少女は、仇敵の悪魔の気を引くようです。
レヴィは、二体のザッピング・デヴィルに向かって駆け出した。
が、すぐにノリッジとスナップが付いてこれなくなったので速度を落とす。
「遅いわね!」
「テメーが早すぎるんだろうが!!」
「だいたい、どうやって攻める気だよ!?」
ノリッジが歯を剥き、スナップが問いかけてくる。
「とりあえず、私が囮になるわ」
最悪、『世界樹の騎士』の姿になれば、一撃で殺されることはないだろう。
「その隙に攻撃しなさいよ。後、弱点属性以外は効かないみたいだから、注意しなさいよね」
「効かねぇってのはどういう意味だ!?」
「無効化されるんじゃない? あんたたち、属性は何だったっけ?」
「俺もスナップも、どっちも『地』だよ」
その言葉に、レヴィは舌打ちした。
「別々じゃないなんて使えないわね! そんなところまでムダに仲良くなくて良いのよ!」
「ンだとぉ!? 自分で決めれるもんじゃねーだろうが!!」
「相変わらずクソ生意気だな!! 攻撃当たんねーくせに!!」
「いつの話をしてんのよ!? もう当たるわよ!」
やっぱりこいつらは気に食わない。
早まったか、と思っていると、レヴィにさりげに難なく付いてきていたバラウールが、ボソッと言った。
『オレも『地』と『聖』だぜ?』
「聖属性の攻撃は効くってクトーが言ってたから、あなたは良いのよ。ノリッジとスナップをサポートしながら戦ってもらえる?」
『結局オレの仕事はお守りかよ』
二人を見やって肩をすくめる器用なゴーレムに、ノリッジとスナップが怒りの表情で睨みつける。
「ゴーレムまでバカにしやがるだと……!?」
「誰がテメーにお守りされるかってんだよ!」
『はん。そういう連中ほど半人前だっっつーの』
生まれてまだ一年経ってないはずのバラウールは、本当になぜこんなに偉そうなのか。
クトーともまたタイプの違う、世話好きのおっさんのようなゴーレムなのである。
輪の中に突出したレヴィたちは、『腕』と『足』の前で立ち止まる。
前衛にレヴィとバラウール、後衛……というか遊撃に、剣と斧を構えるノリッジとスナップという布陣だ。
魔法を使える者が欲しかったところだが、今更考えたところで仕方がない。
そこで、ザッピング・デヴィルたちの意識がこちらに向いた。
怨嗟の声を上げていた全身に浮かぶデストロの顔が、一斉にこちらに視線を向ける。
『覚エノアル気配ィ……?』
『レヴィィ……』
『ノリッジィイイ……』
『スナアァアップ……』
オォオオ……と撒き散らされる圧に、ノリッジとスナップが息を飲んだ。
緊張した面持ちを見せるが、それでも身が竦むというほどではないらしい辺り、かなり成長したのは間違いないようだ。
「て、て言うかレヴィ! お前の属性は何なんだよ!?」
「風に水、火に地、聖まで使えるわよ?」
問われて答えると、二人が一瞬理解出来なかったように黙り込み。
「「………………は????」」
と声を重ねた。
「いや、ありえねーだろ!?」
「お前魔導師じゃねぇよな!?」
「使えるもんは使えるのよ! どうでも良いわよそんなこと!」
大体、使えたところでいつでも役に立つとは限らない。
今回に限っては有効に使えそうだ、というだけの話である。
「とりあえず私とバラウールで気を散らして攻撃するから、それまで周りでかき回して」
ズン、と『足』が一歩を踏み出してきたのに、まずバラウールが応えた。
硬い拳に聖の白光を纏わせて、同じように一歩を踏み出す。
その様子を見ながら、レヴィは『腕』の動向を伺いつつ言葉を重ねる。
「あいつらのどっちかが『水』属性に変わったら、行きなさいよ?」
それは『地』で弱点をつける属性である。
「おま、そんな簡単に言うけどよ……! 属性が変わったかどうかなんて、俺には分かんねーぞ!?」
「大体、一人でアレの攻撃をしのげんのかよ!?」
「あら、本当に変わったわね。人を捨て駒扱いで囮にするのは、得意中の得意だったじゃない」
鼻でせせら笑うと同時に、レヴィは地面を蹴って巨大な拳を大きく振り上げた『腕』に向かってトン、と地面を蹴る。
すると、攻撃の気配を感じたノリッジとスナップも、合図もなしに左右に割れて走り出した。
「昔のことは忘れろ!」
「いつまでもねちっこいヤツだな! 謝ったし、荷物も返すって言っただろうが!」
ルーミィの訓練はよほど地獄に近いものだったのだろう。
昔とは比べものにならないほどに滑らかな動きだ。
もっとも、二人からもこちらはそう見えているのかもしれない。
そんなことを考えながら、レヴィは不敵に笑った。
「覚えてるなら、思い出しなさいよね! ーーー昔組んでた時、私が戦闘で傷なんか負ったことなかったでしょ!?」
デストロと一緒に戦っていた時、囮だったレヴィは攻撃こそ当たらずバカにされていたが、前に出て避けることに関しては最初から上手かったのである。
一人で『足』と対峙したバラウールは、敵が振り下ろした踵落としを両腕を重ねて受けていた。
だが、こちらに意識を向けている余裕はあるようで、声を上げる。
『そっちを先に始末すんのかい?』
「ちょっと間任せるわ!」
『おうよ!』
レヴィ、ノリッジ、スナップの三人は『腕』を囲うように散開していた。
拳を振り下ろそうとした『腕』に、レヴィは投げナイフを打ち放つ。
『風』を纏ったナイフはまっすぐ『腕』の正面にある白い仮面に向かっていく。
それを嫌ったのか、振り上げた片腕で払った敵は、レヴィに狙いを定めたようだった。
『レヴィィイ……』
『レェヴィィイイ……』
好都合。
そう判断したレヴィは、あえて足を止めてノリッジたちに呼びかける。
「属性変化は私が分かるから、ちゃんと伝えるわ! ヤバくなったら自力で逃げなさいよ!?」
「アホか! 誰が逃げるかっつーの!」
「そんなんで生き残ったところで、どっちにしろ姉御に殺されるわ!」
ーーーよっぽどルーミィが怖いらしい。
「なら、仕方ないわね。死なない程度に身は守って、デストロに勝つわよ! クソ野郎ども!」
「クソ野郎って言うんじゃねーよこのド貧乳が!」
「そうだぞザコレヴィ! 口先だけだったのはテメーの方だろうが!」
レヴィはそれ以上言い返せなかった。
振り下ろされた『腕』の拳を、跳躍して避ける。
叩きつけられた地面から発生した衝撃波は『地』属性だったが、片腕ではレヴィの跳躍に届かない程度の規模だった。
どうやら、両腕を使わせないこと、が大事になってくるようだ。
ーーーラージフットよりは強いみたいだけど、似たようなもんね。
あの魔物もデカイ腕をボンボコ振り回していた。
周りを駆け巡ったところでザッピング・デヴィルは目を回さないだろうが……。
ーーー弱点は、絶対あるはずよね。
「〈弱点看破〉!」
スキルの発動と共に目を凝らしたレヴィには、薄ぼんやりと光る『腕』の頭が見えた。
自分の技量ではこの辺が限界のようだが、あの辺りに魔物特有の弱点……〝核〟があるのだろう。
レヴィは、『腕』の攻撃を引きつけて避けながら、頭の中で戦略を組み立て始めた。




