おっさんは、少し自覚が芽生えたようです。
「レヴィが『腕』を潰したか」
繋がった視界でそれを見ていたクトーは、ザッピング・デヴィルの頭を貫いて砂と化した彼女の動きを評価した。
ーーー『水』に変える手段と、防御に関してはまだ甘いが。
それさえきちんとしていれば、満点に近い動きだった。
Sランクの魔族を、高く見積もってもBランク程度の二人とともに葬った。
ーーーこの件が終われば、特例措置があり得るな。
まだDランクのレヴィだが、最低でもBランク、下手をすればAランク、Sランクへの特進がありえる。
そうなれば、リュウですら成したことのないギルド設立以来初の快挙だ。
ーーーレイド末席程度の俺では、まるで育てたなどという立ち位置には見合わんな。
ルーミィの言う通りである。
ノリッジとスナップの成長は、最初に出会った時から見れば破格のもの。
そこに関しては、彼女の手腕や自負は決して自惚れではない。
才のある者しか育てないのではない。
自ら育つ者だけが、周りに残っているだけなのだ。
「……だが」
クトーは自分のメガネを押し上げて、目の前の戦場に目を向けた。
「見合わないなりに、応える気概は持つべきなのだろうな」
今までのレイドの者たちは、年少年長に関わらず『同じ立ち位置にいる仲間』だった。
しかしレヴィが『育てられた』と思っているのなら、クトー自身の気持ちに関係なく、見合った振る舞いをするべきだ。
クトーは頭が固い。
自分の評価を上げることは、自分自身では出来ない。
あくまでも補助が得意な雑用係に過ぎない、という心持ちを変えることは不可能だが。
「……お前は、初めて〝弟子〟と呼んでいい相手だったのかもしれん」
彼女は気付いているだろうか。
最初はそうだったとしても、自分が今、ほとんどクトー自身と同じ思考で動いていることに。
そして、もう弟子という立ち位置は卒業してもいい段階に入っていることに。
貪欲に学び取ったレヴィは、クトーの中に信頼を積み重ねた。
ーーーリュウ以外に、もう一人の相棒と呼んでも差し支えないほどに。
クトーは、同じ情景を見ているだろう仲間たちと、そしてレヴィに呼びかける。
「総員、伝達。地上で『腕』を撃破。残るは現在『闇』の翼と『火』の尾……そして『地』の足だ」
仲間たちが意識の中で応じるのを感じながら、クトーは続けた。
「『足』を『闇』に変え、空中の二体を撃破する。その後、バラウールとレヴィで『足』を撃破しろ」
レヴィの『聖』は盾主体なので、どちらかといえば防御寄りだ。
だが『火』の剣舞士に変われば、バラウールの『聖』と『火』でそれぞれ『闇』に対して有利が取れる。
『翼』と『尾』に対しては、それまで極力刺激をしないように仲間たちには伝えていた。
レヴィ側で属性変化が起こって、彼女の計画が狂ってはいけなかったからだ。
「やるぞ」
合図の号砲は、クトー自身が上げるべきだろう。
レヴィにはこちらを見ている余裕がないかもしれないが、彼女の行ったことを完璧な形でこなす。
それをもって、レヴィへの返答とするつもりだった。
【五行竜の腕輪】にプールしていた器を起動し、同時に【死竜の杖】を構える。
「〝清めろ〟ーー〝呑め〟」
光の中位浄化魔法と、水の中位圧縮魔法の二連撃。
『闇』に翼を光のヴェールが、『火』の尾を内圧を高める水の球がそれぞれに包み込む。
『火』は『光』との親和性が高い。
『水』は『闇』にとって親和性の高い属性なので、そのままではそれぞれの属性を入れ替えることにしかならない。
だが同時に、『地』は『水』に優位が取れる。
それぞれに拒絶反応を示したザッピング・デヴィルの属性が、狙い通りに変わる。
「翼は『火』、尾は『地』だ」
消去法で、地上にいる『足』は『闇』になった。
「仕掛けろ」
クトーの合図とともに、それまで我慢していた仲間たちが一斉に飛竜とともに二体のザッピング・デヴィルに猛撃を叩き込む。
「ーーー〝剛竜烈破〟ァ!」
地上で『門』を守っていたギドラが、溜めに溜めた必殺の一撃を『地』の尾に撃ち放ち。
「〝濁流の呑竜よ〟!」
同じく『門』の維持で戦線に参加出来ていなかったミズチが、水の上位魔法のよって生み出した水竜で『火』の翼を喰い殺す。
ォオオオオォオオォォオオ……と、亡者の怨嗟とともに二体の魔族が砂と化した。
クトーはむーちゃんと共に、リュウが一人で相手をするエティア・ブネゴの元へ向かう。
デストロを元にしたザッピング・デヴィルと違い、不気味なほどに沈黙したまま戦っている巨大個体は、どうやら魂が失われているように見えた。
以前相手にした時よりも力は遥かに増しているようだが、意思や狡猾さ、戦いに対する熱望といったものが一切感じられない。
アレが本当にブネであれば、あり得ないことだった。
狂気的なほどに明晰で、戦いに飢えていた魔族だったのだ。
でなければ、ザッピング・デヴィルと連携を取り、もっと苦戦していてもおかしくはない。
あの時、ブネの魂は本当に魔王に喰われたのだろう、と考えるには十分だった。
相手側に残っているのがブネと同格の四将だけということを考えれば、復活は望めなかったのだろう。
「だが、姿だけ模した偽物ではこちらを削ぐには足りん」
地上でレヴィが『足』を始末すれば、彼女を拾って、今度こそ帝都跡に開いた大穴に向かうのだ。




