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おっさんは、騎竜兵の手を借りるようです。


 リュウとエティアが激突した直後、クトーは騎竜を駆ってエティアの頭上に回り込んだ。


 そのまま両翼を上下に傾けて、むーちゃんが横向きに旋回を始める。

 クトーは竜体を足で挟み込み、左手を首筋にかけて体を支えると、強い風に目を細めながらエティアを観察した。


 中央の首と本体はリュウを相手にしているが、両肩と尾にある頭はそれぞれに独立した動きをしているようだ。


 周りを飛び交うレイドを乗せたワイバーンたちを攻撃し、また自分に向けられた散発的な攻撃を結界を張って防いだり、ブレスによって反撃を加えたりしている。


 【死竜の杖】を向けたクトーは、タイミングを見計らって魔法を放った。


「ーーー〝引き裂け〟」


 風の中位魔法。

 圧縮された風刃球をエティアに向けて射出すると、激突の瞬間にリュウが急下降する。


 腕を振るっての一撃を空かされて前のめりになったエティアが、嵐のように弾けた刃風に巻き込まれた。


『ヴォ……!?』


 風魔法は右肩の犬頭をズタズタに引き裂いたが、他の部分や右肩の鳥頭、尾の蛇頭は一切傷ついていない。


 引き裂いた犬頭も、傷ついた場所に纏う瘴気が濃くなったかと思うとジュクジュクと肉が盛り上がってすぐに再生していく。


 ーーーやはりな。


 反撃として放たれた土石流のブレスに、ぐるりと首の向きを変えたむーちゃんが水のブレスをぶつけて弾き逸らす。


 むーちゃんの動きによって生まれた乱流に煽られて、銀縁メガネのチェーンがしゃらしゃらと鳴った。

 振動でズレたメガネのブリッジを押し上げつつ、クトーは【風の宝珠】に向けて語りかける。 


「総員伝達。ザッピング・デヴィル同様、エティアも属性無効の性質を持っている。おそらく右肩の犬頭には『風』属性、左肩の鳥頭には『火』属性、尾には『水』属性の攻撃が有効だ」


 クトーはそれぞれの頭が放つブレスの種類、そして今の風魔法によって頭の持つ性質を推察して伝えると、ミズチが質問を戻す。


『ザッピング・デヴィルのように、性質変化が起こると思いますか?』

「おそらくは起こらないが、警戒はおこたるな」


 クトーは空中の戦況を見回して、余裕がありそうな部分からレイドの面々をピックアップする。


 悪魔どもも未だに壁の向こうから現れており、鳥人たちが随従してくれているとはいえ、じっくりと相手をしている暇があるわけではないのだ。


「……ギドラ、ヴルム。手を貸せ。ミズチは後方待機。こちらの指示に合わせて水の浄化魔法を」


 おそらくエティア本体の属性は闇であり、観察の結果、常に瘴気による障壁を纏っていると判断した。

 リュウとも渡り合えるタフさを、エティアが保っている理由の一つだ。

 

 ーーー引き剥がしてやろう。


「瘴気障壁を抜いた後、熱膨張と収縮による外殻の弱体化を狙う。その後、リュウの一撃で〝核〟を破壊する」


 おそらくは前回同様、エティアの〝核〟は胸元にあるはずだ。

 頭部と違い分厚いため、ただの一撃では届き切らない可能性があった。


 クトーは周りの戦列を抜けた者をチラリと見回した。

 抜け出したワイバーンは全て、王国龍騎特務隊の意匠をつけた竜具を身につけている。


 飛竜の特徴。

 意匠に使われた色合い。


 それらを把握しつつ、クトーは帝国に仕掛ける前に提供された資料の中にあった騎兵の名前と照らし合わせた。


 飛竜を駆る者は、一匹の竜と長く共に在り、馴らし、そして絆を育む必要がある。

 つまりワイバーンが分かれば、乗り手の名前も分かるのだ。 


 ギドラを乗せている騎兵の名は。


「ーーー竜騎特務二番隊第十四騎、チェンザォ伍長」

『!? ……はっ!』


 いきなりクトーに名前を呼ばれたからか、息を呑むような気配を見せたが返事をした騎兵に、続けざまに指示を飛ばした。


「ギドラと共に、こちらの合図に合わせて犬頭を狙ってほしい。それまで常にエティアの上空に位置していることは可能か?」

『可能です!』


 断定的な返答と共に、チェンザォのワイバーンが風を受けてブァッと上空に舞い上がる。


 資料には、相手にわざと追わせた後に、急上昇と急降下で後ろを取る〝捻り込み〟が得意だと記されていた。

 騎竜兵としてはまだ歴が浅く階級も一番低いが、空戦を行う魔物への撃墜数キルスコアは熟練兵と同じ程度あるはずだ。


 ギドラと気が合いそうな、突撃型の性格をしていそうである。


「竜騎特務一番隊第五騎、ヘイア伍長」

『……は』


 続いてヴルムの騎乗するワイバーンの騎手に呼びかけると、落ち着いた低い声が返ってくる。


 一番隊の小隊を纏める伍長位にある彼は、名実ともに熟練の戦士であり、ビッグマウス大侵攻の際も最前線偵察、及び村落を襲うマウスの掃討において多大な戦果を挙げていた。


 乗っているワイバーンも、他の者たちより一回り大きい。

 顔を見たことはあるはずだが、向こうはおそらくこちらの事を覚えていないだろう。


「鳥頭側の隙を突いて、ヴルムと共に破壊して欲しい。ただし、タイミングは犬頭の破壊と間髪を入れずに。少し難しい注文だが……」


 犬頭の破壊を行うチェンザォと動きを合わせて、かつヴルムとの連携も取らなければならない。

 戦場の状況にも左右される、一番難しい部分を任せることになるのだが。


『お任せください。……我々一人一人の名前まで覚えていて下さっているとは、光栄です』


 言いながら、ヘイアはエティアとの戦闘に巻き込まれないようにその周りを舞い始める。

 彼が最後に口にした言葉に、クトーは眉をひそめた。


「ーーー俺の事を覚えているのか?」


 宝珠には乗らない程度の声音で、思わず口に出してつぶやいたクトーに。


 ーーー現王即位前やビッグマウス侵攻戦を知る兵で、クトーさんの事を知らない人の方が珍しいですよ。


 ミズチが、そう意識共鳴で言葉を返してくる。


 クトーはその言葉に首を傾げたが、即位前は特に兵の数が少なかったし、ビッグマウス侵攻戦でも物資運搬作戦に従事していれば知っていてもおかしくはないか、と思い直した。


 ーーー言っておきますけど、ただ顔を知っている、という意味ではないですよ?


「む? ではどういう意味だ?」


 ミズチが先回りしたように含み笑いをしたので、ますます眉根を寄せてしまう。

 が、答えを聞く前にクトーは続けた。


「いや、今はいい。……始めるぞ」


 全員が配置についたのを確認し、クトーは改めて全員に呼びかける。

「無茶はするな。……これが最終戦ではないからな」


 ミズチを含む三騎から、了解、とそれぞれに返事があり……クトーが合図を出すと同時に、チェンザォのワイバーンがスッ、と沈み込むように頭を下に向け、エティアに対して急降下を仕掛けた。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] クトーはまだ己の評価引くいんかw そこら辺が今後の課題? 本人はどうでもいいことなんだろうなw
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