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おっさんたちは、王都への降下を開始するようです。


 ーーー冒険者パーティー【ドラゴンズ・レイド】。


 魔王を打倒した勇者リュウが率いる、所属者全員がSランクという、名実ともに最強の大規模冒険者パーティーである。


 魔王退治後は、小国連宗主国王都にパーティーハウスを構え、魔王打倒後も数々の武勲を打ち立てている。


 一時魔族に支配されていた宗主国の復興に尽力し。

 大飢饉を生み出す危険のあった【ビッグマウス大侵攻】に迅速に対応。

 

 冒険者ギルドの緊急依頼のみならず、迅速性はないが脅威度の高い依頼に専属で対応。

 

 後に、魔王軍残党が暗躍していた温泉街クサッツでこの目論見を破壊。


 王都内に潜伏していた魔王軍四将最後の生き残りを始末し、王城の地下に眠っていた古代遺跡を踏破。


 守護の聖結界構築理論やゴーレム技術の進歩に多大な功績を残した他、得た遺物より古代に滅んだはずの聖白竜種の復活に尽力。


 さらに、魔王軍残党により中枢を乗っ取られた帝国へパーティー単位での単独潜入を行い、対魔族連合軍を帝国内へ先導。


 のみならず、帝国内での内乱を画策し、帝国七星と呼ばれる領地支配者を次々に併呑。


 半数を味方につけた後、帝都への侵攻を行った。


 そして現在、異空間を構築しパーティーを誘い込んで、無数の魔物を解き放った上で小国連宗主国へと攻撃を仕掛けた魔王軍残党に応戦。


 魔物開放後に不気味な沈黙を保つ帝城と宗主国侵攻へ対応するため、レイドを中心とした分隊が本隊を離れて先行する。


 それら全ての行動の影に、表の資料ではレイドの末席に名前が記されているだけの男の存在を、知る者は少ない。


 ―――最強パーティーの雑用係、クトー・オロチ。

 

 ありとあらゆる『雑用』をこなす【ドラゴンズ・レイド】の参謀(ブレーン)は。

 仲間と共に、魔物の群れを突き抜けて宗主国の王都に降下を始めていた。

 

※※※


 地上に開いた大穴の上で、クトーらを乗せた騎竜兵隊は円陣を組み、その外側を鳥人たちが囲んで守っていた。


 穴は帝城だけでなくその周りを囲んでいた城壁や庭園と同じ程度の面積があるようで、端が霞んでいる。


 巨大で深い穴を作る岩盤の地層は、眺めるだけで恐怖を感じそうなほどだ。

 しかし、その底に広がる景色はさらに不可思議なものだった。


 ーーー大地の下に大地が見える、というのは不思議な感覚だな。


 普通であれば、穴というものは深い暗闇か、土の底を見せるものだ。


 だが今そこに広がっているのは、巨大なバケツの底を抜き、空から地上を眺めているような光景だった。

 

