竜の勇者は、攻勢に打って出るようです。
リュウが【真竜の大剣】を叩きつけると、ブネは手のひらで軌道をいなしてカウンターで腹に拳を叩き込んできた。
ーーーこの野郎……ッ!
腹に竜気を集約し、力を込めて受けると、拳撃のダメージそのものはさほどでもない。
【真竜の鎧】と一体化した人竜形態は、そもそもが魔王と互角に打ち合えるだけの強度を備えているのだ。
まして今は〝超越活性〟ーーー肉体の超回復能力を最大限行使している状態である。
単純な実力で言えばブネは格下であり、その上、リュウは自由な飛翔が可能、という圧倒的なアドバンテージを備えていた。
だが厄介なのは、もう一人の四将である邪霊将ラードーンの援護だ。
『ホホ……』
ラードーンが、眼球のない目でこちらを見る。
すると、地面を蹴って飛び上がったブネが放物線の頂点に達したところで、空中を揺らめかせてその足元に魔物が出現した。
膝をたわめたブネがその魔物の背に足を置き、蹴り砕きながら再度、こちらに向かって跳んで来る。
おかげで、リュウは魔王を包む結界の直前で先ほどから足止めをされていた。
「テメェ、退けやァッ!!」
『貴様も、身を包む闘争の高揚に身を委ねれば良い。俺は、本気の闘争を望んでい……』
と、美貌の白仮面で顔を隠したブネが、喜びを滲ませた声音で口にした言葉を不意に中断し、両腕を重ね合わせた。
すると、背後から空を裂いた雷の弾丸が、咆哮のような音の余韻を伴ってブネの防御に叩きつけられ、相手の体が跳ね飛ばされる。
『ヌゥ……!?』
ブネを直撃したのは、クトーの援護射撃である。
炸裂と同時に相手の全身を包んだ雷撃の威力は、鉱物の外殻に阻まれて効果を為していないが……確実な隙が生まれた。
「レヴィ!!」
周りを周回して隙を伺っていたレヴィは、リュウの呼びかけに即座に反応した。
「むーちゃん! ーーー《竜騎突撃》!!」
『ぷにぃ!』
むーちゃんの背に伏せるように体を前に傾け、【三叉槍】を構えたレヴィが、急角度で旋回して吹き飛んだブネに突進していく。
聖水気を込めた槍先が青く輝くと、彼女とむーちゃんの全身を包むように尾を引いて流星の如き速度で駆け抜けるが……。
『〝屍肉行進〟……』
レヴィの直線軌道上にゾンビ型の魔物が直列で並ぶように連続で現れ、彼女と衝突する。
グジュグジュグジュッ! と柔らかい肉を数体串刺しにして槍の先端と柄の半分が埋まり、続く数体で突撃の威力が緩む。
『ホホーーー〝屍肉塊魂〟』
さらにラードーンが、手のひらを上に向けてレヴィに向けて腕をかざすと、今度は彼女を包み込むようにゾンビらが出現し、群がるように組み合わさって球体を形成して行く。
「ッ!」
リュウは舌打ちすると、掌に竜気球を形成してゾンビの球体に撃ち込んだ。
スッ、とゾンビらの隙間にそれを潜り込ませ、拳を握り込む。
竜気が炸裂し、レヴィを包んでいたゾンビの群れが吹き飛ぶ。
だが、それは思った以上の威力で炸裂した。
「あ?」
目を凝らすと、どうやら包まれたレヴィ自身も全身から聖水気を放ってゾンビを吹き飛ばそうとしていたようで、図らずも練気連携攻撃になったらしい。
ーーー余計なお世話だったか。
リュウは軽く手を上げて謝意を示したレヴィに対して軽く頷き、地上にいる魔将たちを指差す。
ブネやラードーンを相手にしている場合ではないのだが、奴らを放置して結界に向かっても、突破の力を溜めている間に邪魔される可能性が高かった。
ーーーさっさとぶっ殺して、魔王の野郎をドツく。
リュウは、あの結界から危険な兆候をヒシヒシと感じていた。
精神的に繋がった女神ティアムのものか、それとも自分自身のものかは分からないが……ザラリとした予感が頭の片隅に居座っているのだ。
それが、時間を追うごとに強くなって行く。
ーーー何か、取り返しのつかない事態が起こりそうな予感が。
「オォオ……!!」
リュウは、地上に着地した後に再びこちらに向かって飛び上がろうとしているブネを見据えて、肩に大剣を担ぐ。
全力で生み出した竜気によって大気が震え、ビキビキとさらに牙と頭の角が鋭く、長く伸びた。
ーーー1発で終わらせてやらァ……ッ!
温存など考えず、城の床ごとぶち抜くつもりで。
リュウは、地面を蹴ったブネに対して、急降下するように自ら向かって行った。




