「こ、の……!! 勝手に人の体に触ってんじゃないわよ!!」
『ホホ……このまま体内に取り込んでやるのねん!』
頭以外は動かせない状態で、レヴィがチリッ、と頭の中に焦燥感をよぎらせた時。
ーーー動くな、レヴィ。
落ち着いたクトーの声が、頭の中に響き渡った。
※※※
クトーは前線へと駆け抜けながら、戦局を冷静に見極めていた。
リュウは抜けた。
レヴィはラードーンを抑えた。
ーーーブネは、どこだ?
魔力の不自然なさざめきを感じ取ろうと、意識を研ぎ澄ましたクトーは【風の宝珠】を通して前を征くタクシャに呼びかける。
「タクシャ殿。……リュウの影に潜んでいます」
『承知しました』
タクシャが、右に剣を振ると、残りの七星達が反応する。
「〈風踏みの舞〉ッ! Foo!!」
「「〝潜伏〟!!」」
マナスヴィンが《舞闘》の技によって宙高く駆け出し、アーノとシャザーラが【時の宝珠】の力を使って姿を隠す。
同時に、無防備なリュウの背中を狙って、片腕を失ったブネが地面に落ちた影の中から飛び出した。
ーーーミズガルズ殿。ラードーンを。
ーーー言われるまでもない。
もう一人、タクシャと並走していたミズガルズに共鳴を通じて呼びかけると、彼はゴソリと魔導具を取り出した。
北の帝国の切り札、【転移の札】である。
「〝跳べ〟!」
起呪と共にミズガルズの姿がかき消え、ラードーンの背後に跳ぶ。
ーーーレヴィ、動くな。
クトーが心の中で呼びかけると、レヴィがピタリと動きを止めた。
ギラリと目を輝かせたミズガルズが、ラードーンに向かって剣を振り上げると同時に。
マナスヴィンによって跳躍を阻まれて落下し始めたブネに向かって、タクシャが仕掛けた。
「《痛恨の一撃》ーーー」
「ーーー《会心の一撃》」
二人の武人が、裂帛の気合いと共に放った一撃は。
まごうことなく、それぞれに狙った相手の体を捉えた。




