三バカは、相手の自爆を抑え込むようです。
傷口から瘴気が吹き出す現象。
それは、魔族が深い傷を受けた時に起こるものである。
だが……ハイドラは、まだ生きていた。
「テメェ、ダリィ位しつけぇな……!」
『我ガ、命、ハ、陛下ノ為ニィ……!!!』
文字通り、最後の力なのだろう。
いきなり青かったハイドラの肉体が真っ赤に染まり、ビシビシビシ、とひび割れると、溶岩の如き熱を持つ紫の体液がそのひび割れから流れ出る。
そこから覗いた胸元のコアが、あまりにも強烈な輝きを放っているのを見て、ヴルムは思わず口元を引きつらせた。
「自爆……!?」
「下がって下さいス!!!」
同様に気づいたズメイが、戦槌に固定したまま大楯を構えてスキルを発動する。
「〝覆え〟!!」
土の封印結界がその巨体を覆い尽くすと同時に、ハイドラが塵と化しながら巨大な火球となってゆく。
ミシミシミシ、と防御結界が軋む中で、どんどん火球の圧が増していく。
「無理だ……」
体はどんどん消滅していくが、まだコアが潰れていない。
最後の一撃で、結界が崩れれば。
「俺も抑える……!」
飛び退いていたギドラは、ズメイの横に並んで両手に風気を溜め込み始めた。
結界が崩壊した瞬間に風の攻撃スキルをぶつけることで、全方位に広がる爆裂の威力を少しでも削ろうというのだろう。
「結界が弾けたら、反対に向かって撃つ……ヴルムッ! 分かってんだろうなぁ!?」
「当たり前だろうが……クソダリィ」
最後の最後まで、手を掛けさせてくれる。
ヴルムは極限まで研ぎ澄ました集中力で、剣先に炎気を凝縮した。
二人の体の間を、針の穴を通すような細さで。
「……!」
一切、動きに無駄のない刺突はーーー光の筋に似た細さで土の結界を小さく穿ち、狙い通りにコアを貫いた。
ーーーウゥルォオオオオオオオ…………!!
臨界に達する前に崩壊したコアが、それまでに溜め込んだ威力を解放する。
ズメイの結界のひび割れから漏れ出し始めた炎が高く吹き上がり、その分少しずつ爆裂の威力が削げていく。
やがて、結界が限界を迎えて崩壊した瞬間。
「《剛竜……烈破》ァ!!!」
バカのひとつ覚えだが、同時にそれだけ愚直に練り上げ続けたギドラの技。
それが解き放たれた瞬間。
ーーーヴルムは、ギドラとズメイの間に体を割り込ませ、肩を掴んで自分の後ろに突き飛ばした。
「……!?」
「炎に一番耐性があんのは、俺だろうが。……ああ、クソダリィ」
両手を広げた姿勢のまま、全身から炎気を吹き上げながらそう呟いたところで。
ギドラの攻撃が殺しきれなかった爆裂の威力が、ヴルムの全身を襲った。
※※※
「ーーー〝防げ〟!」
ハイドラの体が爆裂四散する直前。
全身から吹き出した炎気は、背後の二人をかばうためのものだった。
クトーは、とっさに左手でピアシング・ニードルを放った。
ヴルムの足元にそれが突き刺さった瞬間、呪玉が崩壊し、不完全ながら活動した防御結界が彼を包み込む。
完全に間に合ったかどうかは微妙なタイミングだったが……吹き荒れた炎と爆風が晴れた後、そこには少なくとも、人の姿を保ったヴルムの姿があった。
全身から煙を上げているが、彼はゆっくりと動き出し、こちらを振り向く。
顔は焼けて真っ赤になっており、火傷そのものは軽くはない。
それでも、生きている。
「ボーナス……コイツらより色つけて下さいよ?」
そう言い終えた後、眠たげな目がぐるりと白目を剥き、ヴルムが倒れ込む。
「良いだろう。……ミズチ。ヴルムを回復してやってくれ」
「はい」
ズメイが担ぎ上げてこちらに運ぼうとするのに、返事をしたミズチが駆けていく。
ヴルムのことも心配だったが、他の戦場もまだ気が抜けない。
クトーは、タクシャのオルター・エゴと対峙するミズガルズの方に目を向けた。




