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おっさんは、少女のワガママを察したようです。


 上位魔族の一団は、最外壁の上空を越えた辺りで変化を見せた。


 ザッピング・デヴィルたちが全身を蠢かせ、その体に無数の顔が浮き上がる。




 ーーーそれらは全て、デストロの顔をしていた。




 オォオォオォオォオオオオオォォォ……と一斉に怨霊の呻きを上げ始めると同時に、その中に幾つかの声が混じる。


『許セネェ……』

『ドイツモコイツモ俺ヲ馬鹿ニシヤガッテ……』

『俺ヲ殺シヤガッテ……!』

『クトー・オロチィ……!』

『竜ノ勇者ァア……!!』


 撒き散らされる怨嗟と瘴気。

 その中に、デストロの記憶(・・・・・・・)が混ざり始め、強烈な幻視(ヴィジョン)になって脳裏に浮かんでくる。


※※※


 ーーーー幼い頃、里に訪れた勇者の一団。


 英雄になることを望み、血気盛んなデストロはその中にいる弱そうな一人の男を見つける。


 まだ、メガネを女神に与えられる前の……魔王を倒す前の、クトーを。


 『その弱っちそうな男を倒したら、代わりに仲間に入れてくれ』と決闘を申し込んだデストロを、リュウはおかしそうに受け入れ。


 クトーが放った木刀のたった一撃で、デストロは土を舐めることになった。


『……お前の負けだ。約束通り、パーティーに入るのは諦めろ』


 淡々とそう告げたクトーに、自尊心も、勇者パーティーに入るという輝かしい未来も打ち砕かれ……歪みを抱えたまま、デストロは冒険者になった。


 ノリッジやスナップと出会い。

 それなりに冒険者としてやって行っていたが……やがて太った商人に扮した魔族と出会い、名誉を求める心につけいられた。


 強大な力。

 満たされる自尊心。


 与えてくれた相手に感謝しながらその手先として働いていた時に……騙して利用していた馬鹿な小娘と、それを拾ったクトーに再会した。


 どす黒い感情を押さえつけながら、彼を嵌め、今度こそ殺すために動き。

 結果、逆に騙されて勇者に命を奪われた。


※※※


『許セネェ許セネェ許セネェ……!!』


 デストロの感情と記憶を知ったクトーは、黙ってメガネのブリッジを押し上げる。


 ーーー愚かだな、デストロ。


 クトーは、記憶の片隅にあったその少年のことを思い出した。


 筋は悪くないようだったが、軽率で、人を侮る態度と。

 何よりも、身の丈以上の虚栄心に支配されていた幼い少年。


 その微かに思い出されたその面影が、二度だけ顔を合わせたデストロと重なる。


 レヴィだけでなく、彼には自分とも因縁があったらしい。

 やがて大人になり、仲間を得ても……デストロは変われなかったのだ。


 そこで不意に、レヴィが静かに口を開く。


「……ねぇ、クトー。講義してよ」

「む?」


 同じ幻視を、彼女も感じたのだろう。

 むーちゃんの背の上で、こちらを振り向かずにデストロを見つめたまま、レヴィは言葉を重ねた。


「……あの、デストロの顔したヤツの特徴と対処法は?」

「あれはザッピング・デヴィルという上位の悪魔だ。ランクはS、だが強さそのものはAランクの悪魔とそう変わらない」

「じゃ、何が違うの?」

「《同源異体どうげんいたい》と呼ばれる特性を持っていることだ」


 この魔族は複数体で一個体、という状態にある。

 しかも『本体に対する分体』ではなく『四つ全てが本体』……つまり本体を倒しても消滅する類の魔物ではなく、どの個体を残しても、復元する暇を与えると復活してしまうのだ。