 真下に広がっているのは当然、小国連宗主国の王都……クトーたちが居を構える都である。


 穴の下の地上にも無数の空飛ぶ魔物がおり、羽虫のように王都の周りに群がっていた。

 だが、聖結界に阻まれて中には入れていない。


 王都の軍も反撃を始めているようで、いくつか交戦しているような様子が見えた。


『準備が整いました』


 騎竜兵隊の隊長の言葉に、クトーはうなずいて合図を出す。


「第一陣、降下開始」


 声に合わせて、編隊の中央にいたワイバーンたちが頭を下に向けて王都を目指して急降下していく。


 本来の降下は翼を広げて足先からゆっくりと降りていくものだが、その速度では魔物たちに攻撃を受けてしまう可能性があったからだ。


 『聖結界に突入後の急制動』が可能かどうかを問いかけた時、隊長は『可能です』と自信のある口調で答えた。


 彼らにとって、王都は庭だ。

 すぐ近くにあるワイバーンたちを飼っている山までは聖結界に覆われていないので、総員降下後、そちらの状況を確認する予定だった。


 ーーー心配はないと思うが。


 王都を守っているホアンとその配下たちは、無能ではない。


「第二陣、降下」


 次の準備が整ったのを見ながら、クトーが合図を出すと、今度はレイドの面々を乗せた者たちが降りていった。


 鳥人部隊、並びにリュウ、そして自分とレヴィを乗せたむーちゃんが第三陣で殿しんがりである。


 全員で一緒に降りるのではなく順次降下していくのは、背後からの攻撃を防ぐためだ。

 鳥人たちはそれぞれに背中を守るように、魔物たちを中に入れないことだけを念頭に置いて飛び回っている。


 こちらの方がいかに練度が優れていても、数の違いは圧倒的なのである。

 

 錐のように編隊を組んで、襲ってくる魔物たちを速度で振り切り、勢いで退けながら第一陣が聖結界に突入したところで、クトーは最後の合図を出した。


「第三陣、降下。リュウ」

「分かってるよ。行くぜェ!」


 グ、と体が沈みこむような感覚と共に、レヴィが操るむーちゃんも降下に入る。


 周りで飛び回っていた鳥人たちも、こちらに集まるように固まって飛んでくる中、一人残ったリュウが赤く輝く大剣を横薙ぎに振るった。


「ずぉらァ!!!」


 ブン、と振り抜かれた軌跡から炎が巻き起こり、赤い竜の尾に似た形に変化しながら魔物たちを焼き払う。


 〝竜尾陽炎リュウビカゲロウ〟と呼ばれる、リュウの最大範囲攻撃である。

 

 クトーの魔法と同様に敵味方の識別ができる類いの技ではないので滅多に使わないが、ある程度の時間稼ぎには最適の技だ。


 一時的に敵の侵攻が止み、パチパチと爆ぜながら魔物の死体が炎の雨のように地上に堕ちていく。


 そのあたりで、高速で周りを流れていた穴の絶壁が、フッと消えて視界が一気に広がった。


 大穴を抜け、王都の上空に達したのだ。


「クトー! 王都の上にいる魔物どもがこっちに気づいたわよ!?」

「分かっている」


 むーちゃんの上で尾の方を……つまり上空側を向いているクトーは。


 今度は空に開いているように見える大穴と、そこから降りてくるリュウ、さらに後方に見える帝城から、第一陣・第二陣の降下部隊を目にしたことでこちらを認識した魔物たちに意識を移した。


 自分たちを点だとすれば、そこに向けて収束するように、空の魔物たちが群がってくる。


 複数の魔物が魔法を行使する様子を見せたところで、クトーはあらかじめ告げておいた。


「鳥人部隊。今から魔法攻撃が来るが、背後を振り向くな」

『聞こえたわね?』


 クトーの指示に被さる鳥人族の長、ルシフェラの声に、鳥人たちが鳴き声で答えた。

 鳥人は人語の他に、空での合図を行うための特殊な声帯を持っているのだ。


 そこで、敵から魔法が放たれた。


 大半は炎と風のそれだ。

 相性のいい属性同士であるため、相互に干渉して多重魔法と同様に空中で見る間に威力を増していく。


 ーーーだが、むしろ好都合だな。……リュウ、防げよ。

 ーーー何する気だ、お前!?


 頭の中で問い返してくる彼に、答えがわりに魔法の名を告げてやる。


「〝風鏡よ、裂け・・〟」


 ーーーッテメェ!


 一つの巨大な塊と化した魔法に向かってクトーが構築したのは、風の中位に当たる反射魔法である。


 眼前でズォ、と渦を巻いた風が炎を伴う魔法を巻き込み、二つに割り、むーちゃんの両脇でそれぞれに巨大な円を描く。


「返すぞ」


 敵自身により倍加された威力を持った魔法を風の動きで操ったクトーは、軽く【死竜の杖】を振るった。


 すると、渦を巻いていた魔法が弾けるように拡散する風に乗って、花火が広がるように無数の炎弾となって逆に敵を襲い……。


 リュウの作り出した炎の雨に、轟音とともにさらに無数の炎球が加わった。

 

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