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北の王と腹黒七星は、目的達成に足をかけたようです。


 ーーー現世への道、第二門。


 ルシフェラの〝群れ〟よりもさらに巨大な連隊が、一列になって門をくぐり抜けて上空に舞い上がった。


 緑や青、赤の鱗を太陽がないのに明るい空から降り注ぐ日差しに煌めかせ、腕の代わりにかぎ爪を備えた翼を生やす勇壮な生物……ワイバーンの群れだ。


 それぞれに頭部や腹部を覆う鎧を身につけ、背中に備えたくらの上には全身鎧に突撃槍を備えた者、竜騎士たちが跨っている。

 彼らの鎧は帝国軍のものであり、竜体を挟んでいる足から覗く肌が黒い。


 敵を乱して味方の戦列を整えたミズガルズは、剣を地面に立ててその光景を見上げていた。


「ふん、帝国東部守護の竜騎兵隊か」


 クトーの言っていた追加の航空戦力の正体は帝国内部の兵らだったようだ。


 ーーーどうやって取り込んでいるのか知らないが、奴はそこにある戦力を利用するのが上手い。


 そんな風に思っていると、クトーの要請を受けた直後に第四門の前に同様に下がらせたルーミィが、同じように竜騎兵を見上げて声を漏らす。


「初めて目にしますが、なるほど、潤沢な航空兵力ですね」

「空さえ荒ぶる土地でなければ、我々としても欲しいところではあるがな」


 竜は基本的に寒さに弱いため、一年の半分が雪に閉ざされる土地ではどうにも運用しようがない。


「高山に住まう黒龍でも捕らえて、訓練するか」

「それが可能であればこの上ない戦力ですね。Aランクの魔獣、それも人類に敵対的である龍を調教して従えるなどという話は聞いたことがありませんが」

「ならば我らが前例になれば良い。寒さに強いといえば、スノウ・キマイラもいるな」

 

 ただの軽口だが、この件が終わったら考えてみる価値はあるだろう。


「あれと〝群れ〟がいれば、空の心配はないな。壁内への侵攻に移行する」

「クトーの合図は待ちますか?」

「突入口を広げてくれるというのなら、無視する手はない」

「畏まりました」


 そこでルーミィが【風の宝珠】に向けて、各軍への伝達を行い始める。


「第一門守護部隊。第二門の者たちと合流しながら後退せよ。増援とかち合わないように注意しながらな。小国連宗主国竜騎兵隊、志願者20騎で後方に向かえ。その後【ドラゴンズ・レイド】の指揮下に入るように」


 的確な指示ゆえに、ミズガルズは口を挟まなかった。


 ーーーこれだけの連中を指揮する権利を、全て惜しげも無く委譲する……その判断の速さも奴の武器だな。


 なぜあのような男が名声も求めず、覇を志すこともなく、たかが1パーティーの参謀に収まっているのか。


 ミズガルズには、まるで理解できなかった。


 その気になれば、世界征服でも容易に成し遂げそうな男だ。

 神に類するモノたちに愛され、勇者と共に在り、強者がこぞってその側に群れ集う。


「クトー・オロチ……アレに名誉欲がないことこそ、現国家群最大の幸運なのかもしれんな」


 そう独り言をつぶやきながら、ミズガルズは現世への道、第一門に目を向ける。

 

 ーーーそちらからは、帝国北東部に位置する黄色人種領と、獣人領の混成軍が姿を見せ始めていた。


※※※


 黒装束を身につけた、神に恭順する兵士たち。

 獣人領七部族の中でも強壮な者たちで構成された獣人群。


 さらに彼らが一糸乱れず魔物の群れに突入する中、左右からは影のように戦場の中に散っていく者たちがいた。


 帝国七星第六星シャザーラに従う、鬼の忍者部隊である。


 彼らが門から出切った後。

 黄色人種領辺境伯にして帝国七星第七星であるア・ナヴァ……短刀使いの少女アーノは、戦場を見回してから後方に向かっていく竜騎兵に目を止めた。


 そちらから強大な者たちの気配がするので、あの辺りに【ドラゴンズ・レイド】の面々がいるのだろう。


 アーノは、シャザーラと共にジェミニの街の代理支配体制を整えた後、一緒に帝都に向けて南下したのだ。


 この戦闘には道中に開放した獣人の有志たちも参加しており、帝都を攻め落とせるということで協力してくれている。


「状況は悪くないみたいだね。小国連宗主国が人質に取られたのは予想外だったけど」


 突入前にクトーからもたらされた連絡だが、彼は落ち着いていた。

 続いて姿を見せたシャザーラは、軽く鼻を鳴らす。


「奴ならばなんとかするだろう。……それよりも、帝城が浮いたという話だが、それはどうする気だ?」

「そうだね。突入に一手間かかりそうだ。上手いこと、バレないように入れないかなぁ」


 すると背後から現れた獣人領総領であるディナが、一つ提案してきた。


「竜人族は鳥人族同様、翼を持つ者や飛行能力を有する者がいる。少数であれば隠密に行動することは可能だが」


 彼女はハルバードを担ぎながら、虹彩の細い竜眼で、無表情に帝城が浮いているだろう方角を見つめる。


「魔族どもを突破することが可能かどうか、だな。羽虫のように煩わしいだけでは済まん数だ」

「ん〜……」


 ディナの言葉に、指先を下唇に当てて何かを考えたアーノは、悪戯を思いついた子どものような顔で笑う。


「じゃ、変装しよう」

「……なんだと?」

「シャザーラも、変化の魔法くらい使えるでしょ? ボクも得意なんだよね。……せっかくこれだけ粒ぞろいの戦場なんだから、せいぜい利用しないと」


 軽く目を細めた彼女は、小悪魔の仮面の下からチラリと冷酷な本性を覗かせる。


「ーーーボクたちの目的のために、ね?」


 シャザーラは黙り込み、軽く後ろに目を向ける。

 戦場の血しぶきが決して届かない最奥で、歯がゆそうにそれを見つめるやせ細った男を彼女は痛ましそうに見つめてから、うなずいた。


「そうだな」

「我ら獣人族は関係ない、と言いたいところだが……彼は恩義のある相手だ。最後まで付き合いはする」


 同じように男に目を向けたディナもそう口添えする。


「助かるよ。事が上手くいけば、後はクトーたちに魔族を倒してもらうだけだね」


 降り立った竜騎兵たちが、おそらくはレイドの面々を乗せて再び空に舞い上がるのを見上げて、アーノは笑った。


「あれだけ、ボクが読めない・・・・相手はなかなかいないよ。……予想外は、いい方向に起こして欲しいよね」

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 今のところはとても順調ですね。 ただ上手く行っている用に見えるのが”釣り野伏せ”でなければいいのですが……。
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