「厄介ね……」

「要は、本体ではなく通常の魔物と同じように四体全てを隙を見せずに倒せばいい、というだけだが。問題なのは、連中は繋がった個体同士で属性を交換することだ」


 現状、あの四体がどんな属性を持っているかは分からないが、『地』『水』『火』『風』『闇』『雷』のいずれかの属性を備えている。


「交換されるとどうなるの?」

「連中は、弱点属性の攻撃しか受け付けない。『地』なら『風』、『火』なら『水』といった具合だ」


 ーーー故に〝交換する悪魔(ザッピング・デヴィル)〟なのである。


「その特性を探り、弱点属性で攻撃する必要があるが……」

「交換されると、こっちも攻撃する属性を切り替えないといけないのね」

「そういうことだ」


 本来であればパーティー内に四種全ての弱点を突けて、Aランクの魔物を屠れる者がいなければ手も足も出ない。

 戦士系の者たちは一属性しか扱えず、魔導師では一撃必殺が難しいからだ。


 幸い、こちらには現状豊富な人材と、多属性を扱える魔導師がミズチや自分を含めて幾人もいるが。


「例外的に、魔族なので『聖』属性は有効だ」

「……あの形態、硬いけど動き鈍るから、使い勝手がイマイチなのよね……」


 元来|高速機動(ヒット&アウェイ)スタイルを得意とするレヴィにしてみれば、防御重視タンクスタイルの聖騎士状態は相性が悪いのだろう。


「なら、どうしようもなくなったら〝亀〟になれ。耐えている間にどうにかする」


 クトーが告げると、レヴィは驚いたように振り向いた。


「何で私の考えてることが分かったの?」

「わざわざ講義しろ、などと自分から言ってきておいて、何を言っている?」


 おそらくレヴィは、デストロとりたがっているとクトーは判断していた。


「やらせてくれるの?」

「なぜだ?」

「……その、急いでるから……」


 自分のワガママだと、認識しているのだろう。

 だが。


「レイドの連中が、本気で心を決めたら止めても聞かんのは、大昔から身に沁みている」


 レヴィもその一人だ。

 デストロと彼女の因縁は、冒険者になって一番最初の因縁である。


 そうした相手を前にした時に、どうしても自分でやりたいと思うのは自然なことだろう。

 その程度のことは、クトーにも分かった。


「だが、手短に決めろ。多少の遅れは許可する」

「ありがとう」

「では、見ていろ。今からとりあえず現状の特性を探る」


 クトーはレヴィの肩に手を掛けてむーちゃんの上に立つと、杖を【双竜の魔銃】に変化させた。


 周りの魔物たちはルシフェラの〝群れ〟が引きつけてくれている。


 そして未だ怨嗟の声を上げるザッピング・デヴィルと、逆に不気味なほどに静かなエティア・ブネゴもこちらを察しているのか、滞空したままワイバーンの一団と向き合っていた。


「ーーー総員、伝達! 今から弱点ツボを探る。それぞれの個体特徴を認識! 『翼』『腕』『足』『尾』の呼称で区別する!」


 悪魔の肉体の中でも異様に肥大化した部位で分けるのが一番分かりやすいだろう。


「属性切り替えを視認した者から、逐次こちらに連絡を寄越せ! リュウ!」


 横に浮かんで大剣をぶら下げたリュウは、ビキビキと竜気を増して全身を鱗で鎧いながら、やる気満々で笑みを浮かべる。


「分かってるよ。俺が一番前だろ?」

「ああ、ブネを押さえろ。ザッピング・デヴィルはこちらで始末する」


 本来なら、どの個体に対しても有効な攻撃手段を持つリュウをザッピング・デヴィルの方にぶつけたいところだが。

 

 慣れない空中戦、かつ相手が四将級である最大級の個体となれば彼以外には荷が重いだろう。

 

 それをきちんと理解しているリュウは、チラリとこちらに目を向けた。


「おう、レヴィ!」

「はい!」

「デストロの方は任せてやるから、ミスんなよ!?」

「……はい!」


 竜騎士の兜を手で直し、レヴィが槍を構え直したところで。


「行くぞ。ーーー状況開始!」


 クトーは、魔銃の引き金を絞った。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] また古いやつが出てきやがったなw しかもめんどくさそう レヴィの活躍に期待! 可愛いというか凛々しくなるのかなw
